皇后陛下のお心遣いに感動

「今の私は、過去と現在に出会った人によって創られている。(いいも悪いも含めて)出会ったすべての人が私にとってかけがえない人」という里岡さん 撮影/渡邉智裕
「今の私は、過去と現在に出会った人によって創られている。(いいも悪いも含めて)出会ったすべての人が私にとってかけがえない人」という里岡さん 撮影/渡邉智裕
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 里岡さんはトップVIPの接遇を重ねるうち、ある共通点があることを見いだした。

「みなさま、私たちが気を遣う以上に、私たちに気を遣ってくださるのです」

 両陛下は、いつも笑顔でファーストコンタクトをしてくださる。他人に対する気遣いも随所に見られた。皇后陛下については、印象深いエピソードがあるという。

「皇后陛下が私に、『(新潟県にある)飛島(とびしま)をご存じ?』とおっしゃったのです。私は、飛島(とびしま)か鳥島(とりしま)か聞き取れず、 “鳥島でございますか?” と申し上げると、 “ううん。ジャンプの飛島” とおっしゃられたのです。ジャンプという言葉を添えることで、確実に “飛島” だとわかります。私がまた聞き間違えないようにとご配慮に満ちたお優しいお言葉でした」

 里岡さんたちが困らないように、問題が起きないように、さりげなく心配りをしてくださる皇后陛下。気遣いの神髄を垣間見て、そのお人柄に感動したという。

 小泉純一郎元首相も心に残っているひとりだ。

「私が接遇を担当したときは、当時の秘書官の飯島勲さんもいらっしゃり、おふたりでお話ししていたので、邪魔にならないように新聞などを補充すると、すかさず小泉元首相は “君、すごいね!” “君、よく見てるねえ” などと褒めてくださるのです。ケガを抱えながら優勝した貴乃花への “よく頑張った! 感動した!” など、ワンフレーズのメッセージが記憶に残っている方も多いと思いますが、まさにワンフレーズを的確なタイミングでおっしゃる方でした」

 接遇したトップVIPの中には、故・サッチャー元英国首相もいた。当時、60代半ばごろだったが、テレビで拝見するよりもはるかに美しく、抜けるような肌の白さに驚いたという。

「機内でお食事のご説明をさせていただいていると、私の説明をすっとさえぎり “これと、これだけでいいです” と。必要なことだけを、シンプルにおっしゃるところが印象的でした。また、接遇前に、上司から “マダム・サッチャー(サッチャー夫人)とお呼びするように” と指示されました。首相を退任されたばかりだったので、本来の呼称はレディー・サッチャー(サッチャー女史)のはずですが、あえて “マダム・サッチャー” を使うところに、サッチャー元首相のご主人への思いが込められているのではないかと感じました」