もの言う自由と運動つぶしが狙い

駅に掲示のテロ対策に関するポスターには市民の協力を求める一文が
駅に掲示のテロ対策に関するポスターには市民の協力を求める一文が
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 前述したとおり、そもそも共謀罪は、パレルモ条約の批准を目的に法制化される前提だ。過去3度の政府案に安倍首相が「喫緊(きっきん)の課題」と位置付けるテロの言葉はどこにもなく、また今回の法案も正式名称は『組織犯罪の処罰および犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律』。野党の追及を受けて、ようやく改正案に「テロリズム集団」の言葉が加わったものの、当初はひとつも表記がなかった。

 海渡弁護士が言う。

「パレルモ条約は暴力団やマフィア対策。麻薬の密輸や人身取引、金融機関に対する詐欺などの経済犯罪を取り締まるもので、テロ対策ではありません。条約の本文やガイドに、国内法の原則に基づいて法制化すればいいと書いてある。堂々と、批准しますと言えばいいんです」

 テロ対策に穴があるというのも「大嘘」だという。

「日本は、テロに関する国際条約はすべて批准ずみです。政府は共謀罪が必要な事例に、ハイジャックでチケットを手配するとか、サリンをまくときに原料を調達する段階で取り締まる法律がないと言っていますが、2つとも予備罪で罰せられます。共謀罪をテロ対策だと嘘を言うことで、むしろ本来必要なテロ対策の議論ができなくなってしまう」(海渡弁護士)

 内田名誉教授も、テロ対策は「あくまで名目」として、共謀罪では効果がないと断言する。

「テロを本当に取り締まろうと思えば徹底的な情報掌握が必須。しかし日本は、テロが多発するイスラム圏の情報を持っていません」

 共謀罪はテロに使えない。にもかかわらず新設しようとする狙いを、内田名誉教授は「戦争反対を含めた運動つぶし」と見る。

「テロリストに対しては役に立たないんだけど、おかしいじゃないかと声を上げる人たちを押さえつけるには、非常に有効な法律になっているからです」

 例えば沖縄では、共謀罪の先取りを思わせるような事態が進んでいる。新基地建設への抗議行動で逮捕・起訴された沖縄平和運動センター議長の山城博治さんが先月18日に釈放されたが、器物損壊容疑での逮捕以来、公務執行妨害などの罪状で再逮捕が繰り返され、5か月以上も勾留されていた。再犯の恐れがあるとみなした人を刑期終了後も拘禁した、戦前の予防拘禁を彷彿とさせる。

「やむにやまれぬ思いで工事を止めてほしいと訴える行為に対して、威力業務妨害なんだと。政府が基地反対運動をどう見ているか、よくわかる例。逮捕・起訴されているのはまだ少数ですが、共謀罪ができたら、座り込み抗議の現場にいた人、その場にいなくても、例えばカンパをしようと話し合いをした人たちは組織的威力業務妨害罪で摘発できます」

 と海渡弁護士。同様に、さまざまな市民運動がターゲットになりうる。

「脱原発の運動に、現職の公安刑事が忍び込んでいたことがありました。彼は情報収集が目的でしたが、これからはそこへ挑発行為が加わるかもしれない。実際にアメリカで、ベトナム反戦運動のとき、FBIが捜査官を大量投入して過激な方針を提起させ、それに応じて組織を一網打尽にして逮捕するようなことをやっていたんです」

 共謀罪がある限り、もの言う自由を封じ込めるおそれは尽きないのだ。