政治団体『一水会』の元最高顧問である鈴木邦男さんは不思議な存在だ。愛国者を自認するのに「憲法は変えないほうがいい」と言って右翼から怒られ、「愛国心はあやしい」とまで言う。森友学園問題をきっかけに最近、クローズアップされている「愛国と教育」について、鈴木さんに聞いてみた。

「一水会」元最高顧問・鈴木邦男さん

国家が強くなるほどひとりひとりは弱くなる

 50年ぐらい、愛国心に基づいた運動をやってきましたが、いいこともあったし素晴らしい人もいた。しかし同時に、でたらめなことをするのに愛国心に逃げ込んで、利用している人が残念ながらいるんですよ。

 例えば愛妻家とか、愛犬家だというのはわかる。犬も奥さんも実際にいる。でも愛国心ってわからない。国が証明してくれるわけではないですから。「俺は愛国者だ」と言う人にはいい加減だなと思う人たちが多かったし、森友学園問題を見ていてもそう思う。

 僕は純粋な意味での愛国心は必要だと思うんです。例えば、謙虚な民族だったことが素晴らしいとか、日本の日記文学は素晴らしいとか。でも、それは心の中で思っていればいい。

 ところが、愛国者の俺とあいつは違うとか、愛国者だから韓国は許せないと言って、よそに憎しみを向けて自分が愛国者であることを証明しようとしているのが、いまの愛国心。愛国者なのに、愛がないんです。

 近隣諸国と仲よくする。少なくとも戦争はしないという合意を取りつける。それがいちばんの安全保障。なのに、韓国、中国に負けるな、やっつけろ。軍備を強固にしろ、核を持てなんていう人もいます。国家が強くなったら自分まで強くなれたような錯覚を持つ。反対ですよ。国家が強く大きくなるほど、反対にひとりひとりは弱くなる。

 強い日本、強い憲法を作ろう、軍備を増強しろという男性は、自分たちのテリトリーに踏み込まれるのが怖い。女性に対してもそうです。企業でも政治の世界でも女性がどんどん強くなって、活躍するのを恐れている。昔は親父がしっかりしていて、お母さんはおおらかに支えて、子どもはお父さんの言うことをよく聞いた、それこそが日本の家庭だと言う。復活せよと訴える。女性天皇反対も同じ構図でしょう。右傾化って、要は男性化なんです。