「菌」「裁判」の隠語を使ったいじめ

 両親は、学校運営協議会にいじめ問題を相談、教育委員会には調査委員会の設置を要望した。いじめ対策推進法では、いじめによって自殺を考えたり、長期の不登校になる場合は「重大事態」として、学校の設置者が調査委員会を作ることになっている。

アンケート結果が記された学年だより。朋美さんへのいじめの事実を学校も認めていた

 しかし「いじめに関する条例がない」との理由で、設置されなかった。また効果的な学校の指導がされないまま、6年生を終えようとしていた。そのころ、主犯格の加害児童2人に対して、弁護士を通じて、警告文を出した。その後、しばらくいじめはおさまった。

 中学に入ってからもいじめは続いた。おかしいと感じた朋美さんが’16年12月ごろ、クラスの友人に聞くと、「俺はしていないけど“朋美さん鬼ごっこ”をしている(人たちがいる)」

 さらに担任の調査によって「菌鬼ごっこ」が判明。名前に「菌」とつけて、「鬼ごっこ」をしていたのだ。隠語や「裁判」という言葉を使い、悪口も言っていた。

 中1の夏休み前、朋美さんは国語の授業での作文で、いじめが現在でも行われていることを書いている。

《中学生になった私は一人になりました。私もがんばって友達をつくりました。ときどき、「朋美はいじめられていた」とうわさがながれています。まだいじめはつづいています》

 その作文を国語の担当教諭が夏休み中に採点、評価は「B」をつけた。4枚目で中学でのいじめが出てくるが、担任や学年主任の誰にも報告していない。

 この教諭は当初、作文を「途中までしか読んでいない」ため小学校時代の話と認識したという。だが、その後、「作文は読まなかった」と言い分が変遷した。「最初だけ読んだと言っていたが、現在の心境を知りたくなるはず。そうしないのは教員としてのセンスがない」(悟志さん)

 一方、学校は、いじめ発覚後、1年生全員の約120人(1クラス30人前後)にアンケートを実施した。

(1)菌鬼ごっこをしたり、いじめをした心当たりはあるか。
(2)いじめを見たり聞いたりしたことはあるか。
(3)今回のことをどう思うか。

 結果、(1)は11人、(2)は26人。その後、校長と担任が自宅を訪れ、朋美さんに謝罪したが、朋美さんは校長に対し「本当に(いじめ対策を)やってくれるまでは信用できません」とキッパリ。担任に対しても「何度相談しても“気のせいじゃない? 勘違いじゃないの?”と信じてもらえず、ショックでした」と言い、募る不信感を隠さなかった。

 不登校の日々が続いたために、両親は、朋美さんに対する学力保障を学校側に求めた。自宅に教諭が教えに来た。その際、国語の担当教諭も家を訪れた。震えながら謝罪する姿を見た朋美さんは、作文の件で理由が変遷したことに「学校に言わされている」と感じ取り、担当教諭と和解した。

 4月、調査委が設置され、ようやく調査がスタート。5月12日、朋美さんと両親は聞き取りを受けている。

 朋美さんは調査委設置が決まったあと、筆者の取材にこう話してくれた。

「(加害生徒には)なんで“菌”とつけたのか、ひとりひとりに聞きたい。いじめられたことで人とのコミュニケーションをしなくなった。授業には行きにくいけれど、LINEをくれる友達がいるので、部活には行きたい」

 朋美さんへのいじめで、「菌」の理由ははっきりとしない。しかし「原発事故由来ではないか」と両親は疑っている。原発避難者への無理解や偏見、冷淡さが背景にあり、それが朋美さんを傷つけた原因ではないか。私たちの社会についても疑ってみる必要がある。

<取材・文/渋井哲也>
ジャーナリスト。自殺、いじめなど若者の生きづらさを中心に取材。近著に『命を救えなかった―釜石・鵜住居防災センターの悲劇』(三一書房)がある