『怪物はささやく』●監督:J.A.バヨナ/出演:ルイス・マクドゥーガルほか/上映時間:1時間49分/アメリカ・スペイン/配給:ギャガ 2017年6月9日(金)より、TOHOシネマズ みゆき座ほかで全国公開 (c) 2016 APACHES ENTERTAINMENT, SL; TELECINCO CINEMA, SAU; A MONSTER CALLS, AIE; PELICULAS LA TRINI, SLU.All rights reserved.

 つらい現実が押し寄せ、八方ふさがりな状況に陥ってしまったら、どうやって抜け出せばいい? ときに映画はそんな絶望的な疑問への答えを教えてくれる。ファンタジー作品でよく語られるのが、想像力を駆使して物語の力を味方にする、という方法だ。

 この作品は、最愛の母親をがんに冒され、父とは離れ、学校にも居場所がない13歳の少年、コナーの物語。つらすぎる現実に向き合えない彼の心は、毎晩12時7分にやって来る怪物を生み出していた。巨木の怪物はコナーに寓意あふれる3つの物語を聞かせ、「4つ目の物語はお前が自分の真実を語れ」と迫る。怪物が求めるコナーの秘密とは?

 原作は、2人の作者によって生まれた傑作ヤングアダルト小説。『パンズ・ラビリンス』と同じプロデューサーのダーク・ファンタジーといっても、グロテスクな描写はほぼないのでご安心を。少年の現実と怪物との交流、水彩アニメーションを用いた“物語”を行き来する世界は、意外なほど入り込みやすい。なぜなら、ママの病気が治ることを必死で願いながらダークな“怪物”を呼んでしまう少年の葛藤が、物語を通してくっきりと浮き上がってくるからだ。

 人間ってすごく複雑な生き物だし、真実は思わぬ顔を見せるもの。それはコナーが苦手とするおばあちゃん(シガニー・ウィーバーがうまい!)の姿からもよくわかる。認めたくない真実を受け入れるには勇気がいるけれど、それを可能にして乗り越えさせ、癒しと希望をくれる物語の力はなんて素晴らしいんだろう。物語のもつ意味が説き明かされるにつれ、そこに秘められた愛情の深さに涙腺崩壊は必至。そして原作ラストにはない「もうひとつの真実」が、温かく、忘れられない後味をくれる!

文/若林ゆり