約2000人の観客を前に大声で「ほりこしかんげんでごじゃります~」と挨拶すると、客席からは割れんばかりの拍手と「成田屋!」「勸玄くん」とかけ声が。劇場で見ていた麻央さんはその姿を毎日のように目に焼きつけていた。

「普通にママらしいすることがこんなに楽しいとは」

 だが、彼女の体調は日を追うごとに悪化していく。'16年9月には、乳がんだけでなく肺や骨に転移していたことを明かしている。

昨年10月に退院してすぐ、幼稚園の運動会に参加したんです。麗禾ちゃんと勸玄くんを応援し、運動会が終わるとママ友家族4組くらいで、幼稚園近くのそば屋さんでランチ会をしたんです。

 久々に子どもたちやほかの家族と接して、“普通にママらしいことをすることがこんなに楽しいなんて思わなかった”って話していたのがとても印象的でした」(ママ友のひとり)

 全身全霊で子どもたちを愛した麻央さん。だが、幼い2人の“普通のママ”であることも、もはやかなわなくなってしまった。

「実は役者として成長していく中で、母の存在というのはすごく大きい。

 芸は父親から学びますが、ご贔屓筋との付き合い方や礼儀などは、母親から教わることも多く、妻をめとるまでは母が後援会を支えなくてはなりません。ゆくゆくは團十郎を襲名する勸玄くんの行く末を本当に心配していた」(前出・成田屋のご贔屓筋)

 そして、思い悩んだ末に彼女が始めたのがブログだった。

「同じがん患者を勇気づける目的もありましたが、“歌舞伎ファンやそれ以外の方々が、かんかんのお母さんになって支えてほしい”という思いもあったんです。

 日本中の人がブログを読んで、自分の息子のように勸玄くんを応援してほしい。そんな切なる願いを込めて、子どもたちをブログに頻繁に登場させたんですよ」(同・ご贔屓筋)

 “子どもを支えたい”という旅立つ母の精いっぱいの思いが、痛みと闘いながら日々、ブログを綴る原動力になったのだろう。

 彼女が残した9か月間の足跡はきっと多くの人の気持ちを動かしたはずだ。