介護保険はサービス抑制、自己負担増が続く。’18年から一部で3割負担へ引き上げも

「東京大改革」を掲げて、都議会の「伏魔殿」ぶりを白日に晒(さら)し、秘密体質の一掃に力を尽くす小池都政だけど、肝心の政策は「都民ファースト」と言えるのか? 小池都知事の政策を項目別に検証してみた。東京特有の高齢者の介護難民を救えるのか──。

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 小池都政下では、待機児童対策に重点が置かれる一方、高齢者の介護問題について独自施策をしているという印象は薄い。’17年度予算で見てみると、《子供を安心して産み育てられるまち》に1029億円。対して、《高齢者が安心して暮らせる社会》には346億円で、約3分の1だ。

 都民ファーストの会の政策パンフレットを見ても、待機児童は4番目だが、高齢者施策は7番目。しかもほかの項目には小池都知事の「実績」が書かれているが、高齢者施策の部分にはなく、「介護サービスを十分に受けられないことによる介護離職の増加、介護人材の処遇の低さ、介護事業者の不安定な経営などが課題」としているのみ。

問題は単身世帯の増加「しかも3人に1人が借家暮らし」

 では、東京特有の高齢化に関する課題は何か? 

 介護福祉ジャーナリストの田中元さんは「65歳以上人口の増加率は全国で13位ですが、そもそも人口が多い。そのため増加数は全国1位です」と話す。

 国立社会保障・人口問題研究所が’13年に発表した『日本の地域別将来推計人口』によると、東京都の65歳以上の人口は、’10年から

’25年までに64万人増加するとの推計だ。高齢化率は20・4%から25・2%にアップ。75歳以上の人口は約74万人増加、高齢者単身世帯の増加は全国を上回る。’25年には全国平均12%強に対し、東京は13・1%。さらに’35年には全国平均は13%にも満たないが、東京は15・8%と上昇することに。

「高齢の夫婦世帯はそれほど増加しませんが、問題は全国推移以上の単身世帯の増加。とりわけ住居をどう保証するのか」(田中さん)

 国勢調査(’10年)によると、65歳以上の単身世帯の持ち家率は全国平均64%だが、東京は50・8%と低い。民営の借家が29・5%で3人に1人は借家暮らし。地域から孤立しやすい。

 また厚労省の調査によれば、昨年4月時点で、特別養護老人ホームへの入居を申し込みながら入れなかった待機者は全国で36万6000人、うち東京は2万4815人。特養は要介護3以上が入所条件となるため、軽度者を含めれば「介護難民」はさらに増す。

 単身世帯であれ、夫婦世帯であれ、健康で元気であればなんとかなる。だが、何かしら支援が必要になったとき、それを担うだけのマンパワーが足りない。そのため、介護資格を持ち、現在は介護関連の仕事をしていない「潜在的介護者」の掘り起こし策を都も打ち出しているが効果の見通しはまだ立っていない。

 一方、都は5月末、少人数で暮らすグループホームに認知症型のデイサービスを併設する場合、1000万円の補助を行い、都市型軽費老人ホームを創設・買収・改修する際には補助金が出ることを発表。都の独自サービスは厚労省も参考にすることが多く、「お泊まりデイサービスのガイドライン策定などはその典型」と田中さん。介護保険外の自主事業だが、デイサービスの利用者がそのまま夜でも宿泊できる。

『混合介護』のモデル事業の行く末

 介護保険制度改革を推し進めるなか、政府の規制改革推進会議は、一部で認められてきた『混合介護』の拡充を求めている。混合介護とは、介護保険内のサービスと、保険外サービスを組み合わせて同時に利用できるようにすることを指す。

 都では、国家戦略特区を活用しながら豊島区と連携、’18年度からモデル事業が実施されることに。介護事業所の収益アップ、職員の賃上げにつながると期待する見方もあるが、

「問題はサービスの“押し売り”です。保険外サービスを利用すれば負担増になりますが、例えば、訪問介護の事業者から“オプションをつける”と言われると、介護を受けている側はなかなか断れないのでは?」(田中さん)

 この豊島区のモデル事業が成功すれば、全国へ波及する可能性が高い。介護の質の維持・向上や人材確保、低所得者対策をしながら、要介護者の尊厳をどう守っていくかが問われる。

取材・文/渋井哲也…ジャーナリスト。『長野日報』を経てフリー。自殺、いじめ、教育問題など若者の生きづらさを中心に取材。近著に『命を救えなかった─釜石・鵜住居防災センターの悲劇』(三一書房)がある