本連載では慶應幼稚舎をはじめとしたお受験事情についてお受験コンシェルジュ&戦略プランナーのいとうゆりこ氏が斬り込んでいる。今回は番外編ということで、幼稚舎に子どもを進学させた白百合学園のOGから聞いた話をもとに白百合学園幼稚園のお受験について深掘りしてみたーー。

白百合学園幼稚園(九段下)の外観

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 慶應義塾とは真逆で、出身者に厳しいのが白百合学園だ。

 今回、執筆するにあたって話を聞いたのが、慶應幼稚舎に子どもを進学させることに成功した白百合学園のOG。

 直近の過去10年のデータによると白百合学園幼稚園の募集人数「3年保育」45人、「2年保育」15人という枠に対して、母親が幼稚園もしくは小学校からの卒業生は毎年3人程度しか合格していないそうだ。

 毎年45人の枠に300人ほどが出願する。うちOGのご令嬢は50人あたりだというから、そのうち3人というのは割合にして10%にも満たない。

 このような結果になったのは、15年前あたりに現在の園長(女性)が就任してからなのだという。彼女の就任後5年間は、それまでと同様に受験したご令嬢のうち半分ほどは合格していたが、何かしらの原因があって門戸が狭まったようだ。

 しかし、それ以前に白百合学園が卒業生のご令嬢を嫌うのには理由があったーー。

■まずは白百合学園幼稚園の教育方針を見てみよう

 白百合学園ではモンテッソーリ教育を取り入れている。

 モンテッソリー教育とはイタリアの女性医学博士の一人でもあるマリア・モンテッソリーが開発した幼児教育法である。

 最近では、将棋界で最多連勝記録を更新した藤井聡太四段も、この教育方法を幼稚園で受けていたことで話題になった。

 この教育方法では「子どもたちに備わっている『自ら育とうとする力』を発展させる」のだという。その結果「集中力・自立心」を身につけることができる。ちなみに、通常の教育とは別に、玩具などを使って自主的に遊ぶ「お仕事」という時間で、これらの力を養うのだという。

 その一環で、白百合では椅子や正座で指先を使った「お仕事」を黙々と続けさせる。年少の子どもは30分間であっても、年長ともなれば2時間ノンストップで「お仕事」を続ける園児もいるらしい。凄まじい集中力だ。

 ちなみに、白百合学園幼稚園の園庭や体育館は小さい。在園児165人が遊んだり運動ができるスペースは皆無で、園児は外遊びや砂遊びをせずに、3年間の保育時間の大半を教室内で「お仕事」をして過ごし、系列の小学校へ進学していく。

 現在の園長は、この英才教育をうけた60人の精鋭を系列の小・中・高等学校に進学させ、東大などの難関大学に入れたいと願っているようだ。

■落ちる家庭・受かる家庭

 白百合学園高等学校から、東大や早慶に進学し、社会で活躍した白百合学園の名誉卒業生と、その卒業生が選んだエリートなご主人。

 こういった典型的な“成功例”は幼稚園入試で落とされることが多い。むしろ、はっきり言えば白百合は、このような夫婦と子どものことがあまり「好き」ではない。

 それは園の方針として、子どもたちがモンテッソーリ教育に初めて触れ、ゼロの能力で「お仕事」をすることをモットーとしているからだ。新鮮でキラキラした目で、初めてのお仕事に取り組み、覚え、持続する。これが教育者サイドの醍醐味らしい。

 優秀な両親を持つ子どもであれば、地頭が優れている場合も多い。こういった子の場合、先生が「お仕事」のやり方を教える前に初見で理解して自分で進めてしまい、“はいはい、もう分かる”と真剣にお話を聞かない。そして、課題を終えた途端に興味がなくなり、コロコロと「お仕事」を変えてしまう……。

 逆に合格するような家庭は、白百合学園の卒業生でも、白百合女子大やそのほか短大などに進学し、専業主婦になった社会人経験が少なめな母親。そして、父親もメガバンクや総合商社などに勤務するエリートサラリーマンでない場合が多い。いわゆる、“ごく普通の家庭”の両親が好まれる傾向にあるようだ。

■白百合に渦巻く“嫉妬”とは

白百合学園幼稚園を卒業した子どもたちは、そのまま同敷地内にあるこの小学校に進学する

 教員の中には、白百合の卒業生もいる。

 彼女たちは幼稚園教論資格を取得を専門としている短大や専門学校に進学していることが大半だ。こういった卒業生たちは、白百合系列の高校のなかでも学力的に最下層のグループであることが多い。

 '17年に白百合学園が公開している最新データでは、白百合学園高校から白百合女子大に進学した生徒は全172名中たったの9名。それ以外の多くは東京大学をはじめとする国公立大(18名)や私立大の医学・歯学部(35名)や早慶・上智(41名)などに進学している。

 一説によると、白百合を卒業した教員は、東大・早慶に進学してバリバリ仕事をしていた同級生や先輩・後輩には劣等感があり、その娘を預かり、娘だけでなく、保護者にも指導をするのは、嫌悪感があるのだという。

 保護者が白百合の卒業生でなくても、一流大学を卒業していなくても、有名企業で働いていなかったとしても、ある意味で公平にチャンスがあるのが白百合学園幼稚園のお受験なのだろう。

 ちなみに、子どもが幼稚園に受からなかったOGのうち多くは、小学校受験にも立ち向かう。しかも、そのうちの1/3くらいは落とされた恨みをリベンジするかのごとく、慶應幼稚舎(*慶應義塾大学の系列小学校のこと。詳しくは関連記事を参照)や青山学院、学習院など難関校からの合格を勝ち取っているケースも多いそうだ。

 結局、白百合幼稚園に合格して系列の高校まで進学したところで、生徒たちの多くは大学受験で東大・早慶などの難関大にチャレンジすることになる。

 やはり、合格と同時に大学までの進学が保証される(慶應)幼稚舎受験にはそれなりの価値があるのだろうかーー。


<著者プロフィール>
いとうゆりこ◎お受験コンシェルジュ&戦略プランナー。港区で生まれ育ち半世紀を過ごしている。自身の経験から美容や健康・芸能・東京に関するマネー情報まで幅広い記事を各媒体で執筆中。