全国の温泉を巡って30年以上、7500か所の温泉に浸かってきた温泉チャンピオンの郡司勇さんにとって、いい温泉とは? と聞いてみると、

「ひと言でいうと新鮮な温泉。源泉掛け流しが大事で、ろ過されたり、加水されて使いまわされていないこと。大地からの貴重な贈り物である温泉は新鮮だから身体にいいのです」

 今回は、郡司さんに「目的別、本当にカラダに効く温泉」はどこなのかを聞いた。

肌がきれいになる 美人の湯

 さっそく、女性がいちばん気になる美肌の湯からチェック!

 四万の病に効くと言われる群馬県・四万温泉はアトピーなどの皮膚病に有効。同じく群馬県・草津温泉も皮膚病に効果があり、美人の湯として知られる。

 そして、群馬県・万座温泉の泉質は酸性硫黄泉といい、硫黄成分が日本一多く、美白効果や美肌効果が高い。山形県・蔵王温泉は、1日8700トンのお湯を噴出。だから新鮮な掛け流し温泉で、泉質は強酸性硫黄泉。皮膚を健康にし、こっちも美白効果ばっちり。

 温泉もさることながら、建物にも注目したいのが、長野県・渋温泉の金具屋で、

「木造4階建ての建物が国の登録有形文化財に認定されています。絢爛豪華(けんらんごうか)な旅館も見てください」(郡司さん、以下同)

金具屋のローマの噴水を模した「浪漫風呂」

 九州に飛んで、鹿児島県・霧島神宮温泉の泥パックは、少しでもきれいになりたいという女性たちが押しかけている。

高血圧や動脈硬化内臓に効くのは

 北海道には約2300か所の源泉がある。その中でも、郡司さんがピックアップしたのが登別温泉で、その昔はアイヌの人たちが薬湯として重宝していた温泉だ。自然湧出量は1日1万トン、そして、多彩な泉質の温泉が涌き出しているのが特徴。

 そのひとつが酸性含硫黄泉で、毛細血管などを拡張する働きがあり、慢性気管支炎や動脈硬化などに効果が期待できる。

「登別温泉は全国でも10か所あまりしかない泥湯温泉のひとつで、地獄谷の奥の沢は、湯の川になっていて、底に泥が沈殿しているんですよ。上流部は熱いけれど、少し下って適温になったら、そこで入浴できます」と郡司さん。野湯(自然に湧いた温泉に浸かること)をすすめる。勇気がある人はトライしてみて。

 秋田県・乳頭温泉の、古い茅(かや)葺き長屋の風情が残る鶴の湯温泉も郡司さんお気に入りの温泉。「露天風呂の足元から、温泉が自噴しているんです」。つまり、新鮮なお湯である証(あかし)。

 栃木県・塩原温泉は源泉が150か所以上もあるので、湯めぐりして、いろいろな温泉を楽しみたい。

 静岡県の畑毛温泉は、30度台で湧出するぬる湯の温泉。源泉をそのまま使っているからぬるいので、そのぬる湯にじっくりと浸かることで温泉の効果が得られる。

 山梨県・増富ラジウムもぬる湯だが、「ここはラドンの含有量が全国屈指です。胃腸病や免疫力の落ちた人にすすめたい」

 宮城県・峩々(がが)温泉は、日本三大胃腸病の名湯。

 和歌山県・花山温泉は、その浴槽に注目を。

「温泉成分が付着して濃厚な含有物を作り刺されます。それが析出物で、温泉の歴史であり、成分の濃さです」。花山温泉は胃腸病に効くという。

 大分県・長湯温泉は日本一の炭酸泉と称している。郡司さんの体験では、「自分の身体が泡の発生装置のようになります」とのこと。血管を拡張し血圧を下げる働きがある。

更年期障害などの女性の病には

「僕はよく共同浴場に入ります。利用してきた客がこの温泉を愛し、大事に使ってきたことがよくわかるんです。共同浴場がある温泉はいい温泉が多い」

 兵庫県・城崎温泉には7つの共同浴場があり、すべて無料で入れる。その泉質はナトリウム・カルシウム塩化物高温泉で、慢性の婦人病にいいといわれる。飲泉もできて、慢性の便秘に効果があるという。

 同県の有馬温泉は、「ぬくもりの湯」「子宝の湯」として昔から知られている。有馬温泉の守護神である湯島神社は、子宝の神社として親しまれていて、子どもを授かりたい人は有馬温泉に浸ってみては。

城崎温泉の源泉

 宮城県・東鳴子温泉は油分を含んだ重曹系の黒湯が特徴で、温泉マニア絶賛の名湯。

 山梨県・韮崎旭温泉は、ぬるめの炭酸泉で、あわあわと気泡が身体を覆い、これが気持ちがいい。じっくり温まることで、慢性の婦人病に効くとのこと。

つらい五十肩や関節の痛みを改善

 1日に29か所の温泉に浸かったことがあるという郡司さん。「でも、温泉は湯治が基本。自炊しながらゆっくりと温泉療養をしたいもの」と、しみじみ。でも、忙しい現代人は、何日も温泉に浸かってはいられない。

「それなら、湯治場の雰囲気のある温泉があります」

 山形県・舟唄温泉の日帰り温泉の柏陵荘は、いま流行の豪華なスパではなく、簡素で落ち着く木造の浴室で、でも、それが湯治場の雰囲気が残っていると常連客に人気。糖尿病、婦人病に効くという。

 湯治場といえば、山形県・肘折温泉もどこか懐かしい温泉で、心も癒されると評判。かつては湯治場であったことから、旅館でありながも自炊部のあるところが多い。温泉客に人気の朝市はなんと朝の5時から開かれている。「肘折」の名が示すように、泉質はナトリウム塩化物泉・炭酸水素塩泉で、リウマチ、神経痛、そして骨折などの後療法によい温泉。

 大分県・別府温泉の鉄輪温泉も、湯治場の雰囲気が残る温泉。

 関東の温泉では、静岡県・下賀茂温泉も腰痛や肩こり、神経痛、腰痛、五十肩に有効。最近急増中のスマホ首にも効くとか。

 そして、千葉県・御宿温泉。海水浴場で知られる御宿だが、地下800メートルから涌き出すのは、お肌スベスベのとろみの温泉。神経痛、筋肉通に有効であるだけでなく、「御宿のお湯は肌がにゅるにゅるして、美人の湯とも言われます」

 鳥取県・三朝温泉の大橋は三朝を訪れるたびに郡司さんが泊まる旅館。「建築のほとんどが国の指定有形文化財です」

 愛媛県・道後温泉の本館は夏目漱石が『坊っちゃん』を執筆した部屋も見学可能。

 神経痛や腰痛を治しながら、建物探訪も楽しもう。

歴史的な建物の道後温泉本館

眼病や白内障など目に効く温泉は

 眼病に効く温泉といったら、日本三大目の湯である新潟県・貝掛温泉。苦味のある食塩泉で、成分のリチウムが目に効くといわれている。内湯、露天風呂ともにぬるい湯で、露天風呂は体温より低く、今の季節なら気持ちがいいが、冬は本当に寒い。このぬるい湯にじっと動かずに入っていると、寒いはずの身体がゆっくりと温まり始めるってわけ。まず夏に訪れ、その後で冬にも挑戦してみてほしい。

 神奈川県・姥子温泉は秘湯気分たっぷり、貸し部屋つき4時間制の立ち寄り温泉。目にもいいけれど、実は、全身に化粧水を浴びたようなしっとり肌に。

金太郎伝説が残る姥子温泉

 最後に、目にやさしいコバルトブルーの温泉を紹介しよう。

 先に紹介した大分県・鉄輪温泉、そして、同じく大分県・湯布院温泉の御宿一禅は、神秘的なコバルトブルーの温泉がある。どう、入ってみたいと思うでしょう。


<プロフィール>
郡司勇さん◎テレビ東京『TVチャンピオン』の全国温泉通選手権で第3、4、5回と3連覇。温泉の泉質を追求し、全国温泉地数5000か所を突破(温泉施設としては7500か所以上)する。JTB主催の第1回温泉旅行検定試験で全国第2位。温泉があれば、いかなる秘湯・珍湯であろうと入らずにはいられない。著書に『一湯入魂温泉』(山と渓谷社)、『秘湯、珍湯、怪湯を行く!』(角川書店)など。

郡司さんが選ぶ全国の「カラダに効く温泉」一覧

■登別温泉(北海道)
1日湯出量1トン、9種類の温泉が噴出。主な効能:高血圧、動脈硬化、肥満
■乳頭温泉・鶴の湯(秋田県)
4種類の源泉あり。日帰り入浴は600円。主な効能:高血圧、動脈硬化、糖尿病
■東鳴子温泉(宮城県)
自炊湯治もできるのが泥湯の「高友旅館」で。主な効能:慢性婦人病、糖尿病
■峩々温泉(宮城県)
蔵王山南面にある療養湯治の秘湯の1軒宿。主な効能:胃腸・肝臓、消化器系
■蔵王温泉(山形県)
東北随一の強酸性の硫黄泉。主な効能:慢性皮膚病、血管の若返り
■肘折温泉(山形県)
湯治場にも日帰り温泉にも対応。主な効能:リウマチ、神経痛、骨折
■舟唄温泉・柏陵荘(山形県)
舟唄温泉の源泉100%の温泉で入浴料は200円。主な効能:神経痛・筋肉痛、糖尿病
■塩原温泉(栃木県)
6種類の泉質がある。主な効能:動脈硬化、慢性皮膚病
■四万温泉(群馬県)
温泉街には飲泉場が、共同浴場は無料。主な効能:皮膚病、アトピー性皮膚炎
■万座温泉(群馬県)
湯出量は1日540万リットル。主な効能:美肌、皮膚病、胃腸病
■草津温泉(群馬県)
湯畑源泉はPh2.1の強酸性泉。主な効能:皮膚病、神経痛、疲労回復
■御宿温泉(千葉県)
地下800メートルから涌き出すとろみの湯。主な効能:神経痛、関節痛、五十肩
■貝掛温泉(新潟県)
江戸時代より目の温泉として有名。主な効能:白内障、ドライアイ
■増富ラジウム温泉(山梨県)
ラジウム含有量は世界有数。主な効能:胃腸、肝臓、がん
■韮崎旭温泉(山梨県)
あわあわの純天然温泉。入湯料600円。主な効能:婦人病、神経痛、傷
■渋温泉・金具屋(長野県)
源泉100%の掛け流し火山性高温泉。主な効能:皮膚乾燥症、末梢循環障害
■伊豆畑毛温泉(静岡県)
源泉がぬるい湯で、長湯をする。主な効能:高血圧、消化器機能障害
■下賀茂温泉(静岡県)
指定の場所での飲用も可。主な効能:肩こり、腰痛、神経痛
■箱根・姥子温泉(神奈川県)
岩盤自然湧出泉の日帰り施設・秀明館。主な効能:眼病
■有馬温泉(兵庫県)
「金の湯」650円、「銀の湯」550円。主な効能:慢性婦人病、月経障害
■城崎温泉(兵庫県)
浴衣で七湯めぐりを。主な効能:慢性婦人病、冷え性
■花山温泉・薬師の湯(和歌山県)
関西の最強炭酸鉄温泉。主な効能:慢性消化器病
■三朝温泉・旅館大橋(鳥取県)
世界屈指のラジウム温泉。主な効能:変形性関節症、肩こり
■道後温泉(愛媛県)
18本の源泉から汲み上げられる。主な効能:神経痛、リウマチ
■長湯温泉(大分県)
炭酸泉で人気の日帰り温泉・ラムネ温泉館。主な効能:高血圧、動脈硬化、切り傷
■別府・鉄輪温泉(大分県)
「鉄輪蒸し湯」が人気。510円。主な効能:神経痛、関節痛、筋肉痛
■湯布院・御宿一禅(大分県)
青い温泉。お風呂のみなら500円。主な効能:美肌、神経痛、疲労回復
■霧島神宮温泉(鹿児島県)
天然泥パックを。日帰りは700円。主な効能:美肌、神経痛、肩こり