将来の幹部自衛官を養成する防衛省管轄の防衛大。国を守る人間を育てるだけあって、ルールが実に厳しい。罰則は違反者のみならず連帯責任が当たり前だ。防衛大のルール順守の大切さを知れば、仕事、家族、ママ友……あらゆるコミュニティで役に立つはず! ルールを守る、約束を守る、その術を防衛大出身の濱潟好古氏(人材育成コンサルタント)に聞いてみた。

ルールを守ることは当たり前!(写真はイメージです)

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 稲田朋美防衛大臣の辞任など、今、注目を集めている自衛隊ですが、自衛隊幹部のほとんどが防衛大学校(以下、防衛大)出身であることを、意外と知らない人は多いのではないでしょうか。

 防衛大は、将来の幹部自衛官を養成することを目的として創設された、防衛省の管轄(一般大学は文部科学省の管轄)の学校で全寮制。1学年(防衛大では1年生ではなく1学年という)のときから国が定めた教育を徹底的に受けます。

 将来の幹部自衛官として最初に教育されるのが「ルール厳守の重要性」です。防衛大には、「規律維持」の目的で多くのルールがあります。主なものをいくつか紹介しましょう。

 まず、平日の外出は禁止です。

 さらに、電車やバスなどの公共の乗り物では座ってはいけませんし、外出時のリュックサックの両肩背負いも禁止です。暴漢に襲われたときにすぐに臨戦態勢に入るためだと説明を受けました。

 また、海外の士官候補生同様に、シワひとつつかないベッドメイキングも徹底されています。1学年時はこのベッドメイキングで大変苦労しました。10円玉を落としたら跳ねるくらいシーツを張らなければ、指導係である上級生にシーツをはがされ、やり直しをさせられます。ひどいときにはベッドを解体され、毛布を窓から外に投げ出されました。

 ほかにも、

 1学年時は3歩以上歩く距離は走らなくてはならない(そのため、お風呂に入った後も走らなくてはならないため夏は汗だくに……)もちろんピアス、茶髪は禁止。もみあげは耳の穴より上であること。1学年は入浴時に湯船に浸かってはいけない。海上要員は“桶1杯”の水だけで、頭と身体をすべて洗う(護衛艦訓練時)。短靴(たんか)と呼ばれる革靴は自分の顔が映るくらいに磨く。自室の外で上級生とすれ違う時は敬礼をする、などなどルールがありました。

 ルールを破ることは「規律違反」になり、上級生から厳しく指導されます。

 中でも「時間厳守」のルールは徹底されていました。門限を破ることは「事故」と呼ばれ、厳しい罰が与えられます。

 たとえば、3学年の学生が「事故」を起こしたとします。この時、罰の対象者は門限を破った本人だけでなく、3学年全員と監督不行き届きという理由で4学年全員が含まれます。

 実際、私が1学年の時、同期の1人が「事故」を起こしたことがありました。この時はいちばん下の1学年が「事故」を起こしたということで、1学年から4学年全員が罰の対象となり、全学年で罰則を受け、とても驚きました。

 このときの罰は「事故走り」でした。これは、事故対象者が事故の責任として訓練服装で防衛大校内を走るというものです。門限を破った本人である同期は背嚢(はいのう)と呼ばれるリュックの中に重さ10キロほどの巨大な石を入れて、1週間、毎日走らされました。

 1か月後、その同期は自主退校しました。

 自衛隊の仕事は、有事の際、ミスなくムダなくすべきことをすることです。皆がルールにのっとってやるべきことをやらないと、確実にミスが起こります。とくに時間のルールは絶対です。1分1秒おろそかにできません。

 ルールはすべての基本であり、だからこそ、ルール順守を徹底しているのです。

 ルールを破るととんでもないことになること、そして、ルール順守の大切さを身をもって感じた出来事でした。

 これは何も自衛隊に限ったことではありません。

 仕事、家族、ママ友、子どもの学校、世の中など、あらゆるコミュニティでルールがあります。

 ルールを守らない人は、一緒に何かをすることができなくなるため、だんだん距離をおかれたり、信頼されなくなったりします。

 たとえば、ビジネスシーンでルールを破ると周囲からの信頼を失います。

 一方、優秀なビジネスパーソンほど、社内規則やビジネスルールを大切にしています。社内からだけでなく、クライアントからも信頼されています。

 中には、自分で自分に対してのルールを設定しているビジネスパーソンもいます。

 朝のあいさつは大きな声でする、毎朝6時に起きて新聞を読む、優秀な営業成績を上げるために毎月50社は訪問するなど。

『何があっても必ず結果を出す「防衛大」式最強の仕事』(あさ出版)濱潟好古著※記事の中の書影をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします

 自分の意思で決めるということは、言いかえると自分自身に対しての「コミットメント」です。「コミットメント」とは「約束」です。自分との「約束」を守り続けているのです。自分との「約束」を破れば、それは自分に対する不信につながります。逆に自分との「約束」を守り続ければ、それは、自分への信頼、つまり「自信」に変わることを知っているのです。

ルールとは守って当たり前

 ですが、防衛大と違って厳しい罰則がないためか、ついうっかり破ってしまったり、ダメだとわかっていても「まあ、いっか」と破ったりしていませんか?

 守って当たり前のルールを守ることによって、周囲からは「信頼」され、そして自分自身への「自信」も深めることができます。

 デキる人、信頼される人、優秀な人、好かれる人ほどルールに対する意識が高いのです。

 周りの人と円滑に過ごすために、そして信頼される人になるために、最初に取り掛かるべきこと、それがルールを守ることなのです。


濱潟好古(はまがた・よしふる)◎人材育成コンサルタント 株式会社ネクストミッション代表取締役 1982年、福岡県生まれ。防衛大学校卒業後、IT系ベンチャー企業に営業職として入社。防衛大時代に学んだ経験をもとに、独自に構築した「最強の仕事」術を活用し、入社2年目から入社5年目まで売上No.1営業マンに。社内の営業MVPを独占し、入社6年目に営業部長に就任後は、2年間で会社全体の売上を160%アップ。中堅、新人と関係なく、すべての営業マンに目標予算を達成させる。「今いる社員を一流に」をモットーに中小零細企業の社長、大手生命保険会社のリーダー等にチームマネジメント、仕事力アップ研修を行なっているほか、雑誌、ネットなどメディアで活躍中。