「腸活」「菌活」「腸内フローラ」。腸が注目を集めるようになり、腸内環境を整える生活を心がけている人が増えている。そんな中、35年間も腸内フローラを研究してきた先生を発見! しかも、腸内フローラを“移植”することによって、難病で苦しめられている人を救うことができるという。世間では敬遠されがちな「うんち」に秘められたパワーを清水真先生に聞いてみた。

うんちのクソヂカラが難病を救う!

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 1982年より、当時の国立大阪病院臨床検査科細菌検査室において微生物検査、つまりうんち(糞便)に含まれる細菌検査について、分子生物学ならびに分析化学の分野から研究を続けてまいりました。

 この35年間、縁あって臨床検査技師として、様々なタイプの腸内フローラの基礎的研究と実績を積み上げてきました。

 人間の腸は、大腸と小腸を広げるとテニスコート一面半分にもなるのですが、その中にはびっしりと腸内細菌が生存しています。

 腸内細菌は自分を取り巻く環境を、活動電位によって形成しています。腸内細菌には目や耳があるわけではないのですが、同じ仲間同士が近づきあって集落を形成しているのです。その姿を電子顕微鏡で見たとき、 同じ種類の花々が集まって咲いている花園のように見えるので「腸内フローラ」と呼ぶようになりました。

 人のお腹の中にその腸内細菌という微生物が3万種類、1000兆個も存在し、その総重量は1.5キログラムにもなります。いわばチワワを一匹お腹の中で飼っているようなものです。

 腸と脳は1億本もの神経のネットワークで直結(脳腸相関)されており、体内にあるセロトニン(神経伝達物質)は90%が腸内にあります。

 そもそも、うんちの正体ってご存知ですか?

 1日の食事の食物残渣(ろ過した後に残ったもの)は、たった数百グラムしかありません。口から入った食物は、ドロドロになって小腸で吸収されます。吸収を終えた小腸の壁は、すぐに剥がれ、大腸は残った水分を再吸収するのですが、このとき腸内細菌が出している物質も一緒に吸収してくれています。

 こうして食物残渣数百グラムと、小腸の壁数十グラム、そして1.5キログラムの腸内細菌たちのうち、まだまだ活躍できる世代交代を終えたばかりの腸内細菌もうんちになり、排出されるのです。

 早ければ4時間から6時間ほどで腸内細菌は“対数増殖”と言って、倍々で増えることができるため、絶えず新鮮なものが残り、一世代前のものはどんどんうんちの成分になり、排出されるのです。これが、うんちの正体なんです。

 そんな、うんちを使ってできたのが腸内フローラの移植なのです。

 腸内に他人のうんちを加工した菌液を入れる腸内フローラ移植の力には、驚くべきものがあり、潰瘍性大腸炎、クローン病、幼児期におけるアトピー、自閉症、うつ、 便秘、その他、治療の手立てがない免疫異常の難病において、かなりの効果を発揮しています。

 現在おこなっている、数少ない大学の治験では、倫理上ドナーは二親等以内のうんちを利用していますが、私はいち早く便バンク「腸内フローラバンク」を設立し、80人近いドナー登録の中から、患者さんに最適なフローラの設計図を描き出し提供しています。

 そして35年間の腸内細菌の研究により、生着しやすい腸内フローラ移植用の菌液の開発に成功しました。

 自力で腸内細菌を生成することが難しくなったことで、トラブルが生じている身体や精神のバランスを整えるためには「腸内フローラ移植」という選択肢もあります。

 私のチームは、日本で一番多くこの移植を手がけており、その事例は400を超え、大きな成果をあげているという自負があります。副作用が一切なく、浣腸するだけで容易に腸内細菌を整えるこのノウハウをぜひ頭の隅に入れてほしいと願っております。

 もちろん病気だけではなく、アンチエイジングなどの美容と健康にも腸内細菌は大きな力を持っています。

 いわゆる老化とは、分子生物学的には「細胞の酸化」です。シワやしみ、たるみなどの肌の老化だけではなく、あらゆる病気の原因もこの「酸化」だと考えられています。

 そこで必要になる水素は、身体でできた悪い酸素(活性酸素)と結びつくことで、この細胞の酸化を遅らせてくれる働きがあります。

 しかし、水素というものは身体に必須の物質であるにもかかわらず、体内への取り込みが非常に難しいのです。

 こんなことを言うのは心苦しいのですが、美容や健康に関心の高い方の間でブームとなっている「水素水」。これに含まれる水素は、口から摂取してもほとんど体外に排出されてしまうので、ただ飲めばいいというわけではありません。

 でも心配ありません。実は、人間の身体は水素をうまく取り込む機能を備えており、老化の速度を遅らせようとしてくれているのです。その機能を担っているのが腸内細菌たちなのです。

『うんちのクソヂカラ 腸内フローラ移植のミラクルワザ』清水真著(晩聲社)※記事の中の書影をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします

 その腸内細菌を上手に育てて働いてもらうにはコツがあります。

 まず食事において食物繊維を意識するようにしましょう。食物繊維は消化器官の中で、腸内細菌のためのエサになるからです。食物繊維が多く含まれるのは、野菜・海藻・納豆などです。これらを摂ることによって、腸内細菌たちも元気に働いてくれます。

 それから、水をたっぷり飲むように心がけましょう。細胞の酸化、つまり老化を防ぐために必要な水素ですが、これを作る材料になるのが水です。

 水素水はあまり意味がないと言いましたが、水分を摂取するという意味では決して悪いことではありません。普通のお水でいいので、水分をたっぷり身体に補給してください。

 いつまでも健康で若々しくあるために、私たちの腸内細菌を大事に育てようではありませんか。


清水真(しみず・しん)◎1959年生まれ。まことクリニック副院長 臨床検査技師、臨床工学技士、大阪工業大学工学部応用化学科卒業。35年間の腸内細菌の研究により、生着しやすい腸内フローラ移植の菌液を開発。いち早く腸内フローラバンクを設立し、80人以上のドナーの中から最適なフローラの組み合わせを選んで菌液を作成。著者の参加する移植チームは400例の移植で注目すべき成果をあげている。