正統派、優等生イメージの武井咲が、松本清張原作のドラマ『黒革の手帖』(テレビ朝日系・木曜夜9時~)で、ダークヒロインを好演。何度も映像化されるなか、最年少の銀座クラブママの決め台詞“お勉強させていただきます”など、オリジナルを盛り込んだ“武井版黒革の手帖”の魅力とは──。

最年少銀座クラブママ、若さゆえのしたたかさ

『黒革の手帖』主演の武井咲 (c)テレビ朝日

 松本清張の不朽の名作に、武井咲が挑んだ。

「歴史ある作品なので、正直なところ大きなプレッシャーを抱えていますが、元子のように腹をくくって取り組んでいます」(武井)

 2004年には米倉涼子主演で連ドラ化され、最終話視聴率17・7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録する人気作に。同作にもかかわっていた今作の中川慎子プロデューサーは、

「前作にこだわって守りに入るのではなく、思い切ってやろうと決め、2017年版を作りました。ダークヒロインが欲望のエネルギーに突き動かされて闊歩する、非常に熱量の高い作品です。映像化されるたびに視聴者から喝采を浴びるのは、社会の閉塞感のようなものを彼女たちが突き破り、風穴をあける心地よさがあるからだと思います」

 武井が演じるヒロインの元子は、派遣先の銀行から1億8000万円もの大金を横領。銀座でクラブを開業し、銀行の借名口座を書き記した“黒革の手帖”を武器に、夜の銀座の頂点に立つことをもくろむ悪女だ。

 政財界の大物相手に臆することなく渡りあっていく元子のように、政治家として上りつめようとする安島を江口洋介、派遣時代は同僚だったが、ホステスになり、元子の強敵になる波子を仲里依紗がそれぞれ演じている。

「第一候補の方々がバチバチと決まり、キャスティングはとてもやりやすかったです。これも原作の魅力によるところだと思います。表の顔と裏の顔があり、何を考えているのかわからないミステリアスな奥行きを演じられ、なおかつ色っぽさもある安島は江口さんしか考えられませんでした。

 伏し目がちな派遣行員から人気ホステスに変貌する波子は、前半のサプライズ。元子以上に振り幅の大きな波子を説得力をもって演じられる仲さんにお願いしたんです。仲さんも面白がって演じてくださり、思った以上にゾッとする波子になりました」

 元子と波子が同僚というのは、今作オリジナル。銀座の最年少ママというのも、23歳の武井が演じることから生まれた設定だ。

「黒革の手帖で大物を叩きのめすのではなく、若さゆえのしたたかさのある悪女が今作の元子です。下から見上げつつ、最後はガブッと噛みつく。そのほうがより怖いですよね。そんな元子を象徴するセリフが、“お勉強させていただきます”なんです」

銀座に舞い戻ってきた波子の目的は、元子を追い落とすこと (c)テレビ朝日

夜の銀座で“お勉強” 武井・元子誕生の瞬間

 撮影開始前、実際に夜の銀座で“お勉強”した武井。銀座のママとしての気構えや心意気などを学んだというが、着物の着こなし、所作は、時代劇出演経験などの賜物(たまもの)。演技で大切にしているのは、目の芝居という。

「これまでの物語で、元子が楢林(奥田瑛二)から5000万円を巻き上げる場面がありました。脅迫してボロボロにした相手を嘲笑(あざわら)うのではなく、最後に楢林の手をとり“今後ともご指導ご鞭撻(べんたつ)のほど、よろしくお願いします”と言うんです。ふわっと手を握るのは、演出ではなく、武井さんの元子から自然に出てきたもの。

 ゾッとするほど美しく、本当に怖いと思いました。武井・元子誕生の瞬間です。最年少ママなどの設定を作ったのは私たちですが、魂を込めたのは、武井さんだったんです。今では、元子として生きる武井さんと、悪女として貫禄がついていく元子がリンクしているような感じです。

 腹をくくって、身を削って元子を演じる武井さんのおかげで、“武井さんがここまでやっているのだから”と、スタッフも攻めの姿勢に転じています」

 物語もいよいよ終盤。若さゆえの勢いも手伝って、上り調子だった元子は、突然すべてを失った。黒革の手帖で叩きのめしてきた面々が戻ってきて、元子をつぶしにかかる─。

「第7話(9月7日放送)では、元子は絶対にあきらめずに立ち上がろうとして、さらなる強さを得ます。政財界の怪物だけでなく、女性たちとのバトルも見どころです。キーパーソンは、唯一、元子の味方の安島。彼が敵に転じるのかにも、ご注目ください。ダークヒロインの元子が罪と罰を受けるのか、そのまま突っ走っていくのか。最後まで見届けてください!」

元子は、政財界の大物相手に、夜の銀座の頂点を目指す (c)テレビ朝日