沢村一樹 撮影/廣瀬靖士

「記憶をなくした実が、もう1度、奥茨城村に戻ってやり直す。自分がどういうお父さんで、どういう夫だったのかはわからないけど、自分が知らない実という人は、すごく家族に愛されていたらしい、と。その人を超えられるか、そもそも超えたいと思うのか……。いろいろなことを考えましたね」

 大人気の朝ドラ『ひよっこ』で、ヒロイン・みね子の父、谷田部実を演じている沢村一樹(50)。放送では3か月以上にもわたって行方知れずになっていたが、プライベートで街中を歩いていると、いろんな人から声をかけられたらしく、

「どこに行っても“ここにいた!”とか、“早く帰ってあげてください!”とか言われてました(笑)。実が失踪している間、視聴者の方は記憶喪失のことを知らなかったので、見つかった後は“記憶は戻るんですか?”って聞かれるんだろうな~って思ったら案の定、今はそればかり聞かれますね(笑)

 ようやく“発見”されてからは、しばらくみね子と一緒にあかね荘で暮らしていた実。田植えをきっかけに奥茨城に帰るのだが、

田植えのシーンは5月に撮影したんですけど、ロケの都合で先に撮影しなければならなかった関係で、その前のシーンの台本がまだなかったんです。実が記憶をなくして、自分の出身も名前も家族のこともわからないっていう基本的な情報だけ。こういうことって初めてだったので、ある意味、印象的だったかもしれない」

春の田植え。久々に谷田部家全員が茨城に帰ってきた!(c)NHK

 何ひとつ思い出せない実を演じるにあたって、どういう気持ちで挑んだのだろうか。

「記憶が全くないという状態っていうことは、本当の素の実さんが出てきているっていうことなので。そのときに、目の前で知らない人(みね子)が“お父さん!”って来たときに疑ってしまうのでなく、“この子、本当にそうなのかな”って、どっちかっていうと前のめりになるくらいの人でいたほうがいいなって思って。

 たぶん記憶をなくす前の、昔の実さんだったら、今でもせっせとまじめに働いていたと思うんですよね。記憶をなくしたことで、子どもたちの素晴らしさとか、親父のありがたみとか、いろいろ気づけたのかなって。僕はそう思っています

 人気女優の川本世津子(菅野美穂)と2人で暮らしていたという、まさかの展開には驚いた人も多いはず。

僕の中では、実としては世津子さんのことを人としてすごく好きだし、尊敬しているし、そして命の恩人でもあるんですけど、それ以上の感情はないのかもって考えていて。

 だから、美代子(木村佳乃)に対して大きな罪悪感を持っているわけでもなく。でも、世津子さんとはあんな別れ方になってしまって、申し訳なかったなという思いがこれから芽生えてくるとは思います

どしゃ降りの雨の中、記憶をなくしてさまよう実を見つけた世津子。(c)NHK

 世津子さんには幸せになってほしい、と優しい一面を見せた沢村。実と美代子のこれからもますます見逃せない。

「実の気持ちがどういうふうに動いていくのか、視聴者の方にはじっくり楽しんでもらえるんじゃないかなって思います。もう僕、50歳なんですけど、本当に純愛ものをやっているような気持ちでやっています。

 正直、台本を読んだときに“マジか”って、僕に演じられるのか? と思いましたけど。でも、ここまで脚本の岡田(惠和)さんが描いてきた流れだと、きっと僕でも成立するなって。美代子となら、本当にこういう純愛みたいな話ができるんじゃないかなって感じました」

 物語も終盤。みね子ふくめ、人々の恋模様が気になるところだが……?

ビックリするくらい、いろんなことがうまくいくんですよ(笑)。“こんなにうまくいく!?”って思う人もいるかもしれないですけど。でも、そこから新しく生まれる関係だったり、あふれ出す感情だったりを、ぜひ見てほしいので、楽しみにしていてください!

今まで言えなかった『ひよっこ』への思い、全部語っちゃいます!

■心で泣いていました!

 世津子のマンションで、世津子と美代子が対峙(たいじ)する緊迫したシーン。

美代子がみね子の肩を持って、“この子がどんな思いで働いてきたかわかりますか?”って世津子さんに問いかけるシーン、あのときの架純ちゃんの顔が4つか5つくらい幼く見えたんですよね。大人同士の女性のやりとりから一歩引いて、感情がない感じで。ちょこんと、おちょぼ口で座ってて。あれはすごいなって、あのときの彼女の表情は。僕はそれを見てバァーって涙が出そうになっちゃったんだけど、“ここで泣いたらいけない!”って思って。泣いたら、僕のほうが目立って芝居を台無しにしちゃう。あの表情をあの年齢でできる架純ちゃんっていうのは本当に素晴らしいなって思いました

世津子のマンションへ実を迎えにやってきた美代子とみね子。(c)NHK

■愛情ポーズはこうしてできた!

 みね子の頬を両手でギュッと包むあの仕草。

「完全オリジナルってわけではないんですけど、子どもたちの記憶に残る“お父さんこれよくやってたよね”っていう、お父さんらしい仕草をなにか入れたいねって監督とも話していて。でも、頭ポンポンだと普通だし、もっとインパクトの強いものということで、話し合って決めました」

ムギュ~。あらためて“父”としての実のぬくもりを感じるみね子。(c)NHK

■止まらぬ“ひよっこ”愛♪

僕、伊藤沙莉さんの芝居がすごく好きなんですよ。録画した朝ドラを家で見てるとき、お米屋さんのさおりが出てくるとパッと止めて巻き戻して、止めて巻き戻してって何回も見てたら息子に“何見てんの”って言われて。“彼女の芝居が好きなんだよ”って言ったら“父さん、ほかのドラマのときもやってたよ”って(笑)。彼女が『ラストコップ』に出てたときも同じことやってたみたい(笑)。

 あとキャラクター的に言うと、愛子さん(和久井映見)が好きですね! あの人がいるおかげで、岡田さんも描きやすかっただろうなって(笑)。ひと言でバンって解決してくれたりするのがいいですよね」

■エロ払拭できたかな!?

 沢村といえば“エロ男爵”の異名をとっているがキャスト発表時には、“爽やかに演じて、世間のイメージを払拭(ふっしょく)したい”と話していた。手ごたえのほどは……?

「手ごたえ?(笑)払拭したいっていうのをそこまで本気で考えてはいなかったけど、世間の人が僕に抱いているイメージが役を邪魔するのは困るなって考えていて。だいぶ邪魔してるなって自覚はあります(笑)。でも、僕もそれを逆に利用して、例えばバラエティーでやることと、お芝居でやることを180度違うものにするなど、楽しみながらやらせてもらっています。なので払拭できたかどうかは……みなさんにお任せします!(笑)