綾小路きみまろ 撮影/和田咲子

 “あれから40年”のフレーズと毒舌ぶりで、中高年に大人気の漫談家・綾小路きみまろ(67)が、メジャーデビュー15周年を迎えた。年間100本、チケット完売のトークライブをこなす遅咲き芸人は、3年後に古希を迎える。ファンとともに中高年の階段を駆け抜けてきた本音とは──。

森進一や伍代夏子らのステージで司会を務めることが多かった

「自分を振り返るのは、けっこう難しいですね。30年、潜伏していましたから……。ブレイクして一生懸命でした。気がついたら15年。(周囲に)言われて初めて気づく感じですかね」

 “あれから40年”のフレーズでおなじみの漫談家・綾小路きみまろが、メジャーデビュー15周年を迎えた。中高年にまつわる“あるある”をネタにした、毒舌ぶりで人気を博し、現在も年間100公演のライブをこなし、忙しい日々が続いている。

芸人のなかには売れて2、3年もたつと、“あの人はいま”みたいになっちゃうのもいるけど、そういうことを言われることもなく、ここまでできたのは、ファンやみなさんのおかげですね。芸能界では、10年売れれば成功と言われるので、15年続いたのは、大成功だったのかなと思います

 “久々のファンデーション、落ち着く先はシワの中”“若いころふたりはラブラブだよ。いまはデブデブ”“5人集まればお寺の話。潤んだ瞳に輝く目ヤニ”“あの日の、あのプロポーズ、あの日に帰って断りたい”といった、爆笑ネタは尽きない。そうしたネタの数々は、毎回、ライブ公演を録音し、聞き返しては、修正するなどブラッシュアップしてきた。

「植物にたとえたら、宿根草です。根元は変わらず毎年、小さな芽を出し、花が咲く。冬になったら、枯れて、春に新しい芽が出る。そして根は、だんだん太くなっていく。たぶん、そうやって(ネタを)育ててきた15年だったとも言えます」

 メジャーデビュー前の30年に及ぶ潜伏期間では、漫談家としてよりも、森進一や伍代夏子らのステージで司会を務めることが多かった。

「そのころは、ひょっとして、(メジャーになって)世に出られるんじゃないか、そういう目に見えないものが身体の中にあって、何とかなるだろうという気持ちでやっていました」

 その思いが叶って、52歳のときに、メジャーデビューを果たす。アルバムCD&カセット『爆笑スーパーライブ第1集』をリリースし、大ヒットした。毒舌漫談だけでなく、赤いタキシード姿にロン毛を後ろで縛ったヘアスタイル(のちにかつらをカミングアウト)、扇子片手のいでたちでも注目された。

世に出るにあたっては、自分のスタイルを作り、ハゲてては売れないと思ったから、(かつらを)かぶりましたよ。中高年を笑わせる芸人もほとんどいなかったので、“若い人の漫才やコントは(ネタに)ついていけないけど、あなたの漫談は、私の生活の中にあるのよね”という声をいただきました。中高年と縁があったと思います

 65歳以上の高齢者人口は、3400万人を超え、“4人に1人”と言われる高齢化社会を迎えている。そうした時代背景も追い風に。

時代に乗っかった部分もあります。人生は縁と運と努力だと思っているので、時代との縁、漫談による運、その後の努力があって、そのうえに15年を迎えられた幸せがあったと思います

 日課のマラソンと野菜中心で健康管理

 大器晩成を成し遂げたが、幼少期は、芸能界を夢見てはいなかったという。

「ごく普通の子どもでした。飛行機や列車に憧れ、運転してみたいと思っていました。目立つ子でもなかったので、小学校の学芸会では、すずめの格好をして、舞台を素通りするだけ。当時は、頭のいい生徒から順番に役が振り分けられたので、頭が悪かったということ。頭の形はいいんですけどね(笑)。

綾小路きみまろ 撮影/和田咲子

 人前でしゃべる仕事をしたいと思うようになったのは高校時代です。人気者というより変わり者。人を観察するのが好きで、ジッと見て、そして、笑う。面白そうな女子生徒がいると、見て笑うんです。失礼ですよね。だから嫌われていました(笑)

 いろいろ想像するのが楽しみという人間観察は、今でも続いている。

 収容規模2000人の会場を埋める年間100本に及ぶトークライブは、1時間、立ちっぱなしで、しゃべり続ける。体力的には過酷で、先輩落語家からは、“お前と同じようなことをやっていたら、俺は1週間で死んじゃう”と、言われるほど。

 そのための体力づくりと健康維持に、毎日、30分のマラソンを課している。さらに、野菜を中心にした食事を心がけている。

「毎日、走るのはけっこう、きついですけど、走れる元気があるから、ステージにも立てるという自信や気力になっています。野菜は身体にいいですから、(1食でレタス1個分の量を)毛虫みたいに食べています(笑)。太りやすいので、ご飯は仏壇にあげるくらいの量。身体のことを気にしなかったら、ご飯に納豆、次にお茶漬け、最後に麻婆豆腐でご飯3杯は食べたいです」

スケジュールは数年先まで決まっている状態

 節制に努めるなかで、年齢的に第一線を走り続ける不安も感じている。

いつ滑舌(かつぜつ)がダメになるのか、呂律(ろれつ)が回らなくなるのか、1時間立ったままのライブはずっと続けられるのか、漠然とした不安はありますよ。生涯現役? 舞台では死にたくないですよね。かつらとかはずれちゃうでしょ(笑)。

 52歳と67歳で、同じことをやっているのは、正直、体力的にきついです。ライブ会場の規模を小さくするとか、2部構成にして休憩を入れる。1部は座って落語風で、2部が漫談とか。形を変えていくことを考えたりします。3年後は70歳。2020年東京五輪に、五輪で“ご臨終”なんてね(笑)。引退? それはチケットが売れなくなったときですね

 毎回、各会場ともチケットは完売し、スケジュールは数年先まで決まっている。独自のスタイルを確立させた、唯一無二の毒舌漫談家の歩みを止めることは、まだまだできなさそうだ。

 息抜きの方法を最後に教えてくれた。お酒も飲まず、タバコも吸わない、きみまろ流息抜きは、メダカの飼育。金魚や熱帯魚は、水槽の横から鑑賞するもので、メダカは唯一、上から鑑賞して楽しむ魚という。

「メダカは横から見ると、みんな同じですが、上からだと、背中に模様やラメがあったり、色も違うんです。1時間ずっと見ていられます。一生懸命、動いている姿に、不思議と癒されるんです」

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きみまろ漫談を読んで、笑って、なぞって美文字に。『書きとり きみまろ』(講談社/1000円+税/発売中)

<プロフィール>
あやのこうじ・きみまろ/1950年12月9日生まれ。鹿児島県出身。’79年に漫談家デビュー。大物演歌歌手の専属司会者を経て、’02年にアルバム『爆笑スーパーライブ第1集!中高年に愛をこめて…』で、メジャーデビュー。『第17回日本ゴールドディスク大賞』で 企画・アルバム・オブ・ザ・イヤー受賞。15周年記念本『綾小路きみまろ爆笑フォーエバー』(文芸春秋)発売中