最近、テレビや新聞で介護特集が組まれると、やたらと目にする茶色い作務衣を着たおにいさんをご存知ですか? 彼の名前はズバリ、“ごぼう先生”。「大人のための“体操のおにいさん”」、介護界のアイドル、略して「カイドル」と言われ、全国のお年寄りから愛される爽やか青年です。そんな、ごぼう先生を直撃取材!

ごぼう先生。ごぼうの「ご」は介護の「ご」、ごぼうの「ぼう」は予防の「ぼう」

1万人のシニアが絶賛!

 30代前半の爽やかおにいさん、といった雰囲気の笑顔が印象的なごぼう先生は、地元・愛知県で介護サービスを運営しながら、全国をまわって自身が考案した健康体操を教えている。これまでに、北海道から長崎・五島列島まで全国300か所、1万人以上のシニアと一緒に健康体操を行ってきた。

 この夏から、CS・スカパー! 時代劇専門チャンネルにて、『【健康体操】朝だよ!ごぼう先生』なる番組も始まり、まさに彗星のごとく現れた“カイドル”。そんなごぼう先生に話を聞いてみた。

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 こんにちは! 大人のための体操のおにいさん、“ごぼう先生”と申します。トレードマークは、GOBOUと手刺繍された茶色の作務衣です。普段は愛知県岡崎市で介護の仕事をしつつ、介護が必要な方々から元気なお年寄りまで一緒に、テレビ番組の中でイスに座ったままできる健康体操を行っています。

 目指すところは、日本一の「大人のための体操のおにいさん」。NHKの子ども番組の体操のおにいさんの、シニアバージョンです。超高齢化社会において、まだ存在していないポジションだと思い、これまでの経験をひとつひとつ活かしながら、日々、体操に取り組んでいます。

 これまで、たくさんの方にお会いしていますが、みなさんが共通しておっしゃることがあります。それは、

「こんなに長生きするとは思わなかった」

「いつまでも元気で自分らしくいたい」

 おそらく、多くの方が声にしないまでも、「これからも元気でいるためにはどうしたらいいんだろうか」と漠然と考えているのではないかと思います。

 その思いに対する答えの1つが、私がご提案し続けている“健康体操”です。

 この体操は、「動かして 力を入れて 考える ただそれだけで 衰え予防」というシンプルな考え方で行います。中でも特に重要なポイントは、「考える」ことです。

 体操は、「身体を操る」と書きます。自分の思うように身体を操ることができれば、介護は必要ありません。

1日10秒の体操で「自分らしく」いられる

 ではちょっと考えてみてください。

 何もないところでつまずいた、部屋に入るときドアや壁にぶつかってしまった、食事の時にむせやすくなった、そんな経験はありませんか?

 これは、身体を思うように動かすことができていないから起きることです。

 頭ではわかっている。でも、実際に、身体を動かそうとしてみるとうまくいかない。何も対策をしていないなら、年を重ねれば重ねるほど、この現象はつきものです。

 何もしない、何も考えない、何も意識しない。実はここから、老化は進んでいきます。つまり、何かをすればいいのです。

ごぼう先生の体操は、イスに座ってできるのでお年寄りにも優しい

 元気で自分らしくいるために大切なのは、自分の身体や心に対する「意識」と身体を動かすことの積み重ね。1日10秒からの健康体操で、ずっと元気で自分らしくいられるんです。衰えを防ぐには、まず「意識」することから始めましょう。

 おすすめの健康体操の1つ目は、「身体洗い」の体操(コツコツ体操1)です。

 やり方は簡単。いつもスポンジやタオルで自分の身体を洗っていると思いますが、あえて自らの「手」で洗います。肩回りの可動域や、足回りの筋肉量、お腹、お尻のたるみ具合などを、「手」でチェックしながら洗い進めていきましょう。

 揉んだり、マッサージをしたりするのではなく、自らの身体を触りながら今の状態を「確認」してみてください。頭の中で考えていた自分の身体と、実際に触ってみた身体に違いはありませんか? 「思ったより肉がやわらかい……」「知らないうちに足の裏がガサガサしていた……」など、まずは違いに気づくことがポイントです。

コツコツ体操2は歯磨きの時にやれば、一石二鳥

「このままじゃマズイ!、そう思ったらいい兆候です。もし、コツコツ体操1で足のむくみを感じたとしたら、足を意識して動かしましょう。

 足の体操でオススメしたいのが、歯磨きをしている間に行うことができる、かかとの上げ下げ運動(コツコツ体操2)です。

 両足に体重が均等にかかるようにして肩幅に広げて立ち、背筋を伸ばしたまま両足のかかとを上げ、上げきったら下ろす。これを10回ほど繰り返します。イスに座ったままでも、この体操はできます。

気づいたら介護が必要な状態に

 わざわざジムに行ってトレーニングする……そんな必要ありません。1日10秒、足を意識して動かす。それだけで大丈夫です。

 考えてみてください。昨日の自分は、ふくらはぎを意識して力を入れることすらしなかったのですから、すごい進歩です。この10秒の継続こそが美脚、そして転倒予防への道に続く一歩になっていくのです。

 今は、無意識のうちに介護が必要な状態になってしまう人が大勢います。身体の変化を受け入れる勇気を持つことで、今すべきことが見えてきます。

 これまで多くのシニアの方にお会いしてきたなかでよく聞く言葉、それは、「気づいたら介護が必要な状態になっていた」です。

 私の祖母もそうでした。無意識のうちに身体が衰えていて、無意識のうちに介護状態になっていたのです。私は彼女を見て、多くの人がそうならないために、「大人の健康体操」を考案したいと思ったのです。

「大人の健康体操」は難しい振りもなければ、大きな動きもないため、簡単に気負わずできるものばかりですが、やはり、身体が衰えていると難しく感じる動作もあるようです。結果として、大人の健康体操をすることで自分の衰えを確認する作業にもなるというわけです。

 自分の衰えを目の当たりにするのは、つらいことかもしれません。しかし、普段の運動や食事にちょっとでも気を使い、健康的な生活を送っている方は、不安も少なければ、ショックを受けることも少ないでしょう。

 介護予防もまさに同じ。日常の10秒の健康意識から始まります。今日の一日が一番若い。明日になれば一日の年を取るわけです。同じように年を重ねるなら、ワクワク、ドキドキしながら老いを前向きに、楽しみを見つけながら日々を過ごしていきたいですよね。

 はじめから簡単にできてしまう体操は飽きてしまいます。ハードすぎるとチャレンジ精神が失われます。ちょっと難しくて、楽しめるくらいがちょうどいい。その塩梅を目指して体操を考えています。「こりゃ難しいわ!」と脳が活性しているような表現とともに、笑みがこぼれる瞬間が、私にとっての体操のゴールです。

介護する人もされる人も、楽しい人生をおくる

 介護生活はすべきことも増え、大変なこともあります。でも、大切な人と過ごす大事な時間です。だからこそ、お互い気持ちよくありたいものです。それには、身体と心に余裕を持つことが大切です。

『ごぼう先生と楽しむ大人の健康体操』簗瀬寛著・白澤卓二監修(あさ出版)※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします

 仕事や育児で忙しい中、介護を行わなければならない方も多いでしょう。クタクタな身体や心に鞭打って介護していては、気持ちに余裕がなくなり、イライラしてぶつかることも増え、お互い疲れ果ててしまいます。

 身体に余裕を持つコツは、介護に関する情報を、そして頼れる人がいることを知ることです。今の介護保険制度は、かなり温かいはずです。どんどん相談し、活用しましょう。

 心の余裕を持つコツは、感謝の言葉です。感謝の気持ちこそ、心の潤滑油です。私も祖母が介護状態になって数年が経ちました。その間、いろいろなことがあり、大変だった日も少なくありません。でも祖母が、「ありがとう」と言ってくれる。その言葉だけで頑張ろうと思うんです。

 これは介護を受ける方も同じです。「ありがとう」と言われることで、自身が存在していいんだと認めてもらえたと、うれしくなり、自分ができることはしてあげたい、と思うようになります。

 感謝の気持ち、言葉にパワーをもらうのです。 「ありがとう」を伝えていきましょう。


簗瀬寛(やなせ・ひろし) 通称、ごぼう先生◎株式会社GOBOU 代表取締役。鍼灸師。社会福祉主事任用資格。1985年、愛知県岡崎市生まれ。日本福祉大学卒。大手鍼灸接骨院の勤務を経て、2014年より“喫茶店のようなデイサービス”をコンセプトとした「リハビリカフェ倶楽部 岡崎店」を運営。自社の介護事業のほか、全国各地の介護施設で“大人の体操のおにいさん”ごぼう先生として「介護予防」をテーマに講演、健康体操の普及に努める。自主制作した体操DVDは全国2000を超える施設にてレクリエーションとして導入されている。