懐かしの給食メニューのひとつ“ソフト麺”が、存続の危機に晒されているといいます。給食に出したくても出せないその原因とは? そして今年、誕生から50年迎えた“ミルメーク”。現在もその人気は根強く、お休みの子がいると争奪戦になるというほど。愛され続ける魅力に迫ります。

ソフト麺、存続の危機! 給食に出したくても出せない!?

 本誌サイト『週刊女性PRIME』ほかで行った給食に関するアンケートによると、ソフト麺が給食に出た人は、330人中183人と約6割を占めるが、

「ソフト麺の存在は、大人になってから知った」(京都府・30代=不明)

 と、地域によってはなじみがない人も。業界をよく知る大手ソフト麺業者の社長はこう語る。

西日本はもともとソフト麺を給食に採用していた県は少なかった。どちらかというと愛知以東という印象です」

左から低学年用、中学年用、高学年用、中学生以上用。ソフト麺1袋の重さは、子どもの成長によって異なる

 だが、将来的にソフト麺の存在や味を知る子どもの数は、さらに減少するかもしれない……。

学校給食でのソフト麺は減りつつあります。愛知県を例にすると、学校給食での麺食(年間約1000万食)のうち、ソフト麺は約38%。残りはうどんや中華麺、きしめんなどです」(前出の社長、以下同)

 この状況を米飯給食の推奨が後押しする。

「平成21年に、文部科学省が出した『学校における米飯給食の推進について』の影響は大きいです。“週3、もしくは週4回、米飯給食にしましょう”というお達しです。

 学校給食は週5回。そのうち4回が米食で、残りの1回を麺とパンで分け合っているわけです。すでに新潟市では、米飯給食が週4.5回だと聞いています」(前出の社長)

 全国に先駆け、1965年にソフト麺を学校給食に採用したのは東京都だが、

「2年前にソフト麺は“規格品”からはずれました」

 と話すのは、東京都学校給食麺協同組合の理事。

 各都道府県には学校給食会があり、そこで規格品として登録された主食は、各学校に安定的に供給される仕組みになっている。

「最近の東京都だと、ソフト麺は学校給食週間のときに“懐かしのメニュー”として注文が入るだけですね」(前出の理事、以下同)

 ソフト麺は配膳される当日に、40分かけて90度の蒸気殺菌を行い、ホカホカの状態で学校に午前中に納入される。ほかの麺に比べて手間がかかるのだ。

「年じゅう注文があるなら問題ありませんが、その1週間だけのために、どれだけの業者がソフト麺のための設備を持っていられるか……。なかには注文を受けられない業者も出てきたので、1度、規格品からはずそうということになったんです。ソフト麺をはずしても、東京都の規格品の麺は15種類ある。バリエーションは多いんです」

 少子化で児童・生徒の数は減っている。学校給食から撤退したり、廃業したりする麺業者も現れ始めた。

「昔は自分の周りの学校だけ受け持っていればよかったんですが、今は“越境”状態の注文も受けています。練馬区の業者が、世田谷区も担当するような感じですね。作ったソフト麺を温めて、20キロくらい離れた学校に午前中に届ける。容器は当日回収。道路も渋滞しますから、大変です」

 とはいえ、ソフト麺の需要には根強いものがある。東京都の給食から完全消滅したわけではなさそうだ。

やれる業者は、今までどおりやっています。麺業者に直接注文もできるので。そこは区市町村の栄養士さんの裁量次第。ただ、規格品からはずれているので、“ソフト麺はもうない”と思っている栄養士さんは多いです。たまに電話がかかってきて、“えっ、ソフト麺やっているんですか!?”と驚かれることもありますから」

最大手メーカーも廃業した茨城県

 給食に出されるソフト麺が全国的に減る一方で、学校給食会の規格品に登録されている麺はソフト麺だけという地域もある。長野県茨城県だ。

 しかし茨城県では昨年、県内最大手のソフト麺製造業者『茨城ソフトメン』が廃業している。

「30年前、県内にソフト麺業者は15社ありました。しかし、今は9社のみです」

 と話すのは、笠間市の『笠間ソフトメン橋本屋』の石上渉社長。

「『茨城ソフトメン』の担当エリアだった水戸市、ひたちなか市、常陸太田市、大洗町などは、ソフト麺の空白地帯になりました。ただ、そこから聞こえてくるのは“どうしてもソフト麺が食べたい!”という児童さんたちの声。なんとかしてあげたい

 都合がつけられるときは、50キロ離れた大洗町の学校に、ソフト麺を納入しているというから驚きだ。

「ウチは笠間市をはじめ、城里町、茨城町、桜川市、石岡市などを担当しています。国の方針で週4日はご飯給食で、麺は週0.5回未満。そのため注文ゼロの日もありますし、逆に注文が重なって、配送直前に行う蒸気殺菌を3回転させるときもあります。遠方の学校にも余裕をもって届けるため8時には出発するので、そんな日は4時出社です」

 本当にシビアな経営者だったら学校給食のソフト麺事業の継続は迷うところでしょう、と石上社長。

「ソフト麺は、メニュー設計的には時代遅れかもしれません。昔と違って、学校給食用のうどんもスパゲティもありますから。もう役割を終えているのかもしれません。しかしソフト麺は、戦後、アメリカから輸入された小麦を使って、日本人が作り上げた努力の麺なのです」

 鯨の竜田揚げと同様に、戦後の食料事情を物語る存在なのだ。

「そんな歴史的な重さを持つ、意義ある食品ですから、やはり継承していきたい。そのためには、学校給食会や市町村との話し合いは不可欠だと思っています。国の米飯給食推進も理解できますが、パン屋さんや麺屋さんが継続可能な仕組み作りも必要ではないかと感じています」

『笠間ソフトメン橋本屋』の工場に潜入(1) 小麦粉はすべて茨城県産。「大手製粉メーカーで丁寧にひいてもらってます」
『笠間ソフトメン橋本屋』の工場に潜入(2) 一気にゆで上げた麺は、即冷水で締め、個装される。「品質は機械と従業員のダブルチェックです」
『笠間ソフトメン橋本屋』の工場に潜入(3) 40分かけて蒸気殺菌(90度)。ホカホカのソフト麺をのせた配送トラックは朝8時には出発

祝50年! ミルメークは47都道府県で愛され中

 アンケートで、約4割が給食に“出た”と答えた『ミルメーク』。そのうち8割強が“好きだった”と回答している。そんな人気者の誕生秘話はあまり知られていない。

「3代目の社長が営業マンとして全国を飛び回っていたとき、栃木県の栄養士さんから相談を受けまして。“脱脂粉乳から瓶牛乳に切り替わるが、カルシウムやビタミンが減ってしまう。なんとかならないか?”と。栄養素をそのまま牛乳に加えたところ、おいしくない。試行錯誤していたある日、銭湯でコーヒー牛乳を飲む人を見て、ひらめいたと聞いています」

 とは、開発・販売を行う大島食品工業の中根勇常務取締役。

 そうして昭和42(’67)年に産声を上げた『ミルメーク』は、加えるだけで、牛乳が甘く飲みやすくなると一気に全国の学校給食に広がった。

元祖は粉末タイプでしたが、のちに瓶牛乳により溶けやすい顆粒タイプを作りました。そして、瓶牛乳からパック牛乳への移行に合わせ、液体タイプも開発しました」

【左】学校給食用の『ミルメークコーヒー(液体)』。さらにココア、いちごもある。【中】学校給食用の『ミルメークコーヒー(顆粒)』。「今も、もちろん現役です」。【右】牛のキャラがほのぼのかわいい家庭用。中には給食用と同じ個包装が入っている

 現在も47都道府県すべてで飲まれている『ミルメーク』。ただ、メーカーのお膝元である名古屋市では採用されていない。

「食育として“牛乳は白いもの”と認識させたい、とのこと。地元ですので、使っていただけるように努力はしているんですが、やはりそこは自治体の考え方ですので。

 ただ、全国の学校からは“『ミルメーク』の日は牛乳の飲み残しがほとんどない”“お休みの子がいると争奪戦になる”、親御さんからは“自分の子どもにも飲ませたい”というお声をよくいただくのが、弊社の誇りです」

 いまやコーヒー味ばかりでなくバリエーション豊か。

「リクエストに応え、ココア、いちご、バナナ、抹茶など全8種類あります。でも、ダントツの人気№1はコーヒーです」

 ’93年からは学校給食の枠を超え、全国のスーパーや100円ショップなどでも販売されるように。

「おおげさなことは言えませんが、子どもたちの笑顔のほんの一部を担えたら。安心安全はもちろんのこと、おいしいもの、喜んでいただけるものを作っていきたいと考えております」