来たる10月22日の衆院選に向けて、押さえておきたい安倍政権の実績と課題。ここでは“子ども政策”に焦点を当てていきます。

いまだ「7人に1人が貧困」

 自民党は待機児童対策として、’20年度までに32万人分の保育の受け皿を整備すると衆院選公約に掲げている。ところが、安倍政権は’13年に、’17年度末までに40万人分の受け皿を増やし「待機児童をゼロにする」とし、’15年には50万人分の整備を謳っていた。もちろん実現できていない。

(写真はイメージです)

 そのため今年5月、目標達成を3年先送りにすると表明したばかりだ。

 一方で、子どもの貧困も深刻だ。日本では現在、7人に1人の子どもが貧困に悩まされている。先進国の中でも最悪の水準だが、安倍政権は、この問題とは切っても切り離せない。

 ’12年冬の政権発足後、翌’13年6月に『子どもの貧困対策法』が超党派の議員立法で成立、’14年には『子どもの貧困対策大綱』ができた。

 公益財団法人・子どもの貧困対策センター『あすのば』の小河光治代表理事は、「法律が成立したことは評価できます。しかし財源に課題があり、貧困対策が重要との認識はあったと思うが、コンセンサスを得られなかった。法律を実効性のあるものにするため『あすのば』ができました」と話す。

 子どもの貧困率は’09年に発表して以来、右肩上がりに上昇してきた。貧困率とは、世帯収入からひとりひとりの所得を試算して順番に並べ、真ん中の人の所得(中央値)の半分・貧困線に届かない人の割合をいう。子どもの貧困率は、18歳未満で貧困線を下回る割合だ。’16年の調査では13.9%。過去最悪の16.3%だった前回より2.4ポイント改善した。

子どもの貧困率の推移(厚生労働省「国民生活基礎調査」より編集部作成)

「背景には子育て世帯の雇用や所得の上昇があります。最低賃金も上がりました」(小河代表理事、以下同)

 大綱には入っていなかったが、児童扶養手当の第2子以降の加算額が20数年ぶりに引き上げられた。

「官邸主導といわれていますが、いい意味で働いた」

 だが、生活が苦しい状況は変わっていない。

「非正規労働者が正規労働者に変わっておらず、景気が悪くなったときの調整弁として機能する危険があります。東北や熊本の被災地で調査していると、皮膚感覚としては、解消に向かっているとはいえません」

 また今回の衆院選で、自民党公約には、返還不要の給付型奨学金の拡充が含まれている。昨年6月の『ニッポン一億総活躍プラン』で必要性がいわれていた。

 支給額は、国公立大自宅通学者は2万円、国公立自宅外通学・私立自宅通学者には3万円、私立自宅外通学者には4万円。児童養護施設出身者には入学金として一時金24万円が支払われる。ただ、国公立大進学者には授業料免除制度の活用を促し、月額2万円が減ることになる。’17年度は、自宅外通学者で、住民税非課税世帯や児童養護施設などで生活する子どもには先行実施されている。

「制度ができたことは評価できます。これまで低所得世帯の子どもは大学進学をあきらめていました」

 ただ、授業料や入学金の高騰を考えた場合、支給額では半分にも満たない。

支持率を下げたところに、子どもの貧困対策を持ってくる

 子どもの貧困対策という面で見れば評価されることも多い安倍政権だが、「生活保護の改悪の中でなされたという矛盾を抱えています」と指摘するのは、『なくそう!子どもの貧困』全国ネットワークの世話人で、山野良一・名寄市立大学保健福祉学部教授だ。

 子どもの貧困対策では、大綱に基づいて’15年10月に日本財団内に「子供の未来応援基金」が作られ、寄付が呼びかけられた。最終的には8億円を超えた。今後、基金の管理は独立行政法人に移管される。

「国民運動として寄付を集めましたが、重要政策であるのに、民間の寄付に頼るのはいかがなものでしょうか」(山野教授、以下同)

 また、第2子以降の児童扶養手当の加算については、

「今まで現金給付はしないと言ってきたのに、昨年5月になぜやったのか。安全保障関連法に関連して、内閣支持率が下落傾向にあった時期です。支持率を下げたところに、子どもの貧困対策を持ってきています」

 給付型奨学金の拡充についても、支持率下落の中で、安倍総理が解散・総選挙という時期に言い出した。

「幼稚園の無償化と給付型奨学金。それらをチラつかせ、安全保障政策をしようとしています」

 貧困対策について語るとき、安倍総理は「やる気のある子ども」と言う。だが、貧困状態にある子どもは、そもそも意欲を持ちにくいとの指摘もある。

「いじめとの関連も指摘されていますし、非行とも関わりがある。意欲のある子ばかりを救っても、貧困問題は解決しません」

取材・文/渋井哲也