A君は校舎の3階から飛び降り自殺した

「過呼吸の報告なかったな。土下座の報告もなかったな。報告を上げる上げないの判断はやっぱり甘かったですね。すっごく反省ですね。報告を上げる当事者の判断に任せている部分が多くて。当事者がこれは報告しよう、これは報告しないでおこうと、その人の判断に任せてしまっている。個々の判断が多かったと。それが甘かったなと」

 連絡体制の不備を認める堀口修一校長(10月19日付で退職願を提出)。過呼吸という生徒の体調異変を知らされなかったなど、対処ができなかった遺族は「悔やみきれない」。

教師によるいじめだと思っている

 企業であれば、明らかな隠ぺいではないのか。

「そう言われたら、そうかもしれないけど。どこまでっていう報告の基準を作ることが何より大事だと思いますけどね」と町教育委員会も否定はしない。

 全校生徒は40人。校長や教頭をはじめ先生方の目が隅々まで届く規模の福井県池田町の町立池田中学校で今年3月、2年の男子生徒A君(当時14)が飛び降り自殺した。

 生徒が自殺した場合、真っ先に疑われる原因はいじめ。

 しかし、有識者らによる池田町学校事故等調査委員会が作成した調査報告書には、はっきりと「いじめによる自死ではないと判断した」。では一体、何が原因だったのか?

 報告書には《本生徒は、中学校2年の10月以降、課題提出の遅れや生徒会の活動の準備の遅れなどを理由に担任や副担任から厳しい指導叱責を受けるようになり(中略)精神面における外傷的な体験をし、自己評価や自尊感情を損ない、事故直前の3月6日以降、担任から生徒会をやめるようにとの叱責や、副担任から弁解を許さない理詰めの叱責など、関わりの深い担任、副担任の両教員から立て続けに強い叱責を受け、精神的なストレスが大きく高まった

 と記されている。つまり、原因は担任と副担任による叱責にかこつけた“いじめ”。

 今月中旬、自宅でメディアの取材に応じた母親の言葉が、本質をえぐっている。

「原因については教師によるいじめだと思っています」

 そう目に涙を浮かべながら話したという。

 報告書で、担任に叱責され自殺したA君を目撃した生徒は「言い方がひどかった」「(聞いている者が)身震いするくらい怒っていた」などと証言しているが、校長の認識は若干、違う。

「担任の先生が大声で怒鳴っているのは見たことがあります」と認めつつも、

「A君が担任にひどく叱られている場面を見た記憶はないんです」とすっきりしない回答。副担任の叱責についても

「副担任の叱責が強いとは僕は思ってないです。(強くないと)僕は思っているんです。僕の主観です」と、かばう。

校長にも家庭にも過呼吸の報告はなし

 客観より主観が優先してしまう教育現場のトップに、事態が悪化しないように食い止める力は、むろん期待できず、最悪の事態を招いてしまった。

 救えるチャンスは、何度となくあったが、それは見逃された。もしくは、あまり重視されなかった。

 A君は、池田小学校6年当時、同小で家庭科の講師をしていた副担任にミシンがけで残され帰宅バスに間に合わなかった過去があり、中学に赴任してきた当時、家族に副担任は嫌だと伝えていた。

 副担任が理由で男子生徒は「学校に行きたくない」と登校を渋ったことがある。昨年5月のことだった。その理由は「宿題未提出の理由を言い訳だとして聞いてくれない」というもの。

 急きょ家庭訪問した担任に母親は副担任の交代を求めたが、担任は「代えることはできない。副担任と2人にならないようにしっかり見ていきます」と約束したが、口約束はすぐに破られる。その証拠に、副担任が男子生徒を別室に呼び出すことに、許可を与えている。

 宿題の提出をめぐっては、「やらなくていい」と言った副担任に「やらせてください」と男子生徒が土下座しようとしたこと、過呼吸だと副担任にビニール袋を求めて、副担任がビニール袋を渡し背中をさすったことがあった。過呼吸に関しては、命を絶つ前日の出来事だ。

 このような異変が校長に報告されることはなく、生徒の重大な体調問題でもある過呼吸について、家庭に連絡されることもなかったという。

 報告書は《副担任の指導に対し、土下座しようとしたり、過呼吸を訴えたことなどは、本生徒の追い詰められた気持ちを示すものである》と、見逃した責任を指摘している。

弔問に行かなかった担任と副担任

A君が通っていたとみられる通学路

 亡くなるひと月ほど前、2度目の登校渋りがあって家庭訪問した担任に、祖母は「テレビで言っているようなこと(自殺など)にはならないようにしてほしい」などと伝え、担任は男子生徒に「命は大事なんだぞ、命はひとつなんだぞ」と、生徒が死ぬ恐れがあるかもしれないということを自覚する発言をしておきながら、受け止められなかった。

 副担任の行きすぎた指導法も校長と教頭に報告したが、問題はスルー。

 A君が亡くなった後、弔問に校長らは来たが、担任、副担任は来なかった。

「こちらが来てくださいといって、担任と副担任が来てくれました」

 A君の母親はつらい表情で答えたが、なぜ遺族から声をかけられないと動かないのか。池田町教育委員会は、

「事件以降、担任の先生は異動してしまいましたから」

 と明かし、堀口校長は、

「これは僕らの勝手な主観に基づく判断なんですけど、われわれを受け入れてもらうには時間がかかるんだな、行っても受け入れてもらえないだろうなと思惑が働いて。日にちが過ぎていって」

 と当時の状況を振り返った。校長がそもそも勝手な判断をする学校だからこそ、教員も勝手な判断に走ったのか。

 法政大学特任教授で教育評論家の尾木直樹氏は、

「生徒数が少ない学校は組織だった報告とか会議をかけなくても、教員は全校生徒の名前を覚えてるでしょ。でも、そういう恵まれた条件が安易な方向に行って、基本的なことをおろそかにしてしまったんじゃないかなという気はしますね。大規模校であれば、みんなで情報を共有しましょうとなるんですけどね」

 と、小規模の学校だからこその懸念があるという。また担任の怒声については、

「でかい声を出すってことは、自分の思いとかをぶつけるってことなんです。恐怖ですよ」

 と時代遅れの大声の叱咤激励にダメ出し。

「生徒指導で一番大事なのは生徒を理解する、生徒の話をよく聞くこと。しっかり受け止めて心の叫びをつかまえることができれば、生徒は先生に信頼を寄せ始めます」

 大声で怒鳴る、強く叱責するといった誤った教育が生徒を追い詰め、命を奪った。今回の“事件”を決して忘れず、2度と起きないようにしなければならない。