座間9人遺体事件の現場付近には、花や飲料が供えられていた

 白石隆浩容疑者はツイッターで「死にたい」などとつぶやき、自殺願望がある女性らを物色していた。舞台となったのはソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)だ。以前から、インターネットと自殺に関連する事件は起きていた。殺人事件に発展するのは稀なケースだが、なぜ、インターネットで「死にたい」とつぶやくのか。これまでの取材を通じて背景を探る。

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《一緒に死ねる人いませんか?》

 中国地方に住む男子高校生の浩二(18=仮名、以下同)は複数の「自殺系サイト」で呼びかけた。結局、知美(32)と心中をしてしまった。

「自殺サイト」とは、自殺に関する情報が掲載されているものや、意見などのやりとりができるサイトを指す。なかでも電子掲示板では、特定のテーマに関して意見を述べたり、情報交換することができる。こうした掲示板に心中相手を募集した。

 心中相手募集には何度か応じたことがあった。しかし、返信がなく、自分で募集しようと考えた。一緒に自殺をする相手を探す理由はさまざまだが、浩二の場合、「約束があれば死ねる」という考えが大きかった。

 20代後半の男性から反応があった。同じ県内に住んでいたため実際に会い、方法について話し合った。

「首吊りがいいんじゃないかな?」と、男性が言うと、浩二は、

「練炭自殺がいいよ」

 と手段にこだわり、その後、連絡が途絶えた。

女性と心中を“約束”した

 執着している浩二は掲示板で別の呼びかけをした。知美から連絡があった。こうしたやりとりをする過程で、私の取材を受けた。

 中国地方の農村で生まれた浩二。夜寝るとき、「翌朝になっても目が覚めなければいいな」と思うようになったのは小学校高学年のころ。近所に遊ぶ友達はいなかった。テレビゲームは暴力的として親から禁止された。

 中学1年生のころから学校でいじめをうけた。クラス内の人間関係もうまくいかない。

 両親は、

「いじめがあれば逃げればいい」

 としか言わず、問題解決に積極的ではなかった。そんな心情を引きずったまま高校に入学することになる。

「他人と約束していれば、『死ななければならない』でしょ。女性と(心中をしようと)約束した」

 取材後、浩二は実家に帰った。「(知美が)断ってきたら、もう少し生きてみようと思う」とも言っていた。数日後、行方不明となった。父親の車に乗り、いなくなった。知美と一緒に亡くなっているのが発見された。浩二は、知美の強い自殺願望を振りほどけなかった。

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 自殺サイトに集まる人たちは必ずしも「死にたい」人ばかりではない。性暴力を目的とした鬼畜な男たちもいる。

「昔から死とか自殺とか考えていたわけではないです」

どうせなら殺して欲しかった

 都内在住のOL響子(27)は言う。学生時代から家族に特に問題はなく、良好な関係が続いていた。学校でも友人に恵まれ、成績も真ん中ぐらいで、平坦な日常を過ごしていた。しかし、高校時代に友人を交通事故で亡くした。

「彼女のことを好きだったし、とても仲がよかったんです。そんな人が突然亡くなってしまったことで、『人間はいつ死ぬかわからない』と思うようになり、死について考えるようになりました」

 大学時代、響子は友人関係で悩んだ。ネットの相談サイトにアクセスすると、よく相談に乗ってくれる友人ができた。サイトのオフ会にもよく出かけ、実際にその友人と遊んだ。しかし友人がある日、自殺したことを聞かされた。

「その喪失感から、私自身も自殺を考えるようになる。飛び降りを何度か試みましたが、ケガをするだけで死ねませんでした。そのため、確実に死ぬ方法として、集団自殺を思いつきました」

 自殺サイトで自ら募集すると、返事は数通あった。条件や日程の会う人は1人だけだった。下見をしようということになった。相手は見た目は30代後半で、サラリーマン風の男性だ。

 レンタカーは響子名義で借りた。山中で場所を探していて、休憩をしようと駐車場に止めた。外でふらふらしていると、男が突然、襲いかかってきた。そして山中に放置された。

「抵抗はしましたが、どうなってもいいと思っていました。どうせなら、襲うのではなく、殺してほしかったです」

 自殺サイトは自殺や犯罪の温床にすぎないのか。いや、サイト内での出会いによって、生きることに価値を見いだす場合もあるのだ。

 東北地方に住むフリーターの美沙都(19)は「1人で死ぬのは怖い」と思い、集団自殺に関心を持った。自殺サイトで何度も呼びかけたことがある。高校時代に呼びかけた中には、小学生からの返信もあったという。

「小学生を巻き込むのは罪悪感がありましたので断りました。20代と30代の男性から返事があったので、駅で待ち合わせをしたのです。が、誰も来ませんでした」

共感と共有が恋愛関係になることも

 その後、死にたい理由を書き込む自殺掲示板に“見た目も内面も自信がない”と感じてきたことを告白するかのように綴った。

 すると男性から、

《話を聞かせて》

 とメールが届いた。

「実は、男性も同じ悩みを抱えていたんです。やりとりをするうちに信頼しあえるようになりました。死にたいと思わなくなったんです。自分が死んだら悲しんでくれる人がいるとわかってうれしかった」

 2人は恋愛関係になった。自殺サイトなのになぜ、恋に落ちるのか。お互いが「共感」を求めていたことが大きい。共通の悩みを持っていると、共感度が高まったりする。

 しかもメールやDM(ダイレクトメッセージ)、LINEでのやりとりが多ければ多いほど、時間を共有している意識は高まる。共感と共有はネット恋愛を生み出す要素だ。

 座間市の事件でも、「付き合おう」などといった言葉のほかに、短時間で多くのやりとりをしていた。白石容疑者は“恋愛”のような関係に持ち込もうとしていた様子がうかがえる。

 もちろん、美沙都の死にたい願望がゼロになったわけではない。この男性と出会う前は、20歳になったら死のうと思っていた。しかし、今では30歳までは生きてみようと思っている。

 事件を受けツイッター社は自殺や自傷を助長したり扇動することを禁じると発表。何がリスクかは判断が難しい。単純な規制にとどまり、叫ぶ場所を失い、生きる術を見いだすきっかけを奪われるような事態は避けたい。追い込まれている人は余計に死にたくなるのではないか。


渋井哲也(しぶい・てつや)◎ジャーナリスト 1969年生まれ。新聞記者を経てフリーに。若者のネット・コミュニケーションや学校問題、自殺などを取材。著書に『命を救えなかった』(第三書館)、『絆って言うな』(皓星社)、『自殺を防ぐためのいくつかの手がかり』(河出書房新社)など