タレント論や女子アナ批評での、真理に迫る“深読み”が人気のライター・仁科友里さんが、男性脚本家のドラマに潜む“オトコの思い込み”をあぶり出します。

『奥さまは、取り扱い注意』に主演する綾瀬はるか

「クズ男VS正義感あふれるオンナ」が視聴者の支持を得ているが…

『奥さまは、取り扱い注意』(日本テレビ系 水曜 夜10時)が、高視聴率をキープしています。

 高級住宅街に住む新婚美人妻・伊佐山菜美(綾瀬はるか)の前歴は、某国家の特殊工作員。かつて培った観察力・腕力を武器に、ご近所の主婦たちの“敵”を倒していくというストーリーです。綾瀬のアクションシーン、敵をやっつけた後、うってかわって勇輝(西島秀俊)に甘える姿も見どころでしょう。

 DV男、恐喝男、息子の家庭教師の女子大生と不倫する男……。次々に登場するクズ男を菜美が鮮やかに成敗することで、女性視聴者の共感や支持を狙っているのだと思います。リアリティーや辻褄(つじつま)は全く無視して、肩に力を入れずに楽しめる娯楽性を重視していることも理解しているつもりです。しかし、「クズ男VS正義感あふれるオンナ」という構図を作ったことで、かえって男性脚本家の“オトコの思い込み”が強調されているように私には感じられます。

 その傾向が顕著だったのは、11月8日放送の第6回です。

 菜美はフラワーアレンジメント教室で、冴月(酒井美紀)、靖子(芦名星)、千尋(原田佳奈)と知り合います。冴月の夫、イケメン歯科医の達郎(竹材輝之介)が自宅で殺害され、菜美が第一発見者になってしまいます。自分が犯人にハメられたことを感じた菜美は、真犯人探しを開始。靖子、千尋が実行犯、冴月も殺害計画に加わっていたことを突き止めます。

 動機は靖子と千尋の二人が、それぞれ15年前に達郎にレイプされたこと。時を経て偶然再会したことで、靖子と千尋の復讐(ふくしゅう)心に火がついたのです。

 合点がいかないのは、冴月が夫の殺害に加わっていることですが、冴月はその理由を「私は妻である前に、女だった。だから、女の痛みを無視することができなかった」と説明しています。いつもなら悪者を成敗する菜美ですが、「女である哀しみ」を理由に、彼女たちを警察に突き出すことはしません。

 レイプ被害に遭うことで殺人事件を起こしてしまうほど、レイプ被害の精神的ダメージが大きいことを「女の痛み」だとするのなら、これこそが“オトコの思い込み”です。レイプは男性が女性を犯すことではありません。数こそ少ないものの、男性も被害にあっています。また、異性間で発生するとは限らず、同性間でも成立します。レイプは「女の痛み」ではなく「被害者の痛み」なのです。レイプを「女の痛み」「女の哀しみ」と断じるのは、被害者になる確率が少ない異性愛者、つまりオトコではないでしょうか。

 いずれにしても、レイプはこのテイストのドラマで扱うのに適した題材とは、思えません。

菜美の決めゼリフ「あなたの味方」にも違和感

 また、菜美はことあるごとに「あなたの味方」と女性たちに語りかけます。正義の味方らしいセリフですが、私はここにも大きな違和感を覚えます。女性の連帯がウソであると言う意味ではありません。女性同士が味方となるには、動機やプロセスが必要ですが、このドラマではそのあたりがまるで描かれていないので、説得力がないのです。

 また、「女だから、女の味方」は、実はオトコ目線ではないかと私は思っています。男性が同僚や友人を裏切っても“個人の選択”と解釈されるのに、女性が同じことをすると「女の敵は女」とか「女はコワイ」という言い方をされがちです。そこにあるのは「女なら、女の味方をすべきなのに」という前提条件でしょう。「女だから、女の味方」は「女の敵は女」の温床なのです。

 とはいえ、旬の俳優を多く起用したこのドラマが、注目を集めるのは理解できます。

 町で唯一のまともな男、菜美の夫の伊佐山勇輝(西島秀俊)は、本当に“いい人”なのか。オトコ目線でどう調理されるのか、期待しています。

(文/仁科友里)

<プロフィール>

仁科友里(にしな・ゆり)

1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に答えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。近刊は、男性向け恋愛本『確実にモテる世界一シンプルなホメる技術』(アスペクト)