テレビを見ていて「ん? 今、なんかモヤモヤした……」と思うことはないだろうか。“ながら見”してたら流せてしまうが、ふとその部分だけを引っ張り出してみると、女に対してものすごく無神経な言動だったり、「これはいかがなものか!」と思うことだったり。あるいは「気にするべきはそこじゃないよね〜」とツッコミを入れたくなるような案件も。これを、Jアラートならぬ「オンナアラート」と呼ぶことにする。(コラムニスト・吉田潮)
井上真央

 

オンナアラート#4 
ドラマ『明日の約束』

 大河ドラマ『花燃ゆ』以降、いろいろと、本当にいろいろとあって、久々に主演に返り咲いた井上真央。毒母をテーマにした非常に重厚なドラマ『明日の約束』(フジ・関テレ系/毎週火曜21時)だが、あまり話題になっていない。

 毒親の被害者は観るのがキツイかもしれないし、高校が舞台でひとりの男子生徒の自殺が契機となっているところから、のほほんと気軽に観られないワケで。

 でもね、こういう重厚な作品にも、オンナアラートのポイントはあるんですわ。それは「被害者ヅラするのが上手な女」という点。みなさんの周りにもいるでしょ? 本当は加害者側なのに被害者ヅラするのが長けた女って。

 観ていない人のために、ちょっと解説。井上真央は高校のスクールカウンセラー。自殺した男子生徒(遠藤健慎)の母親(仲間由紀恵)は、「学校内でいじめがあった」と主張する。テレビや週刊誌、人権派弁護士を味方につけ、学校と教員、そして井上を訴えようとする。

 実際、遠藤がいじめられてきた原因は、過剰に干渉しまくるモンスターペアレントにあったとわかる。息子を溺愛するあまり、監視・盗聴・過干渉を続けてきた仲間。教育委員会のお偉いさんである夫には浮気されていて、裕福だけどかなり不幸で不安定。

 ちょっとふっくらした仲間が、声音を振るわせながらモンペを見事に演じている。息子の自殺が、自分の過干渉と関係しているとはつゆしらず。完全に被害者側となって猛威を振るうわけだ。

 親子関係に限らず、被害者のフリをするのが上手な女は世の中にたくさんいる。「私は悪くない」からスタートして、自分の歪んだ正義に基づいて、真実を捻じ曲げていく。

 そして、周囲にせつせつとマイナスメッセージを発しまくる。激情型で言葉巧み。時には逆ギレしたりして。心優しい人や疑うことを知らない人は、うっかり巻き込まれてしまうのだ。

 こういう、自分を正当化して他人を罰したい女は厄介だし、関わりたくないものだ。微笑みながら後ずさりして、距離を置いていくしかない。これ、子どもには非常に難しいことだが、全力で逃げてほしいと思う。

自分の思い通りにならないのが許せない女

 このドラマにはもうひとりの毒親が登場する。井上の母(手塚理美)は精神的支配と洗脳を繰り返す毒母である。ドラマのタイトル『明日の約束』というのは、井上が幼少期から毎日強いられてきた約束のことである。

 ノートには毎日、手塚の支配欲が綴られている。男の子からラブレターをもらったら「いやらしい」となじられ、「女ぶって気持ち悪い」と罵られたり。「言うとおりにしていればいい」と日々地獄の約束をさせられるのだ。

 井上は母の支配に怯えるのではなく、諦めの境地に至っている。もちろん嫌気がさして、心理学を専攻してスクールカウンセラーになったわけだが、今でも母と同居を続けている。毒母の支配から卒業できずにいるという状況だ。

 うん、重いよね。夜、疲れて帰ってきて、ドラマでこの重みを受けるのは相当キツイんだけど、自分の思い通りにならない女という観点では、オンナアラートが鳴る。

 母と娘の間で支配関係が生まれるのは虐待に近いモノがあるけれど、普通に友人関係でも支配したがる女はいる。キーワードは「あなたのためを思って」である。恩着せがましいったらありゃしない。

 思い通りにならないと、拗ねる、キレる、突如攻撃してくる。あるいは、逆に猫なで声で近づいてくる。DVと同じからくりだ。ほだされてはいけない。

 母親がこの手の女だと、子どもは本当に大変だ。幼少期からこの状態が繰り返されていれば、逃げる気力も奪われてしまう。「親だから見捨てられない」という、人としての在り方を問うて自分を責めてしまうかもしれない。

 でも、主体性を奪われるのは、親子でも友人でも職場でも、どんな関係においても、不健全だ。誰かの言うとおりに生きるのはラクだが、それがうまくいかなくなったときに、誰かのせいにしてしまう危険性もある。

 冒頭の、被害者ヅラにつながっていくかもしれない。主語を自分に取り戻さないと、負のスパイラルに陥るだけ。

 実はこのドラマの初回で、母親から卒業した成功例も描いていた。男にだらしなく、娘をネグレクトするシングルマザー(青山倫子)から離れて、親戚の家に身を寄せる女子高生(山口まゆ)がいたのだ。

 山口は「親を捨ててしまった」と自分を責めるが、これは立派な親からの卒業であり、決してマイナスではない。ドラマの中で、ここだけは明るい救いでもあった。

 作品全体の大きなテーマとして、「親の在り方・子の決断」がある。きっと井上も、卒業できるのだろうと期待しているんだけど、さて、この先はどうなることやら。

 はい、今回は真面目です。このドラマを茶化してはいけないし、真摯に見守っていくべきだと思ったので。でも、「いびつな親子問題に依然として男は不在」というのは気になる。女任せ、役立たず、出番なしということなのか。