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 孫のお世話でヘトヘトのシニアが増加中! 子世帯とのムリのない付き合い方を著書『子や孫にしばられない生き方』で披露する河村都さんに、そのコツを聞いてみた。

ルールを作って自分らしく孫育て

 2016年の夏にひとり娘が双子を出産、2世帯住宅で初孫との同居生活が始まった教育コンサルタントの河村都さん。長年にわたって幼児教育に携わり、孫育てを楽しみにしていたはずが、初めて孫と対面したとき、自分が憂鬱で不安な気持ちに陥っていることに気がついたそうだ。

マタニティブルーならぬ、“孫ブルー”です。孫は可愛いし、娘に子どもが生まれて本当にうれしかった。でも、孫の存在が私の人生にどう影響してくるかを考えると、心配になったんです。初めての、しかも双子の育児をする娘の力になりたい。でも一方で、これからも仕事を続けたいし、残りの人生、自分の好きなことも大事にしたかった

 そう河村さんは振り返る。

 2015年、最愛の夫が突然の病に倒れ、1年半の闘病を経て65歳でこの世を去った。また、河村さん自身も初期の肺がんが見つかり、孫が生まれる2か月前に手術を受けた。こうした体験から、「人生はけっして長くない。1日たりともムダにしたくない」との思いが強くなったと明かす。

 そこで河村さんは、育児のサポートと自分らしいライフスタイルを両立させるため、娘世帯に“暮らしのルール”を提案した。

 例えば、河村さんのオアシスでもあるリビングに、孫のおもちゃを置きっぱなしにしないこと。日中の仕事に備えるため、緊急時を除いて20時以降は子育てを手伝わない。孫育てのためのスケジュールを共有する、といった内容だ。

「体力的に続けられるか想像しながら、こうありたいと願う暮らしが実現できるように考えました。もちろん、娘夫婦と話し合って歩み寄ることが必要だし、不具合があったり、孫の成長によって状況が変わったりすれば変更します」

きちんと伝え合い家族でハッピー!

 現在、娘夫婦も河村さんの思いを快く受け止め、一家の孫育ては良好だ。

 例えば、娘の夫は出張が多いが、河村さんはルールどおり事前に予定を把握して、出張中の夜は在宅するように調整している。

 出張が8日間続き、毎晩、孫たちの入浴を手伝ったとき、河村さんは娘の夫が帰宅して早々、「すっごく大変だった」とキッパリ言った。娘も「何百回も“私が大変なことを彼は知っているかしら”と言っていたよ」と河村さんを援護。

 すると娘の夫は、「十分に感謝しています」と笑ったそうだ。

「それを聞いて、私もスッキリして終わりです。可愛い子や孫にかかわることですから、楽しく話題にしたいですね。でも、言うことはハッキリ言うのが私のやり方(笑)。深刻な話し方をしたら、お互いイヤな気持ちになってしまいます。

 そして、思ったことは早めに伝え合うことが大事。先に延ばせば、どんどん伝えにくくなります。ルール作りもそのためのもの。ルールの内容はそれぞれの家族によって変わります。

 私たちの気持ちや体調を子どもの世代に察してもらうことはムリだし、子どもたちを取り巻く環境を、私たちの世代が察することも難しいですから

 祖父母はいつまでも元気で、孫の面倒を見るのが喜び──。そんな社会全体の思い込みが、シニア世代の実像とズレているのでは? と河村さんは指摘する。

 晩婚化が進み、女性の平均出産年齢は上昇傾向にある。となれば、孫ができたころには祖父母もおのずと高齢になり、日々の孫育ては心身にかかる負担が大きい。また最近は、働くシニアが増えており、孫の世話を焼く時間が取れないケースも目立つ。

 河村さんが、孫をもつ同世代の女性たちを集めて座談会を開いたところ、それぞれが孫育てに費やす体力、支出、時間などに対する不満をこぼしていたとか。

「もちろん、生活のすべてを孫に捧げる暮らしを幸せに思う人は、それはそれで素晴らしいこと。でも、そうではない人、負担に感じている人の声も、広く社会に届いていいのでは。“老い”とはどういうことか、子どもや孫に伝えるのもまた、私たちの役目です

 家族みんなが幸せを感じるためには、孫への「愛」という言葉でごまかさないで、必要なことをきちんと伝え、理解し合うことがなにより重要といえそうだ。

これで脱・孫ブルー! 孫のお悩み、ズバッと解決します!

【お悩み:その1】
 嫁に孫たちの習い事を相談され、「そろばんは? 近所に教室があるよ」とアドバイスしたら成り行き上、私たちが月謝を払い、送り迎えまですることに! 月謝はけっこうな額でツラいです……。

【お答え】
 孫の習い事で、祖父母は月謝をねだられやすいので、先に頭を働かせることが肝心。例えばアドバイスをするときに、「お月謝を出せる状況なの?」と尋ねて、嫁が出せないと言ったら、「お稽古事は、もう少し先でいいんじゃない」と提案する。すでに月謝を支払っている場合は「私は見栄っ張りだからお月謝を出してるけれど、実は厳しいのよね! ずっと続けるとなったら、ごはんを1食、減らさなくちゃいけないかも。この先は勘弁してくれない?」というように、「出したくない」ではなく「出せない」という言い方をします。教育費は親が払うもの。冷たいようですが、自分たちのフトコロ具合を計算して、子育てしてもらいましょう。

【お悩み:その2】
 娘が産後1か月ほどわが家で寝泊まりし、家がわりと近いので娘の夫も毎晩、食事に来ていました。ところが家に戻ってからもしょっちゅう孫を連れてやって来て、夫と一緒に夕食を平らげて帰ります。出かけられないし、家事も増えて大変!

【お答え】
 娘さんたちが自宅へ戻るとき、「ここまで孫を見守れてよかったわ。今後も週1回ぐらいだったら来て大丈夫よ」と伝えるべきでした。そのチャンスを逃したなら、「孫に会えるのはうれしいけれど、あまり頻繁だと体力の低下を感じるの。七五三も元気にお祝いしたいな」と伝えては? 「全然来なくなるのは寂しい。◯曜日は必ず空けておくね」などと、自分も協力する姿勢を見せるとベターです。

【お悩み:その3】
 娘が離婚して孫2人と戻ってきました。夜遅くまで残業して家賃と生活費を入れてくれますが、孫の面倒は勉強や寝かしつけもすべて私たち夫婦がやっていて、体力的に精いっぱい。かわいそうで娘に何も言えず、孫も不憫です(涙)。

【お答え】
 無理を重ねて身体を壊したら孫の面倒どころじゃありません。そうなると娘さんは、もっと大変な状況へ追い込まれてしまう。加えて、例えば半年後、いまできていることが同じようにできるか誰にもわかりません。何がいちばん大切なのかを夫婦でしっかりと考え、整理して、負担を減らす方法を見つけてはいかが? 私なら、公的機関のサービスを探します。そして、娘さんや孫たちを突き放すのではなく「調べたら、こういうものがあったわよ」と提案すればいい。孫のためにすべきことが半分に減ったらずいぶん楽になりますし、ほかの大切なことに労力を回すこともできます。わが身を守ることは、子どもへの愛情でもあるのです。

【お悩み:その4】
 きれい好きでいつもていねいに掃除するのですが、そのたびに嫁が孫を連れて遊びに来ます。帰ったあとはグチャグチャに散らかっていて、いつもげんなり。嫁の前で孫を叱るのもはばかられ、ひとりで泣く泣く片づけています。

【お答え】
 ユーモアを交えて「今度の月曜に掃除するから、その前に遊びに来ない? 汚れても全然気にしないから」と誘ってみては? 帰ってから掃除すれば問題なし。孫であっても“私の城”に来た以上、こちらのルールに従ってもらいましょう。どうしても汚してほしくない場所があったら、「そこをきれいにするの、おばあちゃんがどれほど大変だったかわかる? 絶対に触らないでね」と伝えて。明るく言えば、お嫁さんも気にならず、孫にはそのうち伝わりますよ。

<教えてくれた人>
河村都(かわむ・らみやこ)◎幼稚園教諭を経て、NHK『おかあさんといっしょ』にレギュラー出演。短大非常勤講師、知育教室主任講師を務めた後、一般企業にて24年間にわたり人材育成に携わる。’07年、オフィスカワムラを設立。主に教育現場で講演・研修などを行う。著書に『子や孫にしばられない生き方』(産業編集センター刊 税別1300円)