テレビを見ていて「ん? 今、なんかモヤモヤした……」と思うことはないだろうか。“ながら見”してたら流せてしまうが、ふとその部分だけを引っ張り出してみると、女に対してものすごく無神経な言動だったり、「これはいかがなものか!」と思うことだったり。あるいは「気にするべきはそこじゃないよね〜」とツッコミを入れたくなるような案件も。これを、Jアラートならぬ「オンナアラート」と呼ぶことにする。(コラムニスト・吉田潮)

オンナアラート#5
ドラマ『トットちゃん!』

『トットちゃん!』制作発表

 ドラマで昭和前半を描くのが難しくなってきた。あの頃の背景を再現するには、相当お金がかかるのだろう。テレ朝の昼帯ドラマ『トットちゃん!』(毎週月曜〜金曜昼12時30分放送)を観ていて、つくづくそう思った。

 途中で挿入される背景が、手作り感甚だしいクラフトだから。あの独特の「ほのぼの感」は嫌いじゃないけれど、ドラマとしての迫力が激減してしまうデメリットは大きいなぁ。

 さらに、昨年4月にNHKが作った『トットてれび』がいろいろな面で秀逸すぎて、どうしても比べてしまうわけだ。黒柳徹子を演じた満島ひかりの怪演といい、徹子ホームのNHKで展開するアドバンテージといい、いくらテレ朝と言えども、始まる前から二番煎じ感が漂っていたのも事実。

 でも、オンナアラートの観点でいえば、『トットちゃん!』のほうが断然、勝っていたと思う。徹子の恋愛秘話も入っていたし。全体を通して振り返ってみよう。

女のいびりの歴史に思いを馳せる

 まずは、私が大好きな「女のいびり」編。トットちゃん(清野菜名)と母(松下奈緒)が青森に疎開していた頃の話だ。

 お人好しの宮川一郎太の家(リンゴ農家)にやっかいになる母娘。しかし、宮川の母(中村メイコ)と嫁(いしのようこ)は、内心迷惑と思っている。ただし、あからさまな嫌がらせはしない。そこ、絶妙に北国らしい陰険さが出ていて、思わずオンナアラートである。

 世話になっている一家に、何か恩返しをしたいと考えた松下は、得意な洋風料理を作る。牛乳を入れたホワイトシチューを作るのだが……。松下には「うまい」と言っておきながら、陰で「味噌汁のほうがいい」と文句つけるメイコ&ようこ。

 さらに、得意な洋裁技術を生かして、ご近所から針仕事を引き受ける松下。ついでにメイコとようこのモンペや野良着にも、ポケットやアップリケをつけてあげたのだが……。

 松下の目の前では喜んで、気に入ったフリ。ところが、陰で「こんなもん恥ずかしくて着れるかよ」とディスりまくる。そうそう、そうでなくっちゃ! 

 昭和のあの時代は、そういう陰険ないびりがデフォルトだったよねぇ。表と裏を使いわける昭和20年代の女たちが、まざまざと蘇る。いや、その時代に生きてないけどさ、なんとなくこういう感じだったんだろうなあというリアリティがあったんだよね。

 陰口叩いていた割に、松下が商売を成功させると、コロッと態度が変わるのもおかしくてねぇ。メイコ、最後は松下にかなり影響されたせいか、真っ赤な洋服着ていたし。変わり身の早さというか日和見というか、そこもとてもリアルだったわ。

 ちなみに、陰険ないびりが流行った後は、あからさまな嫌がらせ(バレエシューズに画鋲、的な)が横行した1980年代、面と向かって歯向かう元気な女が出始めた90年代、いびられた怨みを晴らすべく、反撃に出る女が増えた2000年代。

 そして今はSNSに書き込んで密かに、かつ卑怯に復讐する2010年代……。ドラマの中で女たちのいびりは、ちょっとずつ進化してきたのだ。進化じゃなくて、退化とも。要はいつの世もオンナアラートは鳴り続けるわけですよ。

女の自立を認めない・受け入れない男たち

 さて、もうひとつのアラートは「俺様」な男たちである。徹子が生きた時代は男尊女卑がスタンダード(つうか、今も脈々と続ける人々も大勢いて、それはそれで薄気味悪いのだが)。女性の人権を軽視する男たちが多くてねぇ。そりゃあアラート鳴るわけだよ。

 まず、徹子の父親だ。山本耕史演じる父は、男尊女卑の権化として描かれている。徹子の就職に反対し、「女性の幸せは自立ではない」と説く。さらに、松下の叔母である八木亜希子が自立した姿を「寂しい一人暮らし」とけなす。

 徹子を騙して、見合いさせたりもする。考え方や言葉がいちいち昭和の悪しき父親像で、イライラするのだが、実にうまいと思う。そう、この父親は徹子が「自立と働く女のプライド」に目覚めるための必要悪なのだ。

 もうひとり、徹子の両親の仲間で、ダンサーのダニー(新納慎也)である。敗戦後、出征していたダニーは捕虜となった。ヒロポン(覚せい剤)打たれて寝ずに働かされ、地獄の日々を送り、帰国する。

 元伯爵令嬢で恋人のエミー(凰稀かなめ)は、ダニーが出征後、消息不明となり、悲しみに打ちひしがれたのだが、生きていくためには踊り子として自立するしかなかった。場末の酒場で踊り子をしていたところに、ダニーが帰ってきちゃったのだ。

 そこで仲良く、とはならなかったのは、ダニーの男のプライドである。エミーはどんな形であれ働いて、自立した女として確立していたのだが、ダニーはその変化についていけずに、再び行方をくらましたのだ。

 自分の足で立とうとする女や、たくましく前を向く女を、ちんけなプライドから受け入れられない男たち。そこ、アラート鳴っちゃうよねぇ。

 さらにもうひとり。自分勝手な印象しか残らないのが、徹子が恋をした相手、ピアニストの城田優である。東京で淡い恋心があったものの、成就ならず。しかし数年後にニューヨークで再会。

 ところが、勝手にプロポーズしてきて、「パリについてきてほしい」だと? 徹子の今までの努力と功績、女優としての生きざまを全否定じゃねぇか。アラートどころか怒りを覚えた。そんな男についていかないで正解だったよ、徹子!   

 というわけで、改めて思ったのは「徹子、すげえ」という点である。価値観が激変する時代を生き抜き、「働く女・自立した女」を貫いたのだから。敬意を表するとともに、120歳くらいまで生きてほしい。いや、もっといけるかもしれないな。


吉田潮(よしだ・うしお)◎コラムニスト 1972年生まれ、千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。テレビ『新・フジテレビ批評』(フジテレビ)のコメンテーターも務める。また、雑誌や新聞など連載を担当し、著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『TV大人の視聴』(講談社)ほか多数。新刊『産まないことは「逃げ」ですか?』に登場する姉は、イラストレーターの地獄カレー。公式サイト『吉田潮.com』http://yoshida-ushio.com/