痴漢被害を赤裸々に語ってくれた山村さん

 通勤時間帯のラッシュが隠れ蓑になるとでも思ったのだろうか。

 JR埼京線の車両で発生した、4人の男が1人の女性を取り囲み触る集団痴漢事件。11月27日、強制わいせつ容疑で職業不詳の萩原崇智容疑者(34)、会社員の片岡秀照容疑者(49)、職業不詳の細川充容疑者(43)、会社員の斉藤祐輔容疑者(35)が逮捕された。

1号車の痴漢被害が多い

 4人は面識もなく、隠語が飛び交うインターネット上の掲示板を見て自分も痴漢をすることを決めた愚か者たちだ。

 JR埼京線は混雑率も高く、痴漢被害が後を絶たなかったため、'10年から先頭車両に防犯カメラを設置している。

「新宿駅~赤羽駅間など混雑する区間で、警察から特に1号車での痴漢被害が多いという情報があり導入しました。できる限り死角が少なくなる設計・設置をしています」

 とJR東日本広報部。鉄道会社の企業努力を嘲笑うかのように容疑者らが乗り込んだのは、午後7時2分新宿発大宮行きの防犯カメラつき通勤快速列車だった。

 JR東日本広報部は「警察からは痴漢の認知・検挙件数は減少傾向だと聞いています」と説明するが、なぜ容疑者らは警戒しなかったのか。

 情報サイト『All About』の防犯ガイドで安全生活アドバイザーを務める佐伯幸子さんは、表面化しない痴漢被害が多いことを指摘する。

「痴漢被害は女性にとってはつらく恥ずかしいもの。周囲に訴えかけることもできず今、我慢すればいいと終わりにしてしまうことがほとんどなのです。しかし、それが次の被害者を生むことになってしまう。被害に遭った女性は、必ず被害を訴えてほしい」

 つまり女性が大声で叫ぶなど被害を訴えない限り犯行はバレない、と容疑者らは高を括っていたのか。実際、逮捕に至ったのは、板橋駅のホームで乗客の誘導をしていたアルバイトの男子学生(19)が異変に気づき、駅員を通して110番通報したからだった。

混雑時には乗客でいっぱいの埼京線

 かつて声を上げられずに長い間、痴漢被害に遭ったという都内在住の山村由紀さん(仮名、24)に話を聞いた。

「高校生のころ、半年ほど通学時にほぼ毎朝、被害に遭っていました。気づくと私の後ろにいる。他の車両に移動してもついてくる。いつになったら終わるのか、ずっと怖くて不安でした。ブラウスの中に手を入れられ胸をもまれたり、性器にまで……触り方もエスカレートして、もうめちゃくちゃ気持ち悪かったです」

 封印していた忌まわしい過去に、悔しい表情を浮かべる。

「周囲には、私みたいな地味な女が痴漢に遭うんだと思われるんじゃないか、笑われるんじゃないかと思ってしまい、助けを求められませんでした。

 当然、友達にも親にも誰にも相談できなくて……。痴漢に遭っているとき誰かに見られてないか、大丈夫かなという気持ちがあって、すごく嫌で恥ずかしかったです

集団痴漢は「レイプと同じ」

 山村さんが捻挫して松葉杖で通学するようになると、善人面をして“大丈夫ですか”と声をかけて堂々と身体を触っていたという憎き常習犯。

「本当に屈辱的で、ぶんなぐってやりたかった」という山村さんは、ある日、覚悟を決め電車が乗換駅に着いたとき、男の腕を取り「この人痴漢です!」。周囲の人が協力し、駅員に引き渡したが、駅員室に向かう途中、逃げてしまったという。

「勇気を出して捕まえたのになんで……。駅員さんも“すみません”って言うだけ。裁かれることもなく、今ものうのうと生きていると考えると本当に悔しい。ほかの人が被害に遭っているかもしれない。今も許せません」

 と語気を荒らげる。今回の集団痴漢事件については、

「女性を囲んで触るなんてレイプと同じですよ。誰にも言えずに悩んでいる人は多いと思います。しっかりした対策をしてほしいです」

 監視カメラや周囲の目をかいくぐる痴漢から身を守るにはどうしたらいいのか。

 警視庁によれば'16年中に都内で発生した痴漢件数は約1800件。その約7割が、駅や電車内で発生している。

痴漢が狙わない服装・雰囲気

 いくつかの対策を、前出の佐伯さんがアドバイスする。

 痴漢は、被害時に抵抗しそうな自己主張が強そうな女性を避ける傾向にあるため、

「個性的な服装や目立つ服装は、狙われにくいですね。被害者がこれ以上の被害を避けるためにあえてゴスロリ(ゴシック・アンド・ロリータ)ファッションをしている人もいます。周囲の人が注目するため、痴漢も手を出せない」

 要は、おとなしそうな子だと思わせないこと。ビジネスウーマン風に装うのも手で、

「パンツスタイルがスカートよりは狙われにくい。ある女子大近くの路線では、入学時期の4月には短いスカートを着用する女性が多いそうですが、被害に遭うためか5月にはパンツやロングスカートの女性が増えるそうです。

 サングラスや帽子、マスクなどで表情を悟られないようにするのも有効です。表情が見えないため、痴漢も手を出しにくい。英字新聞などを持ち、知的な雰囲気を出すのも“弁が立ちそう”“反撃されるかも”と見られ効果がある

 乗り降りに関しては、

「乗車車両を固定しない。乗車前にホームで整列するときは、女性の近くに並ぶことです。ドアの近くや車両の端は、逃げ場がないので避けましょう。寝入ったりスマホに夢中になるのも、無防備になりますから注意が必要です。

 酔った人からは離れ、周囲を見渡しましょう。痴漢は観察されるのを嫌がります。目を合わせるとトラブルになったりするので不審な男性は、のど元あたりから足元まで全身を見ましょう」

 それでも痴漢に遭ってしまうこともある。日ごろから痴漢に遭った際のイメージトレーニングが必要と佐伯さんは話す。

痴漢に、“やめてください”というと二者間のトラブルと思われるので、“助けてください、この人痴漢です”と周囲に言うこと。叫ぶのが難しければ防犯ブザーを鳴らしたり、スマホの画面に文字を入力し、周囲の人に見せ助けを求めます。

 スマホのカメラで位置関係などの証拠を残すことも大切。決して泣き寝入りはせず、必ず通報してください。次の被害者を出さないためにも」

 これから年末年始。痴漢被害で悔しい思いをしないためにも、警戒心を解かないことが大切だ。