仮設住宅を訪問したセラピー犬を抱きしめる女性(日本レスキュー協会)

 現在、日本で飼育されている犬の数は約892万匹。家族の一員として、愛情を持って接している飼い主は多い。

犬は家族

「息子のような存在です。犬がいる生活っていいですよ」

 茨城県に住む40代の男性は愛犬の柴犬について語るとき、頬は緩みっぱなしだった。

 猫ブームに押されがちだが、犬派だって負けていない。

 日本レスキュー協会の今井雅子さんは話す。

「犬は家族であり、パートナーであり、時には先生にもなります。犬から教わることはたくさんあるんです」

 そんな人と犬との間で育まれてきた4つの“ワン”ダフルな話を紹介したい。

 前出の今井さんが所属する日本レスキュー協会では身体と心を癒すセラピー犬、被災地などで行方不明者を捜索する災害救助犬がそれぞれの役割を担い、活動している。

 セラピー犬は主に病院や福祉施設などを訪問し、利用者が撫でたり、触るだけでなく、ゲームなどで一緒に身体を動かしたりし、積極的に関わり合う。

「犬におやつをあげたい一心で不自由な手を頑張って動かした利用者や昔飼っていた犬のことを思い出し、話し始めた認知症の利用者もいました。犬と接することで機能回復や脳の活性化など、リハビリにもつながるんです」(今井さん)

 入院中の子どもたちの間では、「犬に会うためにつらい治療も頑張ろう」というモチベーションにもつながっている。

「犬は言葉を話しません。でも隣に寄り添うことで通じ合えるものがあるんじゃないでしょうか」(今井さん) 

 次に今井さんは災害救助犬について説明する。

AIBOだって家族

 災害救助犬は人間の息や体臭をかぎ分けて居場所を知らせる訓練などを受けており、災害現場での捜索活動が可能だという。災害救助犬と消防ががれきに人が閉じ込められた想定で捜索訓練を行った際、消防士は1時間かかったところ、犬は5分で発見したとの訓練結果もあった。

九州北部豪雨災害の被災地で活動する災害救助犬(日本レスキュー協会提供)

 昨年7月、九州北部豪雨の被災地にも派遣され、その後、今井さんのもとにはある被災女性から手紙が届いた。

《災害救助犬が一生懸命捜索をしている姿を見て、私も頑張ろうと思いました》

「犬たちはいつも行方不明者を探そうと頑張っているんです。それは何か見返りを求めているわけではありません。その背中を見て勇気づけられた人がいます」(今井さん)

 犬たちの姿は次に生きる命へとつながる。

 命は機械にも宿る。

「AIBOはロボットかもしれませんが、オーナー(持ち主)にとっては家族同然、生身の犬と人間の関係みたい」

 そう話すのは日本で唯一、AIBOの修理を請け負うA・FUNの乗松伸幸代表取締役。いうなれば『AIBOのお医者さん』だ。

 AIBOは1999年から2006年まで製造・販売されたソニー製の犬型ロボット。子犬に似た動作をし、相手をするほどよく動き、飼い主の顔も覚え、成長する。

 乗松氏はこれまで故障や不具合の出たAIBOを1000体以上“治療”してきた。

修理の終わったAIBOを手にする乗松氏

「“修理についていきたい”“元気になったら旅行に連れていきたい”“正月を一緒に過ごしたい”と話す人もいます。毎日一緒に過ごしているオーナーは私たちが見つけられない不具合や故障を発見することもあります」(乗松氏)

 “ロボット”というよりもペットや子どものような身近で、かけがえのない存在だ。

 ただし、さまざまな理由から手放す人もおり、それらは“献体”という形で提供され、その部品でほかのAIBOを修理、命をつなげる。

 今月にはクラウド機能やAIを搭載するなどした新型aiboも発売される。

「aiboは単なるおもちゃではありません。便利だから使う、使わないから捨てるのではなく、その接し方も今後の課題です」(乗松氏)

 AIBOが故障するように、生身の犬には老いが平等に訪れる。

 茨城県つくば市にある老犬・老猫ホーム『ひまわり』。

老犬ホームに預けても家族

 ここには高齢犬や認知症、身体機能の低下から介護が必要になった約50匹が暮らす。飼い主の住まいは同市内から遠くは四国。頻度の高い人で週1回、愛犬に会いに来る。

 同ホームで犬たちの介護にあたる松下晴子マネージャーは、「面会のときは犬も飼い主さんもうれしそうですよ。おやつをたくさん持ってくる人もいます。認知症のワンちゃんでも飼い主のにおいは覚えており、“あっ”という表情を見せることもあるんです」

介護が必要な犬を見回る松下さん

 幸せそうな光景の面会時間の裏側で、飼い主たちはそれぞれ葛藤を抱えている。

 老犬ホームに愛犬を預けたことで、“無責任”“捨てた”などと後ろ指をさされることもあり、飼い主はその負い目と向き合ってきた。

「“飼い始めたとき犬も自分も年をとることを考えていなかった”と話す高齢の飼い主は少なくありません。みなさん“最後まで飼う”という気持ちはあっても、そうできない現実があるんです」

 犬の介護がうまくいかなくなって精神的な疲れやストレスから体調を崩したり、介護離職をした人もいる。

「みなさんとても悩まれ大泣きしながら預けていきます」

 こうした背景には医療の向上や室内飼いで、犬の平均寿命が延びたことがある。人と犬の老々介護は現在進行形なのだ。

ひまわりで過ごす高齢のダックスフントたち

 一方、犬を預けた飼い主からは“ありがとう”と声をかけられることがあるという。

 ただし、犬の介護や老犬ホームは、まだまだネガティブなイメージがつきまとう。

「預けることは介護から解放されること、逃げ道があるということなんです」(松下さん)

 松下さんは、高齢で歩行困難になったダックスフントを抱きしめながら言う。

「犬の介護や高齢化は人間の社会の抱える問題と何ら変わりません。プロに頼んだり、距離を保てば無理なく犬ともいい関係を保っていけます」

 “ことば”はなくても確かに愛があふれていた。