古舘プロジェクト所属の鮫肌文殊、山名宏和、樋口卓治という3人の現役バリバリの放送作家が、日々の仕事の中で見聞きした今旬なタレントから裏方まで、TV業界の偉人、怪人、変人の皆さんを毎回1人ピックアップ。勝手に称えまくって表彰していきます。第39回は樋口卓治が担当します。

タモリ 様

「ジュニア、この世の中に入門編なんてないんだよ……」

 千原ジュニアさんが、「僕、初心者なんで、入門編みたいなウィスキー教えてください」そうタモリさんに尋ねた時の言葉だ。

「そう言って、タモさん、めっちゃうまいウィスキーをご馳走してくれたんですよ」とうれしそうに語っていた。

 今年、初めての連載、勝手に表彰するのは、世界を広げてくれる大人、タモリさんです。

タモリ

「コツはね、適当にやること」

「俺、『いいとも!』観たことないからどんな番組かわからない」

「やる気のある者は去れ」〜etc.

 数々のタモリさんが言った言葉。初めは、面白いこと言うよな〜と思っていたが、最近になって言葉たちが沁みてくる。

 それは自分が年齢を重ねたからだけでなく、世間に「許さない」という空気が蔓延(まんえん)しているからかもしれない。

 やる気満々、打つ気満々で、テレビからいろんなスキャンダルやゴシップが流れる。

 コメンテーターは眉をひそめ、編集とナレーションも手馴れた感じで、オリャオリャと煽(あお)っている。

 どのチャンネルを回しても、こんなシーン。そんな時、上記の言葉たちを思い出すとホッとする。まるでどこを歩いても人の波で、やっと裏路地に入ってホッとするように。
 
 スターがふらりと町や村に現れる番組が好きだ。出会い頭にスターと出会い、驚く人の顔がなんとも好きなのだ。また、人との接し方がうまいスターを見るのも好きだ。素人を興奮、感動させながらも、同じ目線。そんな振る舞いのできるスターに品格を感じる。

『ブラタモリ』(NHK総合 毎週土曜 19:30〜)がそれだ。(※この番組には地理の面白さを伝える魅力もあるが)

 テレビのお約束を無視して、専門家の出すクイズにすぐ正解を出す。専門家の「さっさと当ててしまった……」と一瞬、唖然(あぜん)とする顔が好きだ。

 番組を面白くするために、クイズは正解の前に、解答者はボケ回答を重ねる、そんな予定調和を崩す。それがタモリセンスだ。

 私が思うタモリセンスとは……、

『笑っていいとも!』(フジテレビ系)の頃、タモリさんは、横に読むべきフリップを、縦に読んでボケたり、素人企画で、お母さんと幼児が登場し、「お名前は?」とマイクを向けた時、幼児がタジタジしていると、声色を変え「ジョセフィーナです」とかタモリさんが勝手に答えてたりする。

 そんな一瞬のユーモアで周りを和ませるところだったり、

 知識を自慢げに語るのではなく、親戚の話でもするように語るところだったり、

 地層を、友達の話をするように語り、

 美味しいウィスキーを「この娘はね、鯖江市のメガネ屋の生まれで〜」と昔付き合った女性のように語る。

 いつも予定調和を崩し、今、この時点の空気を調和させるところだ。それは清浄でも浄化ではなく調和。

 世間もメディアもクレーム社会になっている昨今、調和というユーモアの大切さを感じる。

 私が考えるユーモアの定義は、相手の視点の転換を促す機転。硬直した状況を打ち破る勇気ある優しさ。それらを言葉にする知性。

 適当にやることは、相手を許し、優しくなれることなのだ。

「明日も見てくれるかな?」「いいとも」

 作り手と視聴者のコール・アンド・レスポンスを胸におきながら、今年も番組をたくさん届けたいと思う。

<プロフィール>
樋口卓治(ひぐち・たくじ)
古舘プロジェクト所属。『中居正広の金曜のスマイルたちへ』『ぴったんこカン・カン』『Qさま!!』『ぶっちゃけ寺』『池上彰のニュースそうだったのか!!』などのバラエティー番組を手がける。また小説『ボクの妻と結婚してください。』を上梓し、2016年に織田裕二主演で映画化された。最新刊は『ファミリーラブストーリー』(講談社文庫)。