スマホの警報音にドキッとした人は多かった

 地震列島ニッポンで暮らす私たちにとって、その音は恐怖を呼び覚ます。なぜ、誤報が生まれたのか。人為的なミスはあったのか。

システムに盲点が

「機械で計算・予測するシステムなのでヒューマンエラーが入る余地はありません。ほぼ同時刻に発生した富山県西部の地震と、茨城県沖の地震を同一の地震ととらえて処理してしまい、震度を過大予測したのが原因です」

 と気象庁・地震津波防災対策室の担当者は説明する。

 1月5日午前11時2分23秒、まず富山県西部を震源とするマグニチュード(M)3・9の地震が起きた。わずか3秒後、約360km離れた茨城県沖でM4・4の地震が発生。これを広範囲にわたる1つの大きな地震の揺れ始めと誤認した。

 予測震度として茨城県南部で震度5強程度、千葉県北東部で同5強~5弱程度などと機械がはじき出したため、関東・福島の1都7県に緊急地震速報の警報が出た。

 しかし、実際には茨城県神栖市で最大震度3を観測するにとどまった。

 全国各地で大小さまざまな地震が頻発する中、ほぼ同時刻に2か所で地震が起きることは常にありうる。

 前出の気象庁担当者は、

「緊急地震速報を出す仕組みのひとつとして、500km以上離れているものは別々の地震として判断するようになっています。しかし、今回はそこまでは離れていなかった。規模的にも同じくらいの地震だったので混同してしまった。これまでになかったケースです」とシステムに盲点があったことを認める。

気象庁のデータなどに基づき作成(作図/スヤマミヅホ)

 いま全く同じ現象が起きたら、また誤報が繰り返されることになる。ところが、システムを早急に直すことは難しいという。

「再発防止策ですか……。現時点では具体的にどこをどう修正するか決まっていません。現状の性能を維持しつつ、改悪しないよう気をつけなければいけませんから。警報には迅速性が求められますが、警報を早く出そうとすると、正確性が落ちるという難しさがある。どのように改善するか検討中です」(前出の担当者)

 緊急地震速報は地震の初期微動(P波)をとらえ、大きな揺れ(S波)がくる前に警報を鳴らす仕組み。気象庁の全国約270か所の地震計と防災科学技術研究所の約800か所の地震観測網のうち2点以上で地震波を観測し、最大震度が5弱以上になると予想された場合、予測震度4以上の地域が対象になる。

 2007年10月に運用が始まり、精度を向上させながら丸10年以上が経過した。現在ではNTTドコモ、au(KDDI)、ソフトバンク、ワイモバイルの大手携帯業者は基本的に初期設定で警報が鳴るようにしており、国民の認知度は高まっている。

東京湾に警戒が必要

 一方、立命館大学・環太平洋文明研究センターの高橋学教授(災害リスクマネジメント)は今回の震源地に近いエリアの鳴動に注目する。茨城県沖のすぐ南だ。

「千葉・犬吠埼沖で、この年末年始に地震が頻発しています。昨年12月10日にM2・4、同21日にM3・8、同29日にM3・6とM2・7、今年1月1日にM4・3とM3・0、警報が鳴った翌6日にはM3・2の地震があり、同10日にM4・8とM5・2と続きました。5日の茨城県沖も同じですが、海側の太平洋プレートが陸側のフィリピン海プレートの下にもぐり込む動きが活発になっているんです」(高橋教授)

 さらに、関東ではもう1つ注視するエリアがあるという。

「東京湾奥の海と陸地が接するところです。千葉・船橋や浦安、東京ベイエリアなどを震源とする地震が年末年始に3回続きました。首都圏は上から順に、北米プレート、フィリピン海プレート、太平洋プレートの3層が重なっており、地震が起きると厄介な場所です。

 もし、太平洋プレートがもぐり込む動きに耐え切れずフィリピン海プレートが跳ね上がると、東京湾の中で小規模な津波が起こる。たとえ10センチの津波でも、湾岸部の地上を100メートル約10秒の速さで進み、地下街に流れ込むと大惨事を招く。注意が必要です」(高橋教授)

 緊急地震速報の誤報は今回が初めてではない。気象庁によると、'11年の東日本大震災直後はほぼ同時に発生した複数の地震を1つの地震として処理する事例が多発し、当該年度の的中率(予想震度が最大震度のプラスマイナス1階級以内)は34・6%にとどまった。

 '16年の熊本地震後も同様で77%。しかし、今年度は昨年末までの途中経過で93・7%と過去最高精度で推移していた。

 自宅で警報が鳴ったら、慌てて外に飛び出さず、頭を保護して机の下など安全な場所に隠れること。警報から数秒~数十秒でS波がくることが予想されるため、「身支度する余裕などはないと思って即行動してほしい」(前出の気象庁担当者)という。

 車の運転中ならば急ブレーキはかけず、ハザードランプを点滅させて緩やかに速度を落とす。

 どうせまた誤報だろうなんて思ってはいけない。“空振りでよかった”ぐらいの気構えで緊張感をキープしたい。