テレビを見ていて「ん? 今、なんかモヤモヤした……」と思うことはないだろうか。“ながら見”してたら流せてしまうが、ふとその部分だけを引っ張り出してみると、女に対してものすごく無神経な言動だったり、「これはいかがなものか!」と思うことだったり。あるいは「気にするべきはそこじゃないよね〜」とツッコミを入れたくなるような案件も。これを、Jアラートならぬ「オンナアラート」と呼ぶことにする。(コラムニスト・吉田潮)
有働由美子アナ

 

オンナアラート#10 NHK有働由美子アナ

 事件や政治・芸能スキャンダルは一切扱わないものの、女の本音と雄叫びがギュッと詰まった内容構成で、朝の番組としては幅広い人気を誇ったNHKの『あさイチ』。

 名コンビの有働由美子アナとイノッチがこの春卒業すると聞いて、アラートが鳴った。「人気と実力のある人材をおろすNHKの魂胆」に、モヤモヤしたのである。

 有働アナは2010年3月からスタートした『あさイチ』を人気番組として、けん引した最大の功労者だ。もちろん、開始当初は「朝から有働アナがはしゃぐ姿が鼻につく」「NHKらしからぬ」などの批判の意見も多々あった。私も最初は「有働さんのハイテンションに、朝からエネルギー消耗させられるわぁ……」なんて思っていた時期がある。

 ただし、有働アナは「ワキ汗」というキーワードで、全国のたくさんの女性たちを味方につけた。ある視聴者から「ワキ汗が見苦しい」なる意見が寄せられたが、逆にこれを企画として立ち上げ、逆手にとって話題をかっさらったのだ。生理現象であるワキ汗の何が悪いのか、という意見も交えつつ、「みんなが悩んでいる、些末だけど大問題」として、俎上(そじょう)に載せたのだ。

 ほかにも「セックスレス」や「腟のゆるみ」、「尿失禁」に「更年期」、「DV夫」に「モラハラ夫」など、女性たちがひそかに抱えている悩みを逐一取り上げ、広くあまねく問題提起をしてきた。

 あ、もちろん有働アナが企画を出したワケではないと思うが、おそらく優秀で、女性の心の闇に敏感な女性スタッフが多かったのだろう。そこに有働アナの「虚飾しない、あけすけなおばちゃん(でも心はちょっぴり乙女)」キャラが心地よくフィットしていたのだと思う。

ヨゴレ役も買って出る、アラフォー独身女が潤滑剤

 さらに言えば、ジャニタレでその辺に転がってるお兄ちゃんキャラだったイノッチを、素晴らしき大人の男性MCとして育て上げたのも、有働アナではないかと思っている。当初、イノッチはほのぼの感と脱力感だけが売りだったはず。今や芸能界で一番、女性の気持ちに寄り添うことができるジャニタレとして君臨。本人はあくまで控えめだけどね。

 ついでに、ひとりだけオジサン然として画面の端っこに座っていた、解説委員の柳澤秀夫の扱いも、有働アナは抜群にうまかったと思う。ドヤ顔でダジャレを言う柳澤さんに、時には厳しく、時には生ぬるく接する有働アナ。例えるなら、企業の課長のようなものだ。

 前時代的で差別的なオッサンたちと、働き盛りで文句言いたい放題の中堅たちと、平成生まれの無気力若者たちをなだめすかしてうまいこと回していく。昔ながらの言い方でいえば、中間管理職ってヤツか。アラフォー女課長って、たぶんこんな感じだよなぁと有働さんを観るたびに思っていた。

 有働アナは、結婚していない・子供を産んでいないという「劣等感」を隠すでもなく、かといってネガティブに自虐するだけでもなかった。ヨゴレ役も演じるし、時には乙女心やミーハー魂も発揮しつつ、『あさイチ』という組織をうまーく回していたではないか。

 これだけできる人だもの。同世代男性のやっかみや嫉妬もあっただろうな。「お前は女だからいいよな」なんて陰口叩かれたりしてたんじゃないかしら。妄想だけど。

できるオンナを排除する動きか

 そんな有働アナも48歳。真相はよく知らないが、NHK内で「有働おろし」なる動きも懸念されているという。テレビ番組には、若返りとかリニューアルとか、いろいろな事情と宿命があるから仕方ないけれど、有働アナほどの優秀な女を排除するってのはいかがなものか。おまけにイノッチまで卒業とは……。

 ふと思う。これが男のアナウンサーだったら、ずっと継続しているんじゃなかろうか。NHKに限らず、10年、20年と続く長寿番組って、たいてい男がMCだよね(もはや神格化した黒柳徹子は除く)。

 男は年をとってもいつまでも現役という風潮もあるような気がしてならない。若返りといっても、なんとなく居座る人が多いよね。あれ、なんだろうね。権力を握った大御所男性には、引導を渡しにくいのかしら。

 4月からの『あさイチ』新メンバーに不満はないし、むしろ新しい風が吹くかもしれないなと期待はしているのだが、NHK自体が有働アナを手放す方向に動いているのだとしたら、それはかなり大きな損失だよ、と言いたい。ま、フリーになって民放局でも活躍してくれるなら、それはそれで全力で応援するけれど。

 オッサンマインドとホモソーシャルな情報番組が多い中、有働アナの「女目線」が突出していたことを考えると、民放局も有働由美子獲得に動いたほうがいいんじゃないかしら。やることなすこと裏目に出て、悲惨な状況に陥っているフジテレビあたり、どうでしょう。そんな金も余裕もないか……。


吉田潮(よしだ・うしお)◎コラムニスト 1972年生まれ、千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。テレビ『新・フジテレビ批評』(フジテレビ)のコメンテーターも務める。また、雑誌や新聞など連載を担当し、著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『TV大人の視聴』(講談社)ほか多数。新刊『産まないことは「逃げ」ですか?』に登場する姉は、イラストレーターの地獄カレー。公式サイト『吉田潮.com』http://yoshida-ushio.com/