古舘プロジェクト所属の鮫肌文殊、山名宏和、樋口卓治という3人の現役バリバリの放送作家が、日々の仕事の中で見聞きした今旬なタレントから裏方まで、TV業界の偉人、怪人、変人の皆さんを毎回1人ピックアップ。勝手に称えまくって表彰していきます。第42回は樋口卓治が担当します。

千原ジュニア 様

 今回、私が勝手に表彰するのは、千原ジュニアさんです。

千原ジュニア

 今から12年前、トリノオリンピックで盛り上がっている頃、紀伊國屋サザンシアターで『6人の放送作家と1人の千原ジュニア』という1回こっきりのライブが行われた。

 6人の放送作家が千原ジュニアを使って何をしてもいい。時間は1人20分。

 それがジュニア氏との出会いだった。最初の打ち合わせは雨の日で、当時、神保町にあった吉本興業でファーストコンタクト。 

 業界では西にジャックナイフと呼ばれる男がいて、たいそう笑いに対して厳しいと聞いていたので、会うことすら怖かった。ドアを開けると試合前のボクサーのような男がいる。やっぱ怖いじゃん! このままムーンウォークで引き返そうかと思った。

「落語やりません?」

 開口一番、私がそう言うと、「なるほど、いいですね」と笑顔を見せた。

 それ以降は、楽しい打ち合わせとなり、中身はすべてお任せします! と言われた。

 千原ジュニアの落語が見てみたい! と思ったはいいが、どんな話にしよう? 机の前で腕組みし、フリーズしたまま時間だけが流れた。

 数日かかって、書き上げたのは、仕事が忙しく家族に愛想をつかされて出て行かれた放送作家の話。

『子別れ』という落語をモチーフにしたものだった。ある日、男は小学生の息子と再会。

 息子は父親が昔使っていたノートパソコンを使っていて、そこにお楽しみ会でやるコントが書いてある。男は思わず、そのコントに手を加え書き直してしまう。妻はそのコントを見て「あんたがこんなおもろいコント書けるわけない!」と息子を問い詰める。それがきっかけで別れた妻と会うことになる、という話にした。

 1回こっきりのライブは大盛況で、6人の放送作家が書いたすべてのネタはウケた。ほっ!

 それからジュニア氏との付き合いが始まった。『笑っていいとも!』『タモリのヒストリーX』(ともにフジテレビ系)の特番で一緒にスペインにも行った。

 現在はテレビ東京で『おしゃべりオジサンと怒れる女』(テレビ東京系)をやっている。

 12年お付き合いさせてもらい感じたのは、笑いの種類、幅がどんどん広がっていることだ。今年の初めNHKで『明日へつなげよう「千原ジュニアがゆく 聞いてけろ おもしぇ〜話」』という番組を観た。

 被災地を回り、地元の人たちの面白い話を聞いていくという企画。

 かつてジャックナイフと呼ばれた男は、地元でも大人気で、おばちゃんたちがわんさか寄ってくる。それにいい笑顔で対応する。

 ジュニア氏を前に、地元の人たちがすべらない話を披露する。次々と爆笑が生まれる。

 聞き手としての実力を感じた。「ほうほう」、「それでそれで」と絶妙の合いの手と頷(うなず)き。これで地元の人の舌が滑らかになっていく。

「震災で冷凍庫が壊れ、しまっておいた数の子やアワビを毎日食べていた。自衛隊の人よりいいものばかり食べていて申し訳なかった」

「社長が行方不明になり、自分が社長になる覚悟を決めたら、戻ってきたんですよ」

 オチを言うと、ジュニア氏が手を叩いて笑う。「なんチュー話や!」と笑いが止まらない。そして笑った後、心がジーンと温かくなる。人の心に寄り添うとは、一緒に泣くだけではなく、一緒に笑うということなのだろう。

 初めて会った時、「この人、優しい人かもしれない」と思ったことを思い出した。

 そういえば12年前、ライブ開始10分前、楽屋にカギをかけ、ギリギリまで一緒に落語のおさらいをしたっけ。落語で親子の物語をやったジュニア氏も今や1児の父親になった。 

 今度、ライブをやる機会があれば、もう一度落語を書いてみたい。  

<プロフィール>
樋口卓治(ひぐち・たくじ)
古舘プロジェクト所属。『中居正広の金曜のスマイルたちへ』『ぴったんこカン・カン』『Qさま!!』『ぶっちゃけ寺』『池上彰のニュースそうだったのか!!』などのバラエティー番組を手がける。また小説『ボクの妻と結婚してください。』を上梓し、2016年に織田裕二主演で映画化された。最新刊は『ファミリーラブストーリー』(講談社文庫)。