丸岡いずみさん 撮影/坂本利幸

 丸岡いずみさんが自らのうつ病体験を役立てたい! と執筆した『休むことも生きること 頑張る人ほど気をつけたい12の『うつフラグ』』(幻冬舎)が話題だ。

 キャスターとして忙しい日々を送りながらも、周りのスタッフからは「タフで病気知らず」として知られていた丸岡さん。2011年の東日本大震災の取材後、湿疹が出る、眠れない、下痢が続くといった症状が出ても、「ちょっと疲れているだけだろう」と考え、相変わらず仕事に邁進(まいしん)する毎日を続けていた。

心の病ではなく、うつは脳の病気

私は落ち込むといった精神症状はまったくなく、身体にいろんな症状が出るタイプだったので、まさか自分がうつ病だとは思いもよりませんでした。うつ病は身体に現れることもあるんです。また、うつ病は心が弱い人がなるという誤解をされている人もいますが、脳の病気なので、明るく元気な人でもかかります。私自身もうつ病について誤解をしていて、重症化させてしまったので、今回、自分の体験をさらけだして書くことで、うつ病の意外な兆候にも気づいてほしいと思いました

 丸岡さんが、うつ病を悪化させた要因のひとつが薬を拒絶したことだった。

精神安定薬や抗うつ薬を飲むと、人格まで変わってしまうのではという思い込みがありました。そして医師には処方された薬を飲んでいないのに“飲みました”とウソをつき、どんどん病状を悪化させてしまいました。私が薬嫌いになったのは、薬の話は医学書にしか書いてなくて、難しく、副作用が恐ろしいイメージがあったからです。そのため、この本では、うつ病体験者であり、カウンセラーでもある視点から、薬についてもわかりやすく解説しています」

 本のタイトル「休むことも生きること」は、昨年3月に亡くなったお父様が丸岡さんにかけてくれた言葉だという。

仕事一筋で止まることなく走り続けてきた私は、父から言われたこの言葉にはっとさせられました。うつ病になって、“仕事もできないし、私にはもう価値がない”と自信をなくしていましたが、仕事だけが人生ではないことに初めて気づくことができたんです

うつ病の人への対応もアドバイス

 本の中では、うつ病の人への声がけについても触れられている。

“うつ病の人に頑張ってと言ってはいけない”というような話がありますが、私自身は“頑張って”と言われてイヤな気分になったことはありませんでした。頑張ってという言葉の中に、“あなたが本当によくなるまで待っている” “応援している”という意味が含まれているのがわかれば、素直にありがたいと受け取れます。“うつ病の人だからこういう言葉をかけないといけない”と深く考えるのではなく、“大変だよね”“お大事にね”と寄り添う言葉をかければ十分だと思います

丸岡いずみさん 撮影/坂本利幸

 丸岡さんがうつ病で苦しんでいるとき、夫で映画評論家の有村昆さんの対応にも救われたという。

「当時はまだお付き合いはしておらず友人という関係だったのですが、うつ病だと伝えると、“誰でもなるもんだよね”と、こっちが拍子抜けするくらいさらっとした対応だったんです。大げさに騒がれるのが辛かったので、彼の言葉に気持ちがラクになりました。また彼の家に行くと、うつ病の本がたくさんあって、私の病気を理解しようと勉強してくれていたことがわかり、ありがたかったです

 うつ病の人に「死にたい」と言われたら、周囲はおろおろしてしまいがちだが、そのときの対応にもポイントがある。

うつ病で自殺願望がわくのは普通のこと。風邪でせき、鼻水が出るのと同じなんです。自殺という行動をとらせないようにすることは大切なのですが、“死にたいなんてとんでもない考え方だ”とうつ病の人を否定すると、“わかってもらえない”という気持ちが強くなってつらくなります。“死にたいくらいつらいんだね”と共感し、“死にたいと思うのは、うつ病だから大丈夫”と言ってもらえると安心します。本の中には、こういった、うつ病の方への対応に悩んでいる家族の方にも役立つことも盛り込みました」

 現在は、仕事一辺倒にならないよう、夫との家庭生活をベースにマイペースに過ごしている丸岡さん。

「いま思い返すと、昔は高速道路を爆走しているような仕事中心の生活でした。今はプライベートな時間が持てるようになり、バランスがとれて、自分らしく生きられていると思います」

『休むことも生きること』丸岡いずみ=著(税込み1188円/幻冬舎)※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします

 もう薬は飲んでいないが、うつ病が再発しないよう、自分が好きなことをする時間を多くもつことも大切だ。

幸せホルモンと呼ばれるセロトニンが不足すると、うつ病にかかりやすくなることがわかっています。自分が楽しいと思える趣味をたくさん持っているほうが、うつ病からの回復が早いともいわれています。私は温泉や土いじりが大好きなので、こういった趣味に没頭する時間を大切にして、セロトニンを分泌することを意識しています」

 うつ病経験を話す機会が増えるうちに、体験談だけではなく、医学的根拠に基づいた説得力のある話をしたいと思い、執筆したという今回の本。うつ病予防のためにも多くの人に読んでもらいたい一冊だ。

ライターは見た! 著者の素顔

 本が大好きだという丸岡さんですが、ふだんはどういう本を読んでいるのでしょうか?

「昔は仕事で役立つ実用書ばかり読んでいましたが、今はただただ楽しめる本を読むのが幸せです。最近のおすすめは『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(神田桂一・ 菊池良=著・宝島社)。村上春樹、太宰治、三島由紀夫、夏目漱石、星野源、小沢健二など100人の文体を模倣して、カップ焼きそばの作り方が書かれており、かなり笑えます」

<プロフィール>
まるおか・いずみ◎1971年、徳島県生まれ。元日本テレビ記者兼キャスター。2011年の東日本大震災の取材後、重度のうつ病を発症。回復後、2014年にメンタルヘルスカウンセラーの資格を取得。うつ病に関する講演も行う。著書に『仕事休んでうつ地獄に行ってきた』など。今年1月、代理母による出産で長男が誕生。

(取材・文/紀和静)