精力的に活動する、草なぎ剛、稲垣吾郎、香取慎吾

 日本財団パラリンピックサポートセンターのスペシャルサポーターに就任した、稲垣吾郎、草なぎ剛、香取慎吾の3人がゲスト参加するということで大きな注目を集めた「パラ駅伝 in TOKYO 2018」が駒沢オリンピック公園で行われた。

 観戦チケットは1時間で完売し、当日はサプライズで彼らの新曲『雨あがりのステップ』も初披露されたのだが、この話題をテレビで見たという人は、どれくらいいただろうか。

消極的な在京キー局、積極的な地方ローカル局

 3人が「新しい地図」という名前のもとに新しい道を歩み始めてまもない昨年11月。今回同様に3人で参加していたイベント「GQ MEN OF THE YEAR 2017」の話題はテレビ局によって取り上げ方が異なり、ネットで大きな話題となったが、今回の「パラ駅伝 in TOKYO 2018」ではさらに各局の放送内容が分かれた。

 結果から言うと「在京キー局よりも地方ローカル局のほうがよっぽど放送内容が充実していた」のである。

 以下は筆者が確認できた範囲で、パラ駅伝の開催直後にイベントと絡めて3人の映像が放送されていた、全国のニュース・情報番組をまとめたものである。

<パラ駅伝当日~翌日に3人の映像を放送した在京キー局の番組>

・『首都圏ニュース』(NHK)/映像紹介
・『スーパーJチャンネル』(テレビ朝日系)/映像紹介
・『グッド!モーニング』(テレビ朝日系)/映像紹介・新曲放送あり
・『S☆1』(TBS系)/映像紹介
・『はやドキ!』(TBS系)/映像紹介・新曲放送あり
・『あさチャン!』(TBS系)/映像紹介・新曲放送あり
・『Nスタ』(TBS系)/映像紹介・新曲放送あり
・『TXNニュース』(テレビ東京系)/映像紹介

※イベント当日の『真相報道バンキシャ!』(日本テレビ系)、『FNN みんなのニュース Weekend』(フジテレビ系)はパラ駅伝開催のみを紹介し、3人の参加や新曲発表には触れず、翌日も両局ともに放送なし。

<パラ駅伝当日~翌日に3人の映像を放送した地方ローカル局の番組>

・『イチオシ!モーニング』(北海道テレビ)/映像紹介・新曲放送あり・現地リポートあり・独自のインタビュー映像あり
・『突撃!ナマイキTV』 (東日本放送)/映像紹介・新曲放送あり・独自のコメント映像あり
・『夕方LIVE!キニナル』(東日本放送)/映像紹介・新曲放送あり・独自のインタビュー映像あり
・『ドデスカ!』(名古屋テレビ)/映像紹介・新曲放送あり
・『キャッチ!』(中京テレビ)/映像紹介・新曲放送あり
・『おはようコールABC』(朝日放送)/映像紹介・新曲放送あり
・『おはよう朝日です』(朝日放送)/映像紹介・新曲放送あり
・『キャスト』(朝日放送)/映像紹介・新曲放送あり
・『朝生ワイド す・またん!』(読売テレビ)/映像紹介・新曲放送あり
・『情報ライブ ミヤネ屋』(読売テレビ)/映像紹介・新曲放送あり
・『ちちんぷいぷい』(毎日放送)/映像紹介・新曲放送あり
・『バリはやッ!』(福岡放送)/映像紹介・新曲放送あり
・『アサデス。』(九州朝日放送)/映像紹介・新曲放送あり
・『今日感テレビ』(RKB毎日放送)/映像紹介・新曲放送あり

 在京キー局では「新しい地図」をニュースバリューとして取り上げる局とそうでない局がはっきり分かれてきており、TBSか早朝のテレビ朝日を見ていない限り、パラ駅伝は30秒ほどのよくある一般ニュースとして放送されている。

 つまり見ていたチャンネルによっては新曲のリリースどころか、稲垣・草なぎ・香取の3人がパラ駅伝に参加していたことすら気づかない可能性もある。

 しかし地方ローカル局では時間帯や系列を問わず、それぞれの番組がイベント内容と3人の存在をバランスよく取り上げ、最短でも約1分、最長の番組は約6分、パラ駅伝の内容やリリースされる3人の新曲について報じた。

 しかもその中には、在京キー局では流れていない、独自の直撃インタビューやコメント映像まで含まれている。

3人が「ローカルメディアに目を付けた」意味

 ローカル局への積極的な出演という現状を見て、安易に”都落ち”と片づけてしまうのは少々短絡的である。

 在京キー局ではなく地方ローカル局、その選択へたどり着く間に、業界のどんな力学が働いていたのかはわからないが、むしろこの事例は「新しい地図」というプロジェクトが「ローカルメディアに目を付けた」という点を重要視すべきだ。

 東京のマスメディアも地方のマスメディアも、SNSの世界の中では一気に等距離になる。たとえば今回のインタビューに関しても、一方では地方限定の密接なプロモーションでありながら、もう一方では稲垣吾郎、草なぎ剛、香取慎吾という全国共通の話題として、その放送内容は番組や出演者、そして視聴者によってインターネットであっという間に拡散されていった。

 そして東京で行われたパラ駅伝というイベントの内容や、何よりも伝わるべき「彼らの新曲の売上金がパラスポーツの応援チャリティーソングとして全額寄付の対象になる」という話題はやがて、取り上げるテレビ局の少なかった地域にも、きちんと鮮度を保ったまま伝わっていったのである。

 人材も話題もしがらみも、東京一極集中のこのご時世、抜群の知名度と実力、そして百戦錬磨のブレーンを持つ彼らが「ローカルメディアに目を付けた」のは、そういう強い意味を持っている。

 今回、稲垣、草なぎ、香取の3人が参加した「パラ駅伝 in TOKYO 2018」のホームページには、「あなたは、何をつなぐ?」という言葉がある。

「障がいのある人もない人も、チームがひとつのタスキをつないで駆け抜ける」ことがパラ駅伝の趣旨で、その先には「すべての人がスポーツを心から楽しめる社会へつなげる」という思いがあるのだという。

 そして、それは大会タイトルにもあった通り、あと2年後に迫ったオリンピック、パラリンピックの開催地である“東京“がいま最も向き合うべき課題なのではないか。

 しかし今回は結果的に、イベントの様子や以前から継続的にパラスポーツを応援している3人のナマの声を、首都圏の視聴者ではなく、地方の視聴者ほど多く見聞きしていたということになった。

 東京でのイベントを、2020年の明るい未来につなげようとする人々の挑戦を、在京キー局よりも遠く離れた地方ローカル局ほど熱心に取り上げ、視聴者に届けていたというのが、今のテレビを取り巻くひとつの事実である。


乗田綾子(のりた・あやこ)◎フリーライター。1983年生まれ。筆名・小娘で、2012年にブログ『小娘のつれづれ』をスタートし、アイドルや音楽を中心に執筆。主な寄稿に『HELLO! PROJECT COMPLETE ALBUM BOOK』(CDジャーナルムック)等。その他、雑誌『CDジャーナル』『EX大衆』、ウェブメディア『マイナビニュース』『KAI-YOU』などで執筆。著書に『SMAPと、とあるファンの物語』(双葉社)がある。Twitter/ @drifter_2181