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 厚労省によれば、2025年には認知症患者が700万人を突破する見込みだという。加えて危惧されているのが、“認知症予備軍”といわれ、認知機能に障害が出ているものの、自立した生活が送れている軽度認知障害(MCI)の存在だ。

 予備軍は認知症患者と同数程度いるといわれ、将来的に認知症へ移行する可能性もあるという。

 認知症研究に長年携わる『メモリークリニックお茶の水』理事長の朝田隆医師はこう話す。

「軽度認知障害の半数は、4年後には認知症に進行するといわれています」

 ただ反対に、状態が改善する可能性もある。

 朝田医師のクリニックでは、MCIと診断された人の2割に改善がみられたそうだ。

7ccの血液で調べられる検査

「軽度認知障害は予備軍であって病気ではないため、薬による治療は行いません。当院では運動、音楽芸術、脳トレ、食事療法を指導しています。私は20年以上、認知症の追跡調査を行っており、その経験から生み出した脳トレをおすすめしています」(朝田医師、以下同)

 引き算をしながらウォーキングをするなど2つの課題をこなす「デュアルタスク」といわれる方法がオススメだという。

「例えば、100から7ずつ引いていく引き算をしながら歩きます。慣れてきたら、100から2を引いて行い、次は2を足して行うなど変化をつけて行います」

 今までに経験したことのないものを行うのもいい。

「長年、囲碁をやってきたという人であれば、将棋をすすめます」

 このように、MCIから認知症へ移行するのを防ぐには、早期発見が重要となる。

 そのための検査が『MCIスクリーニング検査』。わずか7ccの血液で調べることができる。認知症のなかで最も多く、全体の3分の2を占めるのがアルツハイマー型認知症だが、

「はっきりとした原因はいまだにわかっていません。ただ、アミロイドβというタンパク質が脳内に蓄積して起こるという説が有力視されています」

 このアミロイドβが脳に蓄積するのを防いで守ろうとする物質、脳の外へ排出する物質などの血中濃度を調べて、MCIの可能性が判定される。朝田医師の調査によれば、約80%の確率で判定できるという。

 MCIスクリーニング検査は、自由診療のため医療機関によって料金は異なるが、2万円程度のところが多い。受検者の平均年齢は66歳。しかし、50代でMCIと判定された人もいる。

 もしMCIからアルツハイマー型認知症に移行すれば、進行性のため、根本治療は難しいとされている。

「症状を抑える薬を処方することしか今のところ治療方法はありません。長年、治療薬は研究されていますが、これといった薬が出てこないのが現状です」

 アミロイドβの蓄積はアルツハイマー型認知症の症状が出る20~25年前から始まっているという。

 認知機能の改善が期待できるMCIの段階で早期発見し、前述した脳トレなどの対策にいち早く取り組むこと。それが、ひいては認知症予防にもつながるといえそうだ。

アルツハイマー型認知症を血液で判定!国立長寿研究所などの研究グループが発表 

 今年1月、国立長寿研究所と島津製作所などの研究グループが、世界で初めて血液からアミロイドβが脳に蓄積しているかどうか判定する方法を科学ジャーナル『ネイチャー』オンラインに発表した。0・5ccの血液で診断でき、結果を画像診断で確認すると、9割以上の精度でとらえていたという。 
 ノーベル化学賞受賞者で島津製作所シニアフェローの田中耕一さんは、記者会見で、「今回の発見は、根本治療薬を含めたさまざまな進展に貢献する基礎となる、非常に大きな成果だと考えています」と期待を込めて語っている。 
 今回発表された方法とMCIスクリーニング検査との違いを、開発元の株式会社MCBIに聞いてみた。「今回発表された方法は、脳内にアミロイドβがたまっているかどうかを調べる検査です。一方、MCIスクリーニング検査は、アミロイドβが蓄積しないよう、脳内から排出する仕組みが正常に働いているかどうかを調べる検査という違いがあります」


朝田隆医師◎精神科医。東京医科歯科大学特任教授、筑波大学名誉教授、メモリークリニックお茶の水理事長。認知症予防、治療の第一人者。『効く!「脳トレ」ブック』ほか著書多数