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 将棋や囲碁ではプロ棋士をくだして勝利。医療においても、病変を見つける内視鏡診断システムやエックス線の画像診断技術の開発が進むなど、活躍の場を広げるAI。

AIの誕生は1956年

 家電やスマホ、子どものおもちゃにも搭載されるなど、私たちの暮らしにだんだん身近なものとなりつつある。

「AI=人工知能といっても、人間のような知性があるわけではありません。簡単に言うと、コンピューターが学習したり判断したりするプログラムのことなんです。

 例えば、お掃除ロボットがカメラセンサーで部屋の間取りを学習しながら動いたり、エアコンが人の居場所を感知して、温度や風向を調節してくれたりする。これらの技術はAIのひとつです」

 そう教えてくれたのは、人工知能学会会長で国立情報学研究所の山田誠二教授。AIの歴史は古く、誕生は1956年と、いまに始まった技術ではない。しかし、最近になって脚光を浴びている理由に、「画像を認識して違いを見分ける能力」が特に優れているという点を挙げる。

「例えば、この物体が何なのか、大量の情報をもとにAI自身がその特徴をとらえて、認識できるようになりました。この技術が、あらゆる産業に応用できるようになったのです」

 この背景には、近年のインターネット環境の変化や、技術の進化があると山田教授。

「インターネットなどを使って莫大なデータを入手できるようになり、さらにコンピューターの計算速度が上がったことで、多くの情報を一気に処理できるようになりました。それが昨今の技術革新につながったのです」

 具体的にはどんなことができるのか? 人工知能の応用について研究する、東京大学大学院の鳥海不二夫准教授が解説する。

「インターネット上に存在する大量のテキスト情報を利用することで、話の内容に応じて適切に返答をする技術や、自動翻訳などのシステムの制度が向上しました。また、特にすぐれているのが画像認識の分野。インターネット上の有害サイトを表示させないようにするフィルタリング機能や、防犯カメラの顔認識技術などは、すでに実用化されています」

進化するほど心配な声も

 画像認識できるようになったこと、つまり機械が“目”を持ったことが、いまのAIと呼ばれる技術の核心だと指摘する。

 画像認識技術を応用することで、例えばエックス線撮影からがん細胞を見つけることが可能に。周囲の環境を認識して走行する自動運転も、かなり研究が進んできている。

 この技術を生かした“AI農業”にも注目が。作物の生育状況を判断して、等級の選別もできるシステムの開発が進む。

 他分野でも、産業廃棄物の仕分けや自動車工場での部品の組み立てといった単純作業に関しては、人間よりも正確で効率的といわれている。

レシピが組み込まれた電子レンジも

「身近な例では、料理の写真を撮った瞬間にどんな食材が使われているのかを判断して、カロリーを計算してくれるアプリも開発されています。さらに研究が進めば、“2か月で2キロ減量したい”という目標に合わせてカロリーを計算して、レシピを推奨してくれるようなサービスも生まれてくるのではないでしょうか」(山田教授)

 もしこれが実現すれば、ダイエットに苦しむ女性たちの悩みがひとつ減ることだろう。

 AIの進化でさまざまな技術が可能になる反面、それに脅威を覚える人も少なくない。2015年に、大手シンクタンク『野村総合研究所』が発表した試算データは衝撃を与えた。601種の仕事を検証した結果、10~20年後には、日本の労働人口の49%が人工知能やロボットなどで代替可能になるというのだ。

「人が目で確認していた検品作業や空港のセキュリティーチェック。スーパーやコンビニなどの店員、ビルの清掃や受付なども機械が行ってくれるようになるでしょう。また、パソコンを使った簡単な事務作業、会議の議事録の作成なども自動でできるようになると思います。建設業界では、溶接などの危険な作業も人が行わなくてよくなるでしょう」

 と山田教授は予測する。

人間でなければできないこともある

 一方、鳥海准教授は、「技術的には代替可能でも、人間が“人にやってほしい”と思う作業は残るのでは?」と指摘する。

「例えば、いまの技術があれば新幹線に運転士がいなくても安全に走行させることはできるけど、乗客からすると、無人運転というのは不安になりますよね。医療現場でも、機械が手術したほうが成功率が高いというケースもある。しかし、患者さんの立場からすると、完全に機械に身をゆだねるのは心配に思うでしょう」

 名物販売員やミュージシャン、漫画家、ファッションデザイナーなど、カリスマ性やブランド価値を持っている人たちの仕事も、機械による代替はきかないという。

車間距離を測ることで可能になった自動運転

 絵画や音楽などのアートや、広告企画などクリエイティブ系の業務も、コンピューターにはできないといわれている。しかし、「クリエイティブな仕事こそ、実はAIの得意分野なのでは?」と山田教授。

「どんなに創造的に思われるアイデアでも、既存の組み合わせから成り立っています。莫大なデータから情報を見つけて組み合わせるのは、AIの最も得意とする分野。すでに大量の譜面データを学習して自動作曲するAIは続々と誕生しています。ただ、その曲が人を感動させることができるかの判断はまだAIにはできないんです」

 常識やユーモアなど感覚的なものを扱うのも、AIは苦手。学校の先生や保育士といった教育の面など、人間でなければできないことは、まだまだある。そのためにAIを過剰におそれたり、また反対にバラ色の未来ばかり想像していると、誤解を招く。

「“AIによって仕事がなくなるのでは?”とおそれる人もいるとは思います。しかし、どんな職業でも、人間が判断したり作業したりしなければならない部分は必ずあるので、AIが仕事のすべてを奪うというのは考えにくい。

 人手不足が深刻になる一方で、AIを導入することによって、効率化を図れる仕事はたくさんあります。AIは私たちの生活をアシストしてくれる便利な存在にすぎないんです」(山田教授)

 どんなに素晴らしい技術であっても、使わなければ宝の持ち腐れ。それが人や社会に役立てられるかどうかは、使いこなす人間次第といえそうだ。