『変なホテル』の受付では、人型や恐竜型のロボットがお出迎え

 

 飲食店や家電量販店など街中でも見かけることが増えてきた接客ロボット。ソフトバンクの『Pepper』も近年、脚光を浴びているロボットのひとつだ。

「当初は一般向けでしたが、いまは活躍の場をビジネスの現場にも広げるようになり、'18年3月現在、2000社を超える企業でご利用いただいております」

集客効果もある

 こう教えてくれたのは、ソフトバンクロボティクス取締役兼CCRОで、コンテンツマーケティング本部の蓮実一隆部長。

 小売りや飲食店での話題づくりや集客目的だけでなく、接客や案内業務をこなしたり、顧客層を把握してマーケティングに生かしたりと、さまざまな部分で成果を挙げているという。

「回転寿司チェーンの『はま寿司』さんでは、空席状況を確認して、来店客を席に案内する業務を担当。お客さまを席まで案内する時間の短縮を実現し、ホールスタッフの仕事の効率化の改善にもつながっていると伺っています」

はま寿司で客の対応をしてくれるPepper

 と、蓮実部長。

 近い将来には、顔認証のシステムを活用して、常連客の来訪をお店のスタッフに知らせたり、顧客の好みに合わせて商品をすすめたりといったサービスも可能だという。

「例えば、家電量販店などにPepperがいると、ご家族連れが飛びついてきたりと、集客効果だけでも十分にあります。しかも、Pepperはカメラによる顔認識で、今日は何歳ぐらいの人が何人話しかけてきたとか、男性か女性かといったことまで統計としてわかるんです。企業としてもそういうデータが取れるのは顧客サービスの向上につながったりと、メリットになるのではと思います」

 介護や福祉現場でもPepperは活躍している。

 老人ホームやデイサービスで行われる、体操や歌などのレクリエーションを担当するなど、スタッフの仕事をサポート。ロボットと踊るというこれまでにない取り組みに、利用者が飽きずに楽しく身体を動かせるようになったという事例もあるとか。

 実際にPepperと接した高齢者の反応はとてもよく、「孫のように思えてくる」という好意的な意見も多いそうだ。

 人手不足が深刻な介護現場では、ロボットをうまく取り入れることでスタッフの負担軽減につながるとして、AI技術への期待はとても高い。ただ、普及が始まったばかりの現状では、どこまで役立つかはまだまだ未知数だ。

30人いた従業員を7人に

 ホテルといえば、人間による手厚いおもてなしのイメージ。そんな常識を覆したのが、H.I.S.グループが展開している『変なホテル』だ。

 チェックインから客室でのサポート、共用スペースの掃除など、ホテル内業務のほとんどをロボットがこなす。

 長崎県のハウステンボスでは'15年の開業後、当初30名いた従業員を、'18年3月時点で7名まで削減。仕事の効率化を図り、運営コストを下げることで、生産性を高めることに成功しているという。

「ハウステンボス園内の5つ星ホテルに比べて、比較的、安価に泊まれるということで若い方からファミリーまで多くの方にご利用いただいております。チェックイン時には日・英・中・韓の4か国語に対応しているため、海外のお客様も多いです」

 と話すのは、ハウステンボス経営企画室の中野裕子さん。

 '17年には、バーでお酒を注文・決済から提供まで無人で行う『変なバー』も同施設にオープン。店内に設置されたタブレットで注文決済をして、カクテルやビールのサーバにグラスを置くことで、自動でお酒を注げるようになっている。

『変なバー』ではタブレットの「アヤドロイド」を操作することで酒が飲める

 しかし、すべてがロボットの運営とはいかず、人間にしか作業できない部分も残されている。

「客室のベッドメーキングや細かな部分の掃除などは、人の手が必要。自動販売機への商品補充であったり、つり銭の管理、そのほか、団体客の受け入れやロボットの管理業務も、人間の仕事です」

 ちなみに『変なホテル』とは、変わったホテルという意味ではなく“変化し続けることを約束するホテル”という思いがこめられているとか。今後はホテル内に無人コンビニを設置する計画もある。

「お客さまの声を反映してロボットの数や種類も変わっていくでしょう。実際に実証実験を重ねた'17年以降に多店舗展開を始め、変なホテルは'18年も全国のあらゆる都市でのオープンが予定されています。生産効率の高い環境へ配慮したホテルとしてのノウハウを活かし、労働人口が減少していく今後、求められる形態のホテルになってくるのではないでしょうか」

ロボットが注文から洗い物までをこなす『変なカフェ』

 今年2月には『変なホテル』で培ったロボットの技術を活用した『変なカフェ』を東京・渋谷にオープン。

 接客するのは、同時に複数杯のドリップコーヒーを淹れてくれるバリスタ・マシンの“ポアステディ”と、コーヒーカップを運んだりコーヒー豆をひいたりといった人の手による作業を担ってくれる“ソーヤー”の2台。

 本格ドリップコーヒーを淹れるロボットが日本で稼働しているのはまだここのみ。近い将来“うまいと評判の店のマスターがロボットだった”なんて日が来るかもしれない……。