特殊清掃の9割を占めるのが孤独死。そのほとんどが男性のひとり暮らしだという(写真はイメージ)

 殺人や自殺、そして近年、社会問題となっている孤独死――。その凄惨(せいさん)な現場と日々向き合っているのが、特殊清掃というお仕事だ。そこには腐敗した遺体の一部や体液から発せられる強烈な死臭が鼻をつき、無数のハエが飛び交い、何千匹のウジがうごめく、遺族さえもが直視することを嫌がる壮絶な「死」の現場がある。

 (株)トータルライフサービス東京営業所で特殊清掃人として働く高橋大輔さん(34)は、多摩地区を中心にこの特殊清掃を行っている。若い世代であるにもかかわらず、“日本社会の闇”を目にせざるを得ない、この職業をあえて選んだというから驚く。

「30代独身、彼女なし」と、自ら孤独死予備軍であることを率直に自称する高橋さんが体験した、事件現場清掃の現実を追った。

最初の現場は“お風呂の中でヒートショック”

「最初の現場はヒートショックの孤独死でした。お隣が不動産屋さんで、“こんな仕事始めたんですけど~”と挨拶したら、“ちょうどよかったよぉ~。ヤバい現場あったから見てくんない?”と言われたんです。浴室のバスタブでそのまま亡くなっていた70代の男性で、死後1か月くらいでしたね。腐敗がかなり進行して、バスタブの中で液状化しちゃってました。今までで5本の指に入るくらいのキツイ臭いがしましたね

 高橋さんは最初の特殊清掃現場についてそう語った。あまり知られていないが、実はヒートショックに関連して入浴中に急死したと推定される死亡者数は、交通事故死亡者数よりも多い(東京都健康長寿医療センター研究所の調査による)。消費者庁も注意を呼び掛けているほどだ。特に冬場は浴室やトイレなど、室外との急激な温度差によって、ヒートショックで亡くなる高齢者が多い。

 人体の脂や血液が溶け出した湯船の色は、小豆色よりも薄い、焦げ茶色――。その水をバケツですくうと、片栗粉を溶かしたかのようなドロドロの粘度の液体となっている。高橋さんがその現場に入るのは、当然、警察が遺体を引き上げた後になる。そのため遺体本体はないが、本体から剥がれ落ちたり、流出した“落とし物”がある。

 高橋さんが体液で濁った水をバケツですくっていると、赤っぽいプヨプヨした物体が中に目に入った。それは胃か腸など内臓の一部だった。

「たまに身体の部分とか、一部のパーツがそのまま残ってることがあるんですよ。内臓が多いですね。基本的には、警察の方や葬儀社さんが、ご遺体を搬出されるんですけど、亡くなった場所をざっと掃除するだけで、遺体の『落とし物』に関しては、チェックしないんです。だから髪の毛とか、皮膚とか残るのは当たり前で、これなんだろう? って思ったら、内臓だったんです」

 高橋さんによると、ヒートショックで亡くなった場合、基本的にその廃液はトイレに少しずつ流していく。トイレの口径が家庭内の水道管の中では一番大きいためだという。

孤独死者の部屋に多く見られる物とは

 事件現場清掃人として、殺人や自殺など、さまざまな現場を手掛けてきた高橋さんだが、実のところ、特殊清掃の9割を占めるのが孤独死の清掃の依頼だ。そのほとんどが男性のひとり暮らしである。孤独死が起きるとその特殊清掃の費用を支払うのは、管理会社や大家、そして遺族だ。

 遺族のケースは、大抵がその支払い費用を巡って、揉めることが多い。高橋さんはその現実の凄まじさをつぶさに見てきた。孤独死した人の親族は、そのほとんどが故人に良い感情を持っていない。むしろ、故人に相当な恨みがあるのか、その怒りをぶつけられることも多い。

ご遺族だと、大体、亡くなった方の別れた奥さんがいらっしゃるんですが、ものすごく恐ろしい顔で、尋常ではない剣幕のことが多いんです。車を駐車場に停めたまま、すごく不機嫌な顔で出てこなかった娘さんもいます。奥さんから“なんでゴミにお金払わなきゃいけないんだ!”とまくし立てられたこともあります」

40代男性の孤独死の現場(写真提供/高橋大輔さん *編集部でボカシを入れています)

 高橋さんによると、孤独死する人の家のアイテムには共通点がある。鎮痛消炎剤とマジックハンド(つかみ棒)が見つかることが多いのだ。

貼るタイプの鎮痛消炎剤は、よく出てきますね。湿布薬で、俗にいうモーラステープです。大体、孤独死する人の家にあるのは、モーラステープと、抗がん剤とかの治療薬なんです。薬はいつも大量に出てきます。あと、マジックハンド。100円ショップとかにある、グリップを握ると、棒の先のハンドが開閉してクイッと周囲の物を取れる、アレです。

 孤独死した人は、何らかの病気を患っているケースが多い。身体が痛くて、動けないんだと思うんですよ。だから周囲の物をつかむためにマジックハンドがあるんです。中には、マジックハンドが10本くらいあったときもありましたね」

 さらにゴミ屋敷だったり、そこまでではなくとも、部屋に物が散乱していることが多い。ペットボトルや食べ散らかしたコンビニの弁当などが、山のようになっていることもよくある。病気など、物理的な理由で片づけられなくなっているケースも多いという。身体を動かすのが辛いため、物を取りやすいように、布団の周りをテレビのリモコンやペットボトルなどで固め、その中で亡くなって何日も発見されないケースもある。

九州の実家に知られずに亡くなった30代男性

 高橋さんが一番辛かったのは、同世代の30代男性の孤独死だ。

 その男性は、1Kの部屋にひとり暮らし。死後2週間が経過していた。部屋には、プレステ3、『スラムダンク』や『幽遊白書』のコミックといった、まさに高橋さんと同じく、30代ど真ん中の世代が懐かしさを覚える物であふれていた。部屋の中で、高橋さんは、故郷の九州の実家から送られたと思われるハガキを見つけた。それは、母親からのもので、『ちゃんと野菜食べていますか?』と書かれてあった。そして、荷物の隙間に埋もれて、大量の抗がん剤の治療薬が出てきたのだ。

「多分、この方の九州に住む両親は健在だったはずなんです。だから、病気になったら、実家に帰るという選択肢もあっと思います。しかし、ご本人はそれを選択しなかった。がんであることを隠して、東京にいたと思うんです。薬はあったので、病院にはちゃんと通ってる様子でした。

 僕も仮にこの歳で自分ががんになったら、親には言えないと思うんです。まず、親に迷惑をかけたくないし、親の悲しい顔を見たくないから、がんであることは黙っているかもしれないですね。僕も友達が少ないし、女性が苦手で、彼女もいないので、病気になったらそれこそ孤独死してしまうかもしれない。だから、彼の気持ちがわかるんです。親近感を抱いてしまうんですよね。他人事じゃない、って

 特殊清掃という仕事を通じて、「死」に日々向き合い続けている高橋さんだが、自らも孤独死予備軍だと自覚しているという。がんでなくとも、突発的な病気で倒れたとして、果たして誰が見つけてくれるのだろうか――と。

「社会的孤立」から逃れるために

 孤独死を語るときに、その前段階である「社会的孤立」について考える必要がある。社会的孤立とは、地縁や血縁、趣味の縁など、さまざまな縁から切り離された状態のこと。現に、ニッセイ基礎研究所の調査によると、友達がいないなどの他者との交流がない『社会的孤立』の割合は、実は、団塊世代以上に比べて、団塊ジュニア世代、ゆとり世代のほうが高いのだ。そう、高橋さんが考えている通り、孤独死は決して高齢者の問題だけに留まらない。

高橋大輔さん(孤独死現場のトイレにて)

 高橋さんが抱える孤独死予備軍としての不安は、団塊ジュニア世代、ゆとり世代では決して珍しい感覚ではないだろう。

自分自身がそうなんですけど、ちゃんと仕事はしているけど、人間関係が希薄な人って、孤独死予備軍だと思うんです。このままでいいのかな? という僕みたいな漠然とした不安がある人は、できるだけ自分が興味を持てる趣味とか、交流の場に出て人とつながったほうがいいのかなと思いますね。それで、僕自身が危機感を感じているのもあって、ちょっとしたイベントを始めることにしました」

 それは、死について考える、その名も“デス・バー”。バーを貸し切り、お酒を飲みながら、死についてざっくばらんに語らう場だ。今年に入って高橋さんが、仕事関係の有志とともに立ち上げ、自らが主催した。これが地元ではとても好評なのだという。

 まだまだ手探りだが、高橋さん自身、こういったコミュニティーを立ち上げることによって、新たなつながりを模索しようとしている。

【文/菅野久美子(ノンフィクション・ライター)】


<プロフィール>
菅野久美子(かんの・くみこ)
1982年、宮崎県生まれ。ノンフィクション・ライター。最新刊は、『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)。著書に『大島てるが案内人 事故物件めぐりをしてきました』(彩図社)などがある。孤独死や特殊清掃の生々しい現場にスポットを当てた、『中年の孤独死が止まらない!』などの記事を『週刊SPA!』『週刊実話ザ・タブー』等、多数の媒体で執筆中。