※写真はイメージです

 現在放送中のドラマは、人気シリーズの続編『特捜9』や鈴木京香と波瑠が出演する『未解決の女』など、テレビ朝日系のドラマが強い。嵐・二宮和也主演の『ブラックペアン』(TBS系)も健闘中だが、これといって話題になっているドラマがない印象だ。

“史上最低視聴率”が更新されていく

 今年1月~3月に放送されたドラマは、注目度が高い作品が多かった。

「前作が大ヒットした『99・9─刑事専門弁護士─SEASON II』(TBS系)や、木村拓哉さんが主演ということで話題を呼んだ『BG~身辺警護人~』(テレビ朝日系)、『逃げるは恥だが役に立つ』で大ヒットした脚本家・野木亜紀子氏が書き下ろした『アンナチュラル』(ともにTBS系)などが人気でした」(テレビ誌ライター)

 前述の3ドラマが平均視聴率TOP3となったが、

「『99・9』が17・6%、『BG』が15・2%、『アンナチュラル』が11・1%でした。全話平均視聴率で2ケタをキープしたのはこの3作品のみ。ほかは10%を割っています」(同・テレビ誌ライター)

 好調だった3作品とは対照的に、このクールで不発となてしまったのが月9。朝ドラ『べっぴんさん』(NHK)でヒロインを演じた芳根京子が主演を務めた、人気マンガが原作の『海月姫』(フジテレビ系)は、月9史上、全話の平均視聴率が過去最低を記録してしまった。

月9史上最低の平均視聴率となってしまった『海月姫』

「一時はフジの看板枠だったのに、今ではスポンサーを降りる企業もあるほどです」(ドラマ制作スタッフ)

 近年、全話平均視聴率が20%を超えるようなドラマは少なくなっている。

「’11年放送の『家政婦のミタ』(日本テレビ系)や、’13年放送の『半沢直樹』(TBS系)は40%を超える視聴率をたたき出しましたが、それ以降はヒットが少ないですね」(スポーツ紙記者)

 メディア論に詳しい法政大学社会学部教授の稲増龍夫氏は、その背景をこう分析する。

「近年では、録画機能が充実したハードディスクプレーヤーや民放アプリなどで見逃したドラマを簡単に視聴できるため、リアルタイムで視聴する必要性がなくなったのだと思います。

 テレビだけではなく、若い層にはAbemaTVなどのネット配信サイトも人気。ほかのコンテンツがあふれているからこそ、ドラマを見ない世代も多いんです」

 とはいえ、良質なドラマがたくさんあるのも事実。ドラマ界の現在について取材を進めると、制作側のさまざまな努力が見えてきた。まずは、かつての人気番組の脚本家に、ドラマ脚本の今昔話を聞くと……。

暴力描写が受け入れられない風潮

「脚本も時代に沿って変わっていくのですが、アクション系は減りましたね。昔は、日常生活でも殴り合いのケンカが起こっていた時代だったので、受け入れられていたのだと思います。今の時代はそうはいかないんですよね(笑)」

 こう語るのは、一般社団法人シナリオ作家協会の会長で、『あぶない刑事』(日本テレビ系)や『西部警察』(テレビ朝日系)をはじめ、数々のドラマ脚本を手がけた柏原寛司さん。

『あぶない刑事』は’87年に放送されて以来、大人気。続編や映画などで視聴者に愛されていた(ドラマ『あぶ刑事』より)

 現代では脚本にも変化があるというが、’16年に公開された映画『さらば あぶない刑事』の脚本には、こんな“物言い”がついたという。

「映画を見た若者から、“なんであの刑事はすぐ殴ったり銃を撃ったりするの?”という声が上がったそうです。

 私たちからしてみれば“悪いヤツが銃を持ってたら、こっちだって撃つだろ”と思うのですが“暴力はいけない”という現代の風潮が、視聴者の受け取り方にも影響していると思います」(柏原さん、以下同)

 視聴者と同様、プロデューサーなどの作り手にも同じことを考えている人が多いそう。

「“暴力はダメ!”という教育を受けて育ってきたわけですから、自ずとドラマ内での暴力描写も少なくなってきますよね。また、そういった作品が少なくなってきたので、撮り方もわからないドラマ制作者も多いはずです」

 こういった風潮を受けて、昨今は同じジャンルのドラマでも、昔とは違う作風のシナリオになっているとか。

「例えば刑事モノの作品でいったらアクションや暴力描写が少なくなっていくと同時に、『相棒』『トリック』(ともにテレビ朝日系)に代表されるような“頭を使うミステリー”の作品が多くなってきましたし、人気もありますね

 表現の幅が以前よりも狭まっている印象を受けるが、暴力描写以外にも要因がある。

ほかにもロケーションの許可を取るのが大変になってきました。恋愛モノならともかく、アクションはなかなか道路使用許可が下りないことも。日本のロケ地よりも規制の少ない韓国や香港など、日本と風景の似ている海外で撮影することも多いですね。

 ドラマは予算が少ないですし、毎週放送があるため、スケジューリングも難しいのですが……。アメリカでは、警察が逆に撮影に協力してくれるほど寛容だそうですよ(笑)」

 以前は今よりも演出に自由度があったため、大胆な演出もさまざまできたという。

「護送車を川の中に落として、その中から志賀勝さんを脱走させていました。ほかにも、破棄する煙突を見つけてきて倒す演出を平気でしていましたね。戦車を国会議事堂の前に走らせたときは、さすがにモメたみたいですけど(笑)」

’16年に公開された映画『さらば あぶない刑事』

視聴者からの苦情がネックに

 テレビ局側が恐れているのは、視聴者からのマイナスな声……クレームだ。

「視聴者からの苦情を恐れるあまり、表現の仕方に自主的に規制をかけることは、以前より増えていると感じます。昔は同じジャンルの作品でも切り口がたくさんあって、視聴者は好みの作品を選べたんです。

 切り口が狭まり、ドラマのストーリーも人情オチのものが多くなっていて、似たような印象のドラマが増えてしまったように感じます」

 そのなかでも、ほかとは異なる作品を作るために動いているテレビ局もある。

「テレビ東京の深夜枠のドラマは映画のクリエイターを制作に取り入れていて、作り手から見ると“冒険しているな”と思います。ほかのキー局は制作会社も含め、自局の関係者で作っているものが多いんです。

 そのため、上司の意見には逆らえない一面もあり、既存のやり方にプラスアルファするのが難しい部分もあるのだと思います。昔は“会社なんか関係ない、やっちまえ!”というプロデューサーが多くいたんですが、地上波は“誰でも見ることができる”わけで、どうしても表現を狭めざるをえないんです」

 ドラマ離れが深刻と言われる今、救世主となるのは“敏腕プロデューサー”だ。

「脚本家のいいところを引き出すのはプロデューサー。彼らがちゃんと脚本を読めなきゃいけないし、育てなくてはならない。今のドラマ界を盛り上げるには、プロデューサーを育てることが急務かもしれないですね」