すべて不妊手術ずみ。猫舎はストレスなくのんびりとしている

 2012年以降、増加の一途をたどる動物虐待事犯。水面下ではもっと多くの動物たちが苦しめられている。週刊女性の短期集中連載『動物虐待を許さない!』の初回は、追い詰められた犬や猫などを受け入れ続けている勇敢な女性の話。

“ムツ子”になりたかった

「私は単なる不良で、水商売あがりじゃけん」

 若かりしころにおしゃれで入れたタトゥーを隠そうともせず、NPO法人「犬猫みなしご救援隊(以下、救援隊と表記)」の代表・中谷百里さん(56)は自虐的に笑う。

 しかし、中谷さんは不良どころか、その真逆。これまでに救ってきた犬猫をはじめとする動物の命は、なにしろ数千にも及ぶ。いきどころのない動物たちにとっては、まさしく女神、救世主なのだ。

「うちは両親も祖父母も代々にわたって動物が好きな家系でね。幼いころ、近所にはまだ野犬がいたので、犬も猫も拾っていましたよ。魚も鳥もいたし、動物たちに囲まれて育った。

 将来は、犬や猫を無限に拾うことができたらいいなと。そう、ムツゴロウさんじゃないけど、“ムツ子”になりたいと思っていました

 と今度は豪快に笑った。

 広島市出身。1990年に個人で犬猫の保護活動を始め、5年後には救援隊の母体を設立。’05年にNPO法人格を取得した。そして’11年、あの東日本大震災が──。

 いてもたってもいられず、すぐに福島へ。取り残された被災動物たちを300匹以上保護し続けてきた。この勇気ある行動が団体の名前を一躍、全国に知らしめたのである。

「病気やケガで死にそうとか、高齢でどうしようもないというのであれば安楽死処分でもしかたないかもしれませんが、ピンピンしている動物を処分したり飼い主がいないから見捨てたりするというのはかわいそう人も動物も、この世に生を受けた限りは天寿をまっとうしなければ

 と中谷さんは語気を強めた。

「猫ブームは大嫌い」

 救援隊は現在、広島市の本部のほか、栃木県那須塩原市、岡山市の計3か所に広大な終生飼養ホーム、いわゆるシェルターを所有する。専従スタッフは20人前後、ボランティアのスタッフはその2倍ほど在籍。毎日、動物のために働いている。

栃木の拠点。約3000坪の広さに犬や猫約400匹が暮らす

 成果として、広島県で引き取り手のない犬や猫など全頭を引き受け、同県は殺処分ゼロを達成。県外にも広めようとしている。

 3施設で計約1700匹の犬猫たちが暮らす。行政の殺処分から逃れてきたもの、多頭飼育崩壊の家から引き取ったもの、家庭で飼育できなくなって預かったもの、野生のもの、酷い飼育状況の動物業者から引き取ったものなど、そのルーツはさまざま……。

「現在は猫ブームですが、ブームは大嫌い。ブームの下でどれだけの猫が虐待され、犠牲になっているか。トラバサミという猪や鹿、野犬などを生け捕りにする罠にかかった血みどろの猫もいたし、劣悪な環境でぐちゃぐちゃになった猫もいましたね」

 と振り返る。

 そもそも、命を売買するペットショップは大嫌いで最悪だというが、一般の人でも悪い例は数えきれないという。

中谷百里代表。28歳から約15年、フィリピンパブを経営。豪放磊落(らいらく)でやさしい性格

「最も悪いのは、飼えなくなったから、子どもを産んだから、増えたからといって、ゴミのように捨てる人。次に悪いのが、野良猫にエサだけあげる人。避妊・去勢手術もせずにね。

 かわいそうだからという気持ちはわかるんじゃけど、そうすると生き延びて繁殖する。エサだけあげる人は野良猫を増やしてしまう加害者じゃけん。もっといえば、野良猫のために段ボール箱や傘をさして寝床にしてあげる人もよくない」 

 動物に直接的な暴力を加える虐待は論外としても、そうしたことも広義の虐待に値すると力説した。犬や猫を拾って増やすのも、やはり虐待に等しいという。

かわいいから、あるいはかわいそうだからといって、当初の少ないうちに避妊・去勢手術をしないから、どんどん酷い飼育環境になっていく。近親交配で身体の弱い猫も生まれますしね。

 野良猫を保護するのはいいことですが、それを50か所から1匹ずつ拾って50匹ならばまだいいとしても、最初に数匹拾ったのを自分が増やして50匹にしているんですから」

犬猫の引き取り活動に尽力

 中谷さんらは、月に1度ぐらいのペースで、こうした多頭飼育崩壊の現場を訪ね、増えてしまった犬猫たちを引き取る活動を続けている。

「多くは本人からの相談や依頼です。周囲からの通報や行政の情報提供もあります。犬70匹の多頭飼育崩壊の家があるので、来週は東京へ行くんですけどね」

犬のほか、保護された野生の鹿や福島で被災したヤギの子も飼育する

 引き取った犬猫たちは終生飼養される。行政からの引き取り以外は基本的に有料だ。

「死ぬまでですから、1匹につき5万円と、避妊・去勢手術代、毎年しなければいけないワクチン代は別です。とはいっても多頭数ですから、現実的に払えないお宅も実際には多い。そういう場合は“気持ち”で可能な金額を払ってもらっています」

 救援隊は、こうしたお金と年間3000円からの賛助会員(現在約3000人)、フードメーカーなど支援者の寄付で成り立っている。

「資金集めは大変ですが、肝心なのは寄付してもらうためにゴマをすらないこと。横柄かもしれませんが、いただいた分はきちんと結果を出してHPやブログなどで示していくことだと思っています」

 と中谷さんは胸を張る。

 終生飼養のほか、里親を見つけて譲渡することも忘れていない。

 しかし、譲渡には危険性もあると指摘する。

「ネットで里親を募集するのが盛んですが、ネットには闇もあるんです。それまでに打ったワクチン代など1万~2万円はもらうのが普通ですがそれだけではダメ。例えば、相手が動物虐待者とか、動物実験をするために引き取ることだってあるわけです。

 1万~2万円だって自分で育てるよりは安いですからね。それを防ぐためにも厳密に面接したり、お宅を訪問しています

すべては動物の幸せのために

 自宅訪問時は、対象者がどれだけ動物にお金をかけられるか、愛情を注ぐことができるか、時間をかけられるかといった手がかりを探す。

「例えば、以前に飼っていた猫の写真が飾ってあるとかね。なにもシャネルの服を着た金持ちのおばちゃんがいいというわけではなくて、金持ちじゃなくても、できる限りお金や愛情をかけられる人を選びたいですよ。すべては動物が生涯を通して幸せに暮らしていけるために、なんです」

 動物を飼うということは、生半可なことではない。かわいい、かわいそうだけではできない。お金も労力もかけなければならないし、自分の時間も削らなければできない。

大手自動車メーカーから寄贈されたバスで全国を駆け回る

「動物に土日はないですし、旅行にも行けなくなりますからね。自分の生活を変えて努力しなければいけない。最低限、そういう覚悟が必要なんです。でも、そうしてともに生きていけば、お互いに得るものがある」

 と中谷さん。

 3か所の拠点を約10日ごとに渡り歩き、バスの中で寝起きする。

 全力でいまもなお昔の夢を追いかけている。


(フリーライター山嵜信明と週刊女性取材班)

〈PROFILE〉
やまさき・のぶあき 1959年、佐賀県生まれ。大学卒業後、業界新聞社、編集プロダクションなどを経て、’94年からフリーライター。事件・事故取材を中心にスポーツ、芸能、動物などさまざまな分野で執筆している