週刊女性記者に届いたメール。法的手続きに移行するという脅しで電話をかけさせるのが手口

 週刊女性記者のスマホに、次のようなSMS(ショートメッセージサービス)が届いた。

《コンテンツ利用料金の精算確認が取れません。本日ご連絡なき場合には法的手続きに移行致します》

 差出人は『アマゾンジャパン(株)』。ご丁寧に電話番号も記されている。

 結論からいえば、架空請求だ。もっともらしい文面とインターネット通販大手の名をかたる手口。「法的手続き」という脅し文句には面倒なにおいがする。

50〜60代がいちばんの餌食に

 消費者庁はさきごろ、『アマゾン』『アマゾンジャパン』などをかたった架空請求の被害が相次いでいると発表した。昨年11月から今年5月末までの被害総額は約1億6500万円だったという。

「被害者は10~90代と幅広いものの、特に多いのが50~60代詐欺集団は口八丁手八丁で、クリックし間違えたんじゃないですかなどと、うまくダマすんです。後から保険で全額戻りますよとか、95%戻りますなどと言います。

 本当は戻らないんですが、安心させようとしているんです。それでいったん払っておこうという心理が働いて、スマホ操作に不慣れな人が多い50~60代の人は払ってしまうんでしょう。また、訴訟を起こすという文面に驚くこともあるようです」

 そう明かすのは消費者庁の担当者だ。現金の振り込みではなく、コンビニでギフトカードを買わせて暗証番号を読み上げさせる手口が横行しているという。これまでなかった新たなサービスや概念に、アナログ世代=非デジタル世代はコロリと弱い。

「アマゾンは、未納料金が発生しない前払いのシステムなんです。クレジットカードの更新などでうまく引き落とせずに未納が発生する場合はありますが、その際もSMSで連絡することは一切ないとのことです」(前出・消費者庁担当者)

 詐欺集団に1度でも応じてしまうと、相手にとっては、それこそいいカモだ。何度も手を替え品を替え催促が相次ぐ。

「国税局が調査に入り銀行口座を押さえられますと脅し、預金を下ろしたほうがいい、家に置いておくと押収されるので預かりますよ、と言いくるめて、商品名を“お菓子”として宅配便で送らせようとします。それで数百万円取られたケースもあります」

 と前出・消費者庁担当者。

アマゾンジャパン合同会社の本社。実際は株式会社ではない

 消費者庁によると、実在するアマゾンは本件とは全く無関係という。

増加の一途を辿る架空請求

 “偽アマゾン”詐欺の相談事例は多い。

「2014年度に初めて相談があり、'15年度に5件、'16年度が115件、'17年度が1057件と増えています」

 そう明かすのは大阪府消費生活センターの担当者。

理想はメールが来た時点で、相談していただきたいです。アマゾン以外のサイトをかたる詐欺もあり、これもコンビニでプリペイドカードや電子マネーを購入させられるというものが多い」(同担当者)

 都内の相談件数は、

「昨年は653件、今年はすでに485件です。特に3月は月間120件と多かった。有料サイト絡みの架空請求があったという相談が大半です」(東京都消費生活総合センターの担当者)

 愛知県広報課に、先月6月分のアマゾンをかたる架空請求の相談件数を尋ねると、

「ひと月で43件。20代3件、30代5件、40代13件、50代6件、60代11件、70代4件、不明が1件です。男女比は男性が20件、女性が22件、不明が1件です」

 幅広い年齢層、さらに男女限らず被害相談があることからも、詐欺集団が、ランダムに電話番号の回線にSMSを送りつけていることがわかる。

 振り込め詐欺などに詳しいアトム市川船橋法律事務所の代表弁護士、高橋裕樹さんは、被害に遭ったお金を取り返すのは難しい、と指摘する。

「50万円以上の被害であれば弁護士をつけて取り戻すというケースもありますが、10万円以下であれば泣き寝入りのケースが圧倒的に多い相手の特定が困難で裁判費用がかさむため、訴訟はやめたほうがいいです、とアドバイスする形になると思います」(同)

 アマゾンをかたる詐欺集団については、

「詐欺罪ですね。10年以下の懲役です。また、アマゾンに対する威力業務妨害罪になる可能性もあります。3年以下の懲役または50万円以下の罰金ですね」

 と高橋弁護士は指摘するが、

「この手の業者はそもそも裁判に出てこない。相手の所在をつかむことも難しい。裁判で勝っても、この業者の何を差し押さえられるのかが問題になります。詐欺集団はほぼ正規の口座を持っていない。押さえる資産がないんです。

 法律的なハードルはたくさんあるので、弁護士が依頼を受けることはないと思います。弁護士をつけて裁判をするのではなく、警察の逮捕をきっかけに被害の補填を狙うしかないと思います

手口を更新する詐欺集団にご用心

 要するに、だまされない、引っかからないことが何よりも重要になってくる。

 前出の消費者庁の担当者も、相手の手に金銭が渡ってしまうと、回収の見込みは低いという。

「もし、警察が検挙した場合でも、お金が残ってないケースが多いですから、取り戻すことはなかなか難しいです」

 と前出担当者。さらに、

「記憶にないものに関しては、SMSが来ても絶対に折り返してはいけません。無視する一手です」

 と無接触を強くすすめ、

「188に電話をしてください。全国の最寄りの消費生活センターにつながるようになっています。もしくは警察の相談コーナー♯9110にご相談いただければと思います」

 前出・大阪消費生活センターの担当者は、

「昨年度まではほとんどが電話をかけさせるものだったのが、最近はメールを送らせるようになっている。催促のメールが届いたので、解約しようと相手側に個人情報などを書き加えて返信してしまったというケースがあります。その方は、“自宅を訪問します”というメールが届いて驚いて相談に来ました

 詐欺集団は手口を更新する。バージョンアップする。それをきちんと知ることが、何よりも防犯の第一歩になる。

 冒頭のSMSに書かれていた連絡先に、試しに電話をかけてみた。2日間で都合6度、連絡をしたが通話中の「ツーツー」という音が鳴るだけでつながらなかった。


〈識者PROFILE〉
たかはし・ゆうき 2008年に弁護士登録。少年事件や遺産問題にも強い。著書に『慰謝料算定の実務第2版』(ぎょうせい刊)がある