田中圭 撮影/伊藤和幸

どんどん思い出を上書きしていくタイプでして。だから印象に残っている仕事といわれても、『おっさんずラブ』のことしか思い出せない(笑)

 男性同士の純愛を描き、話題を集めた『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)。ドラマ終了後も根強い人気を誇る同作で主演を務め一躍、脚光を浴びている田中圭(34)。中学3年生で受けた映画のオーディションがキッカケで芸能界入りし、芸歴は20年近くになる。

「母親の“5000円あげるから”という言葉につられ、人気女優の相手役オーディションを受けたんです。“もしかしたら、女優さんに会えるかも?”というミーハー心はありましたが、俳優という仕事をあまり認識していなかったので、芸能界への憧れとかはまったくなかったです」

 グランプリは逃したものの、ファイナリストに残ったことで現在の事務所にスカウトされ、所属することに。しかし最初は演技レッスンもサボるほど、演技には興味がなかったと語る。

「当時通っていた千葉の高校から、世田谷区にあるレッスン場まで1時間以上かかったので、めんどくさくなりサボってばかりでした。それでアクセス面を考慮してくれたのか、大久保のレッスン場に変わったのですが、そこの先生とはウマが合ったんです」

26歳ごろにやめようと思い事務所に相談へ

 母子家庭で育った田中にとって、新しいレッスンの先生は父親のような存在だったようだ。

「学校やオーディションに受からない日々の愚痴を聞いてくれたり、何でも話せる先生で。演技を習いたいというより、その人に会いたくて、レッスン場に通っている感じでした」

 そんなレッスンの日々を経て、デビュー4年目に出演したドラマ『WATER BOYS』で、山田孝之演じる主人公の親友役で注目を集める。

実際に水泳部のメンバーで合宿を行うなど、練習が本当に大変だった記憶しかないです。帰宅するのもしんどくて、当時は(山田)孝之の家に転がり込み、居候状態でした。孝之が熱く芝居論を語っていたのはよく覚えているし、影響を受けた部分は絶対あります。でも彼に限らず、今まで出会った人、作品が僕に影響を与えていて、すべてがつながっていると思うので、この作品だけが特別というワケではないです」

 とはいえ事務所の先輩でもある小栗旬からは、特に大きな影響を受けているようで、「どんな存在?」と聞くと、笑いながらこう話してくれた。

田中圭 撮影/伊藤和幸

「目の上のタンコブ(笑)。事務所に入ってくる後輩には“先輩に追いつこうと頑張って、追いついたと思ったらもっと先にいる先輩がいる事務所にいられることは幸せなことだぞ”と言い続けています。後輩だけでなく、旬くんの存在は僕も刺激になるし、幸せなことだなって思います

 しかしそんな彼にも、役者をやめようと悩んだ時期があったそうだ。

「勢いのある後輩が出てきて、焦りに近いものを感じていた時期もありました。芝居で負けているつもりはなかったけど、人気者の仲間が出ている舞台を見に行くと、僕の出ている舞台より全然拍手が大きくて。内容よりも知名度のほうが大事なの? と思うとむなしくなって……。

 それで26歳のころ、本気でやめようと思って事務所に相談しに行ったほど。でもよく考えたら、芝居ってみんなで作り上げていくものだから、僕が嫉妬していた役者たちも敵ではないって気づいて。それで、僕なりに芝居で戦っていこうと覚悟を決めてからは気持ち的にも楽になったし、仕事も楽しくなりました」

『おっさんずラブ』で口座の残高が69円に!?

 映画やドラマなどオファーが絶えない現状については、こう謙遜する。

スケジュールさえ空いてれば仕事を断ることはほとんどないですが、それはポリシーでもなく、数をこなさないと食っていけないから。僕自身は結婚したからといって変わったつもりはないですが、もしかしたら事務所の方が“田中は家族がいるから”と気を遣って、いい仕事を取ってきてくれているのかも(笑)」

『おっさんずラブ』から休む間もなく、現在はドラマ『健康で文化的な最低限度の生活』(フジテレビ系)に出演中。吉岡里帆演じる新人ケースワーカー・義経えみるの上司で、お金にシビアな係長の京極大樹を演じているが、実際の金銭感覚は真逆のようで……。

お金に関してはルーズかも。自由に使える僕個人の口座があるのですが、用事があってお金を引き出したら残高が69円になっていて、久々に焦りました(笑)

 残高が減ったのは、意外にも『おっさんずラブ』のせい!?

「これまでご一緒した座長(主演)の方が、食事に行ったときに一切僕らに払わせなかったんです。そういう方々と稼いでいる額が違うのはわかっているけど、座長になったときは借金してでも同じようにしようとずっと思っていて。だから撮影中、後輩を連れて食事に行って払っていたら、69円になっていただけです!」

 ちなみに、今作は『おっさんずラブ』を超える代表作になりそうですか?

「僕は基本的に見る人によって代表作が違う俳優だと思うので、今回のドラマを代表作だと思っていただける方もいると思います。ただ、『おっさんずラブ』とは求められていることが違いますから。出演シーンも圧倒的に違うので、もし“ケンカツ”が田中圭の代表作だ! と思っていただける方がいるなら、僕、相当すごい演技をしていますね(笑)。よい人たちに出会えて、芝居ができているのが幸せなので、そういう機会が増えるようにこれからも頑張っていきたいです」

<出演情報>
ドラマ『健康で文化的な最低限度の生活』
カンテレ、フジテレビ系 火曜夜9時~。
出演/吉岡里帆、井浦新、川栄李奈、山田裕貴、田中圭、遠藤憲一ほか