7月24日に大阪の新歌舞伎座で行われた三橋さんの追善コンサートでの玉三郎

 楽屋で座った姿すら、凜として美しいーー。

 当代一の女形・五代目坂東玉三郎。歌舞伎界への貢献により、'12年に重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定されたが、現在でも舞台に立ち、ファンを魅了している。

“昭和の名曲”を歌うワケは

 そんな歌舞伎界の重鎮は最近、意外(?)とも思える、“歌”での活躍の舞台が増えてきている。現在は、コンサートツアー『坂東玉三郎 越路吹雪を歌う「愛の讃歌」』の真っ最中。

 また、日本人歌手として初めてレコードのプレス枚数が1億枚を超えた、昭和歌謡界の重鎮・三橋美智也さん(享年65)の追善コンサートツアーにも出演しており、“昭和の名曲”を歌っている。

「年齢を重ねると、だんだんと声が出なくなっちゃうんですね。それで舞台のために発声の練習を始めたんです。練習を始めて15年くらいたって、“ここまで発声をやったんだから、歌ったら?”という声をいただいていたなかで、ちょうど昨年、越路さんの追悼があって、そこで歌わせていただきました。

 それがきっかけで、三橋さんのコンサートに出演させていただく機会にもつながったんです

 坂東は'17年3月に『越路吹雪三十七回忌特別追悼公演』に出演し、同年11月には越路さん(享年56)のカバーアルバム『邂逅~越路吹雪を歌う』をリリースしている。彼女との出会いは、同じ歌舞伎界の盟友がきっかけだった。

「いまの白鸚さん、前の幸四郎さんが染五郎時代に、越路さんと共演した舞台『王様と私』を拝見したのが初めてでした。'65年だったと思います。その後も、越路さんの舞台には何度も足を運びました」

 若いころの坂東は、歌舞伎界の先輩以外に、初代・水谷八重子さん(享年74)や杉村春子さん(享年91)といった大女優に生き方を学んだという。そのひとりが越路さんだった。彼女とは雑誌の連載企画で対談する機会があった。

「舞台に上がる“姿勢”を学ばせていただきました。本番を迎えるまでの準備とか、自分で海外に行き、取材をしていろんな歌を仕入れ、それでお客さまのためにリサイタルを見せていた。とても丁寧に答えてくださり結果、私はトレーナーさんも、歯医者さんも、美容院も、耳鼻科も越路さんと同じところに通うことにしたんです」

 越路さんと同じく三橋さんのコンサートへの出演も、歌舞伎界とのかかわりが。

三橋さんを仰ぎながら歌う玉三郎。形見として誕生石の宝石をもらったという

「三橋さんのマネージャーでコンサートにも踊りで出演されている二条弘子さんは、私と片岡仁左衛門さんの踊りで一緒に踊ってらしたのね。私が16歳のときですから、50年も前のことなんだけど(笑)。でも、生まれたときから三橋さんの歌で生きてきましたし、『達者でナ』なんてとても好きだったんですね」

後輩たちに歌舞伎座を盛り上げて欲しい

 古い名曲を「将来の人たちにも歌い継いでもらいたい」と言う。先日、10月に熊本・八千代座で行われる公演の記者会見で、いまの歌舞伎界について“危機的状況”と評し、

「先輩が減ってしまったので、若い方が曲の深い意味などを理解せずに、本意が伝わらないものになるのが心配なんです。層が薄くなった時代。新しい歌舞伎座になってから特にそう思います」

 と話していた。人間国宝の目には、やはり現代の歌舞伎界は危機なのだろうか。

「そんなに危機的じゃないけど、偶然に言ったことがずいぶん大げさに出ちゃって、とても心苦しいんだけどね……(笑)。でも、歌の世界でもなかなか若い世代が増えないと思うんですね。

 歌番組だって少なくなったと思います。コンサートだってやりにくい時代でしょう。そういうことが歌舞伎にもあったので。それを言ったらやけにクローズアップされて私としては苦しいんだけど。別にそれほど大義はないんです」

 いまの歌舞伎界をただ悲観しているわけではない。

「ずいぶん新作も出てきました。やっぱりお客さまに来ていただかなければならないので、そういうことをみなさんで、私よりも後輩たちが、歌舞伎座を、盛り上げてくれることが望みですね」

 確かに市川海老蔵や中村獅童、片岡愛之助、中村勘九郎など次代のスターたちもさまざまな場で活躍している。

 しかし、自身については、

「自分はとてもじゃないけど……。いろんな意味で数年でしょうね。でも、わからない。数年って9年かもしれないし、1年かもしれない(笑)」

 御年68歳。しかしその立ち居振る舞いは凜としていて、年齢を感じさせない。その美しさを身につけるには……。

「やっぱりちゃんとした食べ物ですね。あとはちゃんと動くこと、寝ること、“自分”を知るということですね。いろいろな意味で自分に何が似合うのか知ること。自分を見つめることで変わっていきますから」

 長らく野菜中心の生活を送ってきたが、近年は“のどの潤い”のために肉も食べるようになったという。

「牛が必要なんですよね。毎朝食べてます。今日も食べてきましたよ(笑)。量は日によるけど100グラムから150グラムかな」

 いつまでも、その活躍をファンに見せてほしい。


〈INFORMATION〉
コンサート『坂東玉三郎 越路吹雪を歌う「愛の讃歌」』が開催中。
8月19日 KOTORIホール(東京都昭島市)問い合わせ:042-546-1711
11月17日 SAYAKAホール(大阪府狭山市)問い合わせ:072-365-8700
チケットは各プレイガイドで絶賛発売中