日本の文化や伝統などを訪日客にアピールするためには、不安を与えることのない宿泊施設が必要になるのだが……

 増加の一途をたどる海外からの“インバウンド(訪日旅行)”観光客。観光庁は、東京五輪が開かれる'20年に訪日客を4000万人に増やす目標を掲げ、Wi-Fiスポットの強化などに取り組んでいる。

 そんななか、五輪を前に懸念されているのが宿泊施設の問題。東京都心で3500室ほど不足するという民間シンクタンクの試算もあるが、新規ホテルの建設ラッシュをはじめ、クルーズ船を宿泊施設として利用することなどにより、全体としては解消へ向かっているようだ。

 そうしたホテル不足の緩和策として期待されているのが、一般の個人宅を宿泊施設として運用する民泊。6月15日には住宅宿泊事業法(民泊新法)が施行され、ビジネスとしての民泊が解禁された。しかしーー。

「新法の施行前に比べ、相当数の家主や業者が撤退しています」

 と話すのは、高橋裕樹弁護士。以前は国家戦略特区として一部に限り認められていたが、法的な位置づけがあいまいだったことから、違法な『ヤミ民泊』やグレーゾーンの運用が目立った。

 実際、民泊新法が施行される直前、民泊を仲介する世界最大手サイトの『Airbnb』(エアビーアンドビー)が許認可のない国内宿泊施設の掲載を取りやめた結果、検索できる施設が約8割減少したという。

 これらは、もちろん届け出れば適法となり、堂々と運営できるのだが、

手続きのハードルが高いんです。提出する書類も建物の平面図や土地・建物の登記簿謄本など、かなりの量になりますし、火災報知器などの消防設備もつけて許可を取らなければいけません。初期投資の段階で手間とお金が、かなりかかってしまいます。

 手続きを代行してくれる行政書士や、専門代行業に依頼するのがベストですが、それらの手続き費用もかかります。そうなってくるとビジネスとしては厳しい……。事業規模にもよりますが、損益分岐までは赤字覚悟が必至。五輪までにプラスになるかわからないでしょう

 利益が出づらくなっている要因のひとつは、営業日数の規制にあるという。

「民泊新法では、年間180日までしか宿泊させられないというルールがあります。今まで違法でやってきた人が合法でやっても同水準で稼げるとか、適法でやったほうがリスクも減らせるということにならないと、届けを出して参入する人は少ないでしょう。

 適法な民泊だけにしようと大がかりな摘発を行えば、おそらく宿泊施設の不足に直面するので、当面の間、違法民泊は残ると思います。清濁併せのむ、じゃないですけど、見て見ぬふりをせざるをえないのではないでしょうか

 また、民泊の利用にあたっては、お金を振り込んだのに宿泊先で追い出されたなどのトラブルも報じられている。

「管理規約で民泊を禁じているのにマンションの部屋を使っていた場合、管理組合の人が強引に鍵をこじ開けて追い出そうとしたり、警察を呼んだりするケースは珍しくない。そういったトラブルに巻き込まれた人からSOSがあっても、違法民泊である限り、どうすることもできません」

 海外では、民泊で貸した部屋が売春宿として使われるケースも珍しくないという。

「当然、日本でも起こりえます。通常の民泊では採算が合わなかった場合、二次的な使い方として、例えばデリヘルなどの性風俗に利用することも考えられる。今年に入り、外国人が民泊で泊まっている部屋に日本人女性を連れ込み、死亡させたとして刑事裁判中の事件もあります。犯罪の温床になりうる可能性はありますね

 犯罪やトラブルは一般のホテルでも起こりうるものの、民泊には特にダーティーなイメージがつきまとう。これを払拭するには、「資本力のある大手がメリットを広報しながら、すそ野を広げていかないと難しい」と高橋弁護士は言う。

「民泊には、そこでしかかなえられない楽しみ方があるのも事実。今年の正月、家族や親戚14人くらいで沖縄に行ったのですが、そのときは『Airbnb』で一棟建ての家を借りました。価格が安いというほかに一同でひとつ屋根の下に泊まれるというメリットもある。

 民泊を上手に利用するには、適法であることはもちろん、サイトのレビューを見るなどして評判を探り、アメニティー完備の有無などについても細かくチェックしたほうがいいでしょう

こんなときはどうなる?

Q1 海外から友人が来日し、自宅の空いてる部屋を貸したら謝礼を払ってくれた。これはバレたら違法?

「これは違法になりません。宿泊に対して対価をもらい、なおかつ反復継続していくという営業目的がある場合が民泊。仮に1泊1万円で使っていいよ、という話であっても反復継続性がないので、まったく問題はありません」(高橋弁護士、以下同)

Q2 バレなければ大丈夫、と無許可で民泊をしているが、摘発されたらどんな罰を受ける?

改正旅館業法では、6か月以下の懲役、もしくは100万円以下の罰金が科されます。懲役は以前と比べて変わっていないのですが、法改正の前は3万円以下の罰金でした。もとが古い法律なので、時代の流れに沿っての金額になったのでしょう」

Q3 自分の所有しているマンションの部屋なのに、管理組合から民泊禁止の指示が。これは権利の侵害になる?

「管理組合の取り決めについては、裁決権を持った住人が総会で決めるものなので、基本的に権利侵害にはなりません。ほかの住人にしてみれば、高いセキュリティーを求めて購入したマンションに、不特定多数の人間が出入りできることになれば、そこを買った意味がなくなります。最近、この点をかなり強く規約にしていますね」

Q4 宿泊した人が、マンションの公共スペースの物品を壊したまま出ていってしまった。こういったトラブルはどこへ相談する?

「特にどこ、というものはありません。共用施設などを破損したなど、民泊で宿泊した人がやったという確実な証拠があれば、その人自身に賠償を請求することができます。また破損への関与や注意義務違反があれば、部屋の所有者にも賠償請求できます。

 何にしても証拠が絶対に必要となるので、対策としては、防犯カメラなどを設置してセキュリティーレベルを上げること。管理組合で民泊を禁止していなくて、犯人を特定できない場合はどうしようもないと思います」


〈識者PRIFILE〉
高橋裕樹さん
2008年に弁護士登録。少年事件や遺産問題にも強い。著書に『慰謝料算定の実務第2版』(ぎょうせい刊)がある