近年はSNSの充実で、地方からも全国的な人気を獲得するコンテンツが誕生している。これからも確実に地方からスターは生まれ、それらの命は、東京のエンタメ観では見つけられない場所で産声をあげています。そんな輝きや面白さを、いち早く北海道からお届けします(北海道在住フリーライター/乗田綾子)

ボイメンのように、地方から人気を広めるグループは現れるのか(写真はイメージです)

 みなさんは “地方を拠点にする男性アイドルグループ” の存在を、どれくらい知っていますか?

 これまで、大手メディアの集まる東京に集中していた男性アイドルコンテンツが、地方でも本格的に展開されるようになったのは最近のこと。

 その火付け役となったのは、間違いなく名古屋の男性アイドルグループ『BOYS AND MEN』(通称ボイメン)。2010年の誕生以降、地方から着実に人気を広げていった彼らは、いまや地元・ナゴヤドームでの単独ライブを開催できるほど、大きな成長を遂げています。

 夢を叶えるために故郷を離れるのではなく、あえて生まれ育った故郷で夢を育てる、日本各地の男性アイドルグループたち。東京ではまだ見えない彼らの魅力や表情をいち早く発見すべく、今回は私の住む北海道で行われた「北の男子ライブ」へと潜入してきました。

北海道生まれの“キタダン”に行ってみた

 今回、私が観にいった「北の男子ライブ」は、2017年4月に始まった北海道を拠点とする男性アイドルグループ中心の合同ライブ。札幌中心部のライブハウスで月1回、定期開催されています。

 この「北の男子ライブ」によく出演しているのは『NORD』『G.E.E.K』『White Explosion』の3組。実はこの3組、いずれも北海道のテレビやラジオ、各イベントによく出演しており、ここ北海道では、少しずつその知名度が上がり始めている存在でもあります。

【NORD】
 7人組ボーイズユニット。2015年から行われた北海道男子限定オーディション「アオタガイ学園」の合格者たちによって結成。公式ホームページhttps://nord-official.jp/

【G.E.E.K】
 6人組ダンス&ボーカルグループ。2016年のCDデビューを出発点として、北海道では珍しい”男女混成グループ”として活動中。公式ホームページhttps://www.geek-sapporo.com/

【White Explosion】 
 6人組ダンス&ボーカルグループ。2016年から行われたオーディション「北海道限定!!DANCE & VOCAL BOYS UNIT」から誕生。公式ホームページhttps://avex.jp/white_explosion/

 この日の「北の男子ライブvol.17」は平日18時台からのスタートでしたが、開場直後からすでに多くのお客さんでいっぱいに。見たところ、お客さんの年齢層は制服を着た10代の女の子から20代、30代のお姉さんたちまで予想以上に幅広く、中には演者と同年代であろう、若い男の子もチラホラと確認。

 そして開演時間が近づくと、目立つのがお客さんが続々取り出すいわゆる“キンブレ”(繰り返し使える電池式のペンライト)。しかも、中にはしっかりと、この日の出演グループのロゴが入ったものも見受けられます。

質の高いオリジナルソング

 客席側のライトが消され、トップバッターとして登場したアクターズスタジオ北海道本部校(AAAの西島隆弘やw-inds.の千葉涼平、緒方龍一らを発掘したことで有名)の生徒たちがステージを披露したあと、いよいよライブは本編へ。

 まず登場したのは7人組ボーイズユニット『NORD』。すでにメンバーカラーの決まっている彼らにあわせて、客席では思い思いの“推し色”に点灯されたキンブレが振られます。

『NORD』公式ホームページより

『NORD』だけじゃなく、後の『G.E.E.K』『White Explosion』にも言えることなのですが、衝撃だったのは地方の男性アイドルグループが歌うオリジナルソングが、どれもめちゃくちゃクオリティが高い!

 例えばこの日『NORD』が歌っていた中に『僕=君・ハート・キャッチ』(※編集部注 ハートとキャッチの間はハートマーク)というオリジナル楽曲があるのですが、それがまたビックリするくらいにキャッチーで、質の高いアイドルソング。

 振り付けもアイドルファンのツボを見事に抑えていて、案の定、ライブでもファンがものすごい盛り上がりを見せています。

 さらに彼らは10月に予定されている札幌でのワンマンライブに向け、かなり気合が入っていたのか、この日は歌にダンスにコール&レスポンスにとノッケから大奮闘。

 MCでも「すごく考えてきました」と言っていた通り、メンバーの熱意とともに緩急つけたステージは見事なまでにハマっていて、終了後もしばらく会場のざわめきが収まっていなかったのが印象的でした。

女性メンバーへの声援もしっかりと

 続いて登場したのは6人組ダンス&ボーカルグループ『G.E.E.K』。そう、このグループ、いわゆる『AAA』方式になっていて、現在のメンバーは男性4人に女性2人という組み合わせです。

『G.E.E.K』公式ホームページより

 しかし隔世の感があるなぁ、と強く思ったのは、どう見ても女性客ばかりのこの会場、しかも「北の男子ライブ」という名のついた場所において、ステージ上の女性メンバーへの声援が、かなりしっかり存在していたことでした。

 '00年代くらいまでのアイドルカルチャーといえば、そもそも男性アイドルと女性アイドルのすみ分けがかなりきっちりしていました。両者が歌番組などで少し言葉を交わす様子が映っただけでも、ファンが敏感に反応し“炎上状態”になることがたびたびあったほどです。

 しかし時代は変わり、今ではたとえ地方という小さく限られた環境であっても、男女混成のアイドルグループと、それを熱心に応援する女性ファンの構図がしっかり成立するようになってきているようです。

 ちなみに前述の『NORD』と、この『G.E.E.K』は、それぞれYouTubeの専用チャンネルを開設しています。

 実際の動画も見てみましたが、内容はMVやライブ映像だけでなく、時にYouTuberばりのゲームに挑戦しているものも。特に出演メディアの数が限られる地方アイドルにとっては、あのような映像発信はかなり大事な活動です。

メンバーと180kmのバスツアーも

 そして、この日の合同ライブでラストに登場したのは6人組ボーイズグループ『White Explosion』。avexの所属アーティストでもある彼らは、赤×黒×ゴールドのスーツでシックに決め、“育成型ダンス&ボーカルグループ”というキャッチコピーの通り、シンプルに踊りと歌で魅せていきます。

『White Explosion』公式ホームページより

 しかし、カッコよさを追求したそのステージとは(良い意味で)対照的に、MCでのメンバーは一気に雰囲気が変わり、ごく普通の“北海道のお兄ちゃん”たちに。

 よくよく聞いているとイントネーションに北海道訛りがあり、トークに道内の細かい地名がバンバンでてくるのも特徴的です。

 ちなみに興味深かったのは、この日に行われていた告知で、10月に『White Explosion』が出演する北海道内での地域のお祭り(池田町ワイン祭り)に合わせて、札幌からのバスツアーが組まれるという話。

 札幌と池田町の間は約180km、北海道ならではの距離移動になりますが、バスツアーではメンバーが行きも帰りも同乗し、お見送りもあるのだそうです。

 特に、ここ北海道では夏から秋にかけて各市町村でのお祭りが続くのですが、そういった場所に歌や踊りのステージで華を添えるだけでなく、お祭りそのものにファンも一緒に参加してもらう。

 アイドルグループと市町村のお祭りステージ、そして現地参加型バスツアーという発想は、まさに地方ならではの、面白い試みだなと思いました。

地方から全国区へ

 “地方を拠点にする男性アイドルグループ” たちの姿に改めて感じたのは、ステージ上のアイドルも、そしてファンも、自分たちが地方に生まれ育ったことを、まったく“デメリット”に思っていないということ。

 その楽しそうな笑顔にあったのは、今ここに生きる若者たちのエネルギー、そして気持ちよいくらいの清々(すがすが)しさでした。

 人によっては、それは“外の世界を知らない若さ”という言葉で終わらせてしまうものかもしれません。

 しかし、実際にスポットライトの下でキラキラと歌って踊るアイドルたち。そして客席に揺れるたくさんのペンライトの光は、彼らが故郷を離れずに、生きる意味、そしてこの場所にしかないエンターテイメントの世界を、最高の形で確立していたように思います。

 今回、紹介した中の2組は、10月にはそれぞれ北海道でのワンマンライブも予定しています。まだまだ全国では知名度の低い彼らですが、この中からボイメンのように人気を広げるグループは現れるのか。

 今後も、地方で奮闘する若い彼らの活動に注目していきたいと思います。

<北海道のボーイズグループ・ワンマンライブ情報>
・White Explosion 「do or die」2018年10月10日(水) 会場:cube garden

・NORD 「NORD Autumn LIVE 2018~スタンディングで楽しみまっShow time~」2018年10月13日(土) 会場:札幌ペニーレーン24

(詳細は各オフィシャルホームページにて)

【筆者からの追記】

 この記事の更新を準備していた9月6日、当連載の舞台である北海道で北海道胆振東部地震が発生しました。このたびの地震で被災されたみなさまに、心よりお見舞い申し上げます。

 道内に住む私自身も2日間の停電を経験しましたが、ラジオだけが頼りの真っ暗な夜、不安な気持ちを支えてくれたのは、やはりラジオから流れてくる心強い音楽や歌声、エンターテイメントの励ましでした。

 まだ余震やライフラインへの影響は続きますが、これからの地域復興に欠かせないのもまた、エンターテイメントがくれる勇気だと思っています。当連載では、この北海道でこれからも、そんな人々の希望の光を探し続けていきます。


乗田綾子(のりた・あやこ)◎フリーライター。1983年生まれ。神奈川県横浜市出身、15歳から北海道に移住。筆名・小娘で、2012年にブログ『小娘のつれづれ』をスタートし、アイドルや音楽を中心に執筆。現在はフリーライターとして著書『SMAPと、とあるファンの物語』(双葉社)を出版している他、雑誌『月刊エンタメ』『EX大衆』『CDジャーナル』などでも執筆。Twitter/ @drifter_2181