上川隆也 撮影/佐藤靖彦

 この秋、見ごたえ間違いなしの豪華絢爛(けんらん)な舞台『魔界転生』が上演。原作は山田風太郎の人気伝奇小説で、アクションとカルトの世界が融合した壮大なエンターテイメント時代劇だ。過去には’81年に深作欣二監督で映画化され大ヒットした名作が、演出・堤幸彦×脚本・マキノノゾミの最強タッグで甦(よみがえ)る。

 柳生十兵衛役で主演する上川隆也さんが「僕自身も少なからず舞台作品を経験してまいりましたが、こんな脚本は読んだことがないです」と話す今作は、これまでにない想像を超えた舞台になりそうだ。

夢のカードを垣間見るワクワク感が満載

マキノさんが、本当に何ひとつ加減することなく、やりたいことをやりたいように書いたとおっしゃっていたのですが、まさにそのとおりでした。普通に考えたら舞台ではできないです。マキノさんが文字として表現なさった数々の場面や展開表現を板の上にどう再現するのか、まったく想像できません。あのまま、堤さんがもし舞台上に再現してみせたら、一大事だと思います

 舞台の製作発表でも、フライング、プロジェクションマッピングをはじめ舞台技術の最高峰を結集して、見たことのない大胆な舞台を作ると、演出の堤さんから明かされている。マキノさんが「堤監督なら、きっと燃えてくれるであろう、めちゃくちゃなものを書きました」と語る脚本と未知の演出に、上川さんはどういう覚悟で臨むのか?

「めちゃくちゃやるにしても、生身の人間にやれることは限度がある。僕ら役者はその限度に向かってひた走ることはしますけれど、脚本に描かれているものはその限界の向こう側にあるようにしか思えないんです。しかし、マキノさんが思いのたけを込めて書かれた脚本の世界観をスポイルしていくのは悔しくてしかたがないんです。ですから、僕らも自分たちが想定した限界点をどこかで反故(ほご)にしなければいけないでしょうし、堤さんがそれをたぶん越えて何かを表現なさろうとすることも想定されますから、とんでもない秋になりそうな気配をひしひしと感じております

 もともと原作のファンだという上川さんが思う『魔界転生』の魅力とは?

「知る人ぞ知るかもしれませんが、架空戦記というものが小説界で流行(はや)った時期があって。例えば、もしあの戦争のときにこんな兵器があったら、戦局はどう変化しただろうかみたいなイフ・ストーリーです。この物語はまさにそのてんこ盛りだと思うんです。現実には相対することがない剣豪たちを魔界転生という大いなる仕掛けを用いることによって成立させてしまう。本来見ることのできなかったマッチング、ボクシングやプロレスでいうところの夢のカードを垣間見ることができるワクワク感が満載です

 柳生十兵衛を演じるのは、’08年のドラマ『柳生一族の陰謀』以来10年ぶり。十兵衛という人物像につては、「ひと言でいってしまえばギャップに満ちた人」と語る。

「徳川将軍家兵法指南役を担う父親の宗矩も認めざるを得ないほどの腕の剣豪であるのに、己の剣にも父親の職を継いで地位を得るということにもまったく拘泥(こうでい)していない奔放さ。女性にはモテる一方で、女性に対しての接し方はとても不器用。そうしたいろいろな部分でのギャップが彼の大きな魅力になっていると思うんです。

 おそらく世を転覆せしめんとする一団に狙われて相対することになっていくというのは、十兵衛にとってはある意味、面倒なことだったりするんですけど、戦えばめっぽう強い。そんな不思議で人間くさい人物だと思ってます」

上川隆也 撮影/佐藤靖彦

舞台は面白いことに出会えるところ

 今作は豪華キャストにも注目。魔界の力で甦る天草四郎を演じるのは、近年多くの舞台で評価を得ている溝端淳平さん。松平健さん、浅野ゆう子さんなどのベテラン陣。舞台で活躍する人気若手俳優も多数登場する。座長を務める上川さんは、リーダーシップを発揮するタイプではないそうで。

“俺について来い”なんて、口が裂けても言えない性質(たち)なので。そこに共演者やスタッフの方がいてくださるからこそ、自分がやりたい芝居ができて、しかもお客様にも喜んでいただくものを作り上げられるわけですから。みんなに感謝しながら過ごしてます」

 後輩からアドバイスを求められたら?

「知ったかぶりもしたくないですし、“困ったね~”って一緒に悩みたいと思います」誠実で謙虚な人柄がにじみ出る。舞台出身の上川さんにとって舞台とは?

僕にとっての舞台の原点的なありようは“面白いことができるところ”なんです。今回も『魔界転生』という面白そうな現場に立ち会う機会を得られた。作品を新たに投げかけていただくことによって、これまでに見たことがない面白いことと出会える。舞台と出会った当初に感じた芯みたいなものが、いまだに色あせず熱も失わないままにあるからこそ、僕は明日も芝居ができるんだと思うんです

 大舞台を乗り切るためのいちばんの癒しは、愛犬ノワールの存在。

今は何を置いても、それに尽きると思います。犬が僕らに向けてくれる感情って、むき出しなんです、愛情も喜びも。いついかなるときでも色も温度も何も変わらない友愛がそこにあって、その存在に心の底から癒される。何ひとつ包み隠すこともせず加減もなく、365日いつだってむき出しの愛情で接してくれる。そこに心打たれるんです

 最後に読者へのメッセージをお願いします。

「溝端くんをはじめとする美しい青年たちが血で血を洗う戦いのなかに、このおっさんが交じって汗を流すことになると思います(笑)。そこには見たこともないような世界が繰り広げられると思いますし、一見の価値のある舞台を作りあげていこうと思いますので、ぜひ、各劇場へ足をお運びいただきたいです」

■日本テレビ開局65年記念舞台『魔界転生』
 島原の乱で滅ぼされたキリシタン一揆の指導者・天草四郎(溝端淳平)が死者再生の術「魔界転生」によって甦る。歴史に名を残す猛者たちも次々と転生し、現世での怨念を晴らすため時空を超え悪鬼となり、幕府滅亡を謀る。幕府の命を受けた剣豪・柳生十兵衛(上川隆也)率いる柳生衆と凶悪な魔界衆が死闘を繰り広げるエンターテインメント時代劇の最高傑作。
10月6日~28日@博多座/11月3日~27日@明治座/12月9日~14日@梅田芸術劇場メインホール
【公式サイト】http://makaitensho.jp/

かみかわ・たかや◎1965年5月7日、東京都出身。1989年、演劇集団キャラメルボックスに入団(~2009年退団)、俳優デビュー。以降、舞台、ドラマ、映画、バラエティーなどで幅広く活躍。9月23日スタートのWOWOW連続ドラマW『真犯人』(WOWOWプライム・日曜22時~)主演。

(取材・文/井ノ口裕子)