テレビを見ていて「ん? 今、なんかモヤモヤした……」と思うことはないだろうか。“ながら見”してたら流せてしまうが、ふとその部分だけを引っ張り出してみると、女に対してものすごく無神経な言動だったり、「これはいかがなものか!」と思うことだったり。あるいは「気にするべきはそこじゃないよね〜」とツッコミを入れたくなるような案件も。これを、Jアラートならぬ「オンナアラート」と呼ぶことにする。(コラムニスト・吉田潮)

NHK連続テレビ小説『まんぷく』主な出演者発表会見(2018年3月23日)

 

オンナアラート #20 NHKドラマ『まんぷく』

 全力で空中分解し続けて、全国にいい意味での困惑と、炎上をもたらした朝ドラが終わった。

 安心して視聴できる朝ドラが帰ってきた、と言う声もちらほら。

 安藤サクラ主演のNHK連続テレビ小説『まんぷく』である。まだ始まって間もないけれど、オンナアラート案件として早々に俎上(そじょう)に載せよう。

そうでない人はそれなりに

 美人で優秀、三歩下がって男についていくタイプの姉(内田有紀)、貧乏画家(要潤)と勝手に結婚し、ポコポコと子を産んだ、これまた美人の姉(松下奈緒)、何かにつけては「武士の娘」と豪語する、昔美しかったであろう母(松坂慶子)。

 主人公の安藤は、ひとりだけ、なんというか、そうではない部類に。そのわりにノーコンプレックス。

 美人の姉や優秀な姉、才能のある姉がいると、常に比べられる妹は、普通、よれてねじれる。が、安藤は家族の中でいつまでも子ども扱いされて、のほほんとした末っ子扱いだ。

 コンプレックスを抱かぬまま思春期を過ごしきれたのは、奇跡であり、いい教育なのかもしれないと思った。

 しかも松坂には、安藤が幼い頃からイギリス人家庭教師をつけて、英語を習わせたという功績がある。芸は身を助く。家族、特に母親に否定され続けて、自己肯定感を知らぬまま育つと、ホントめんどくさい女になっちゃうからねぇ。

 安藤はホテル勤務で、初めは電話交換手に。職場のおっさんが「器量よしは表(フロント業務)へ、そうでないのは裏方へ」と話すのを聞いて、初めて自分の立ち位置に気づく。

 怒りや衝撃はなく、「え? あたし、器量悪いん?」と知るのだ。

 そこ、本来なら鼻息荒く怒るところでは? あるいはめっちゃ落ち込むところでは? とアラート鳴ったワケだが、安藤は気持ちいいほど鈍感。美人ではない女なら誰もが抱えている心の闇がない。

 しかも厨房の男子(藤山直美のおいっ子・藤山扇治郎)はやたらと缶詰をくれる。つまりは思いを寄せられている。で、のちのち夫になる貧乏エンジニアの長谷川博己からも好意を寄せられていく。案外モテるのだ。うんうん、いいね。

 言葉は悪いが、「ブスに一筋の光明」。外見重視の世の中に、安藤サクラがもたらすもの。

 先月亡くなった、樹木希林の女優魂も重なるではないか。そうでない人にはそうでない人なりの闘い方とプライドがある。きっと今後も安藤が魅せてくれるに違いない、そうでない女の矜持(きょうじ)を。

悪意を悪意と思わない多幸感キャラ

 安藤は天然キャラで、女の悪意に気づかないタイプのようだ。気づかないまま進むようだから、この際、教えてあげようと思う。

 まず、女学校時代の親友たち(松井玲奈・呉城久美)。あれ、親友じゃないと思うんだよね。金持ちのお嬢様が集まる学校で、貧乏な家の安藤はどうやら珍獣扱いだったようだ。

 常におかずなしの「ちりめんじゃこ弁当」を喜々として食べる安藤を「貧富の差を気にしない変わり者」とみなしたお嬢様たち。「そやから大好きなんよ」とな。ハイ、その友情にオンナアラート!

 自分より下に見ることで安心する女たち、あるいは枠から外れた規格外の女と仲良しでいることで「自分の寛容さ」がほしい女たち。

 知ってるよ、その心根を。悪意ではないかもしれないが、お嬢様たちの根底に流れる「私とあなたは違う世界」感は強い。

 そして、もうひとつ。

 英語が話せることを認められ、電話交換手からフロント係になった安藤。器量よしの先輩・橋本マナミがひっぱってくれたおかげもある。

 あるのだが、気になる会話があった。器量がよくないのにフロント係に抜てきされ、戸惑っている安藤に対して、橋本が放った言葉である。

「あなたの笑顔はとっても素敵よ」

 ハイ、オンナアラート!!! 

 あのな、全世界のブスどもは知っているんだよ、卑下したブスをなぐさめる魔法の言葉を。「笑顔が素敵」「髪がきれい」「脚が長い」。

 顔以外のほめどころを瞬間的に全速力で探し、なんとか見つけ出して吐き出した言葉の真意を。「顔は残念だけど」の枕詞を。

 そんな、一見善意に見える無意識の悪意を、朝から血眼ですくいとる自分が嫌になるけれど、オンナアラート案件ですよ、これは。

 ところが、安藤は悪意を悪意と気づかないどころか、自ら多幸感スイッチをオン。「ちりめんじゃこ弁当のおかげで骨が強くなる!」「フロント係に昇格したから、姉の結婚をぐずる母を説得できる!」とすべて前向きにとらえる。

 プラス思考は最強だし、幸せを感じる才能が豊かなヒロインは、すがすがしいね。

 始まってまだ数回なのに、こんだけオンナアラート発令するなんて。つまり、実に興味深いってことだ。

 安藤サクラが本人の地のまま、というか、アホっぽいキャラをどこまで貫くのか、これから迎えるであろう艱難辛苦(かんなんしんく)をどう乗り越えるか。

 子役時代を一切作らず、長谷川博己との出会いからスタートする英断も、正しかったと思う。アホ全開のオープニング映像の中で一瞬真顔になる安藤に、喜怒哀楽の山場と見せ場をきっちり作ってくれるであろう予感もある。楽しみだよ。


吉田潮(よしだ・うしお)◎コラムニスト 1972年生まれ、千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。テレビ『新・フジテレビ批評』(フジテレビ)のコメンテーターも務める。また、雑誌や新聞など連載を担当し、著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『TV大人の視聴』(講談社)ほか多数。新刊『産まないことは「逃げ」ですか?』に登場する姉は、イラストレーターの地獄カレー。公式サイト『吉田潮.com』http://yoshida-ushio.com/