第3駐車場まで用意。警備員に声をかけると「昨日は倍の出入りでした」との返事が!

 日常生活に欠かせないスーパーが、各地で進化! 他店にはない品ぞろえで勝負したり、盛りつけや配列に工夫を凝らしたりと、大手とは違った方法で集客を伸ばしている。地元客の心を掴んで離さない老舗の2店舗に、週刊女性が突撃訪問。 粋な“ご当地スーパー”のいまをいざ、徹底調査!

おはぎ1日2万個!伝説の『主婦の店さいち』

 仙台駅から車で約30分、その“伝説”は名湯・秋保温泉で、驚くべき光景として息づいている。取材時は雨。客足は少ないかと思いきや、とんでもなかった!

『主婦の店さいち』とともに『秋保おはぎ本舗』の名が記された、家族経営の小さなスーパーには、駐車場に車が次々と出入り。客のいちばんの目当ては、甘さ控えめで2個3個と食べられる、名物のおはぎだ。

「販売数は平均で1日5000個、お彼岸などで多いときは2万個になるでしょうか……」

 常務取締役の佐藤浩一郎さんの話がどれほどすごいかは、秋保町が1400世帯ほどと考えると明らか!  業界で“伝説のスーパー”として名高いのは、おはぎ・惣菜を含めた売り上げが、一般的には全体の1割程度のところ半分以上を占めることにも由来する。

 店に入ると、おはぎ・惣菜コーナーは“一方通行で進んでください”との表示が。2列の棚の両サイドに並ぶ和洋のおかず、丼もの、オリジナルの「なんばんみそ」などが次々と客の手に取られ、そのそばからスタッフにより補充されていく。混雑ぶりに後ずさりしそうになったが、棚を見ると100種を数えそうな惣菜の出来栄えはまさに、お見事。

「累積すると300種類以上はあるでしょうね。おはぎを含め、すべての惣菜の開発・統括は専務である母が進めてきました」(佐藤常務、以下同)

名物秋保おはぎは、2個216円(税込み)〜10個売りまで、この棚に続々と用意

 目移りしながら進んだ惣菜の奥に、目玉の“おはぎ専用棚”が5メートルほどあり、客の手が次々のびる。その様子を売り場天井のカメラで確認し状況に応じて品出しを続けるのだ。

 無添加のおはぎは日持ちせず、賞味期限は当日かぎり。握りこぶし大、もっちりとした中身の倍ほどのあんをまとった極上品を楽しみに、雨の平日でも観光客が絶えない。

 その創業は大正初期で、1979年にスーパー『主婦の店さいち』となった3年後、「孫においしいおはぎを食べさせたい」との客の要望に応えるため、手間を承知で作り始めた。“「とにかく」いい物を作る。販売・利益はその後、必ずやってきます”との言葉がさりげなく壁に飾られ、

「ライバルは同業他社でなく、家庭の味です」 と佐藤常務。ていねいな仕込みのため惣菜担当のスタッフは明け方3時ごろから準備する。常時10数名、のべで20人を超えるそう。

 驚くことに、有名スーパーや企業などから迎えてきた700社近い視察・見学希望者には、おはぎなどの作り方や調味料の配合をのぞき、隠していない。

手前からあん・きなこ・ごまのおはぎ。10月〜5月頭には、変わり種(?)の納豆おはぎも登場!

「『さいち』で学んだと言ってくれたら、宣伝にもなりますしね(笑)」

 そう簡単に再現できるとは思えないが、東北の小さなスーパーの挑戦に励まされる経営者は多い。現社長・専務夫妻はNHKの番組『プロフェッショナル』でも取り上げられ、反響を呼んだ。地元御用達として生鮮品や日用雑貨も並び、観光客向けには月に2000個も売れた東北限定『LOOKずんだチョコ』、『牛タンサイダー』といったユニークな商品、珍しい日本酒もそろえる。

 この懐の深さに抱かれ、ご家族の思いが満ちる店内で、何とも温かな気持ちになるスーパー。それが“伝説の店・さいち”だ。

名家のセンスが光る! 地元の逸品も充実の『スズキヤ』

 創業116年を迎える『スズキヤ』は、神奈川県の逗子のほか、鎌倉・葉山などに店舗を構える老舗。湘南のイメージそのまま、ちょっとおしゃれでセンスのいい品ぞろえが客の心をとらえるスーパーだ。

 逗子駅前店を探すと、「SUZUKIYA」の名前と同時に、併設されている『スターバックスコーヒー』と葉山の日本料理『日影茶屋』、パティスリー『ラ・マーレ・ド・チャヤ』がコラボしたカフェが目に入る。現スズキヤ社長の次兄が日影茶屋に婿入りし、のちに初代スターバックスコーヒージャパンCEOを務めた縁ゆえだそう。

 入り口近くには、みずみずしい野菜や全国から届いた美しい果物が。目につくのは、地元の無農薬野菜や多彩なハーブだ。店長の大川洋さんは、

インスタ映え必至、記念日のプレゼントにもうれしいカットフルーツは注文を受け付け。シトラスフロッグ498円(税別)、右はサメ!

「逗子は、食へのこだわりや高い健康意識をもつお客様が多いですね。イタリア料理用の食材やワインにも多くのご要望があり、数は少ないですが10万円を超えるワインもセラーに用意しているほどなんですよ」

 と話す。葉山に御用邸がある皇室をはじめ、多くの文人や芸術家に愛されるエリアだなと納得。さすが!

「とはいえ、逗子といえばコレと言える名産品が少なかったんです。そこで近年開発が進められたのが、海藻のあかもく。さまざまな加工品が生まれ、当店にもコーナーを作っています」

 上品な磯の香りとシャキシャキ感、独特の粘りに加え、美容や健康によい栄養素の高さも注目され、逗子の新名産となった。確かに、あかもくを練り込んだうどんやそば、調味料などは初めて見るものばかり。

あかもくのしょうゆ・天日干し・うどんは土産に喜ばれそう

 大川店長に店内をぐるりと案内いただくと、スズキヤの魅力がさらに見えてきた。市内の小坪港から届く新鮮そのものの魚、鴨やラムなどの豊富さ、店長も現地の仕入れに同行したというイタリアワインの品ぞろえなど、目を見はるものが盛りだくさん。

 また地場の食品や作り手に敬意を払い、よいものを仕入れる姿勢に加え、プライベート商品にもファンが多い。ロングセラーは、糖度を42%以下に抑えた果実感たっぷりの「いちごジャム」や特製の「熟成ポークウインナー」。また、1枚1枚が手作りならではの薄さとアーモンドの香ばしさがクセになる洋菓子「チュイール」は、贈られた相手からの注文が全国から届くそう。

「社長が熱心にくどいた、良質な氷菓が人気の鎌倉の『イグル氷菓』のアイスや、葉山の“裕次郎灯台”が包装に描かれた『大繁』の寿司などもおすすめです」

 惣菜では、“逗子市くらしのセレクション”に選定された「自家製おつまみ煮豚」、地元で作られたバーニャカウダソースも人気。

当日、催事には米麹甘酒屋の「komeama」が出店していた

「高齢のお客様の増加やひとり暮らしにも対応できる、少量の野菜セットやレンジ調理だけで完成する品にも注力しています」

 スズキヤの細やかな配慮やセレクトには、社長の中村(旧姓鈴木)洋子さんの慧眼とセンスが大いに反映されているそうだ。社長の2番目の兄は、「ひとつ先のライフスタイル」を提案してきたサザビー(現サザビーリーグ)創業者。

 そして長兄は前社長で、元逗子市議会議員とまさに華麗なる一族。鈴木家のセンスが生かされた品ぞろえを、ぜひ店舗の2階にある雑貨とワインの『舶来屋』とあわせ確かめてほしい。


※価格は取材時のものです