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軽減税率制度で混乱必至!?

 安倍首相が10月15日の臨時閣議で、来年10月1日の消費増税を宣言した。

 経済アナリストの森永卓郎氏は、

「確率としては3割程度だと思いますが、まだ消費税率の引き上げが凍結される可能性は残っています。下手にじたばたしないほうがいい」

 と冷ややかに受け止める。

 というのも、2015年10月に10%に上げる予定を、景気に悪影響を及ぼすとして2度にわたり延期したのが安倍首相だからだ。菅義偉官房長官も「リーマン・ショック級のものがない限り引き上げる」と、延期に含みを持たせた。経済の停滞だけでなく、自然災害でもリーマン・ショック級、と判断することができる。

 すべてを一律10%に上げれば迷いなくスッキリする消費税だが、安倍首相が打ち出した軽減税率制度が招くであろう混乱が、すでに情報番組などで議論の的になっている。

 軽減税率の対象になるのは、酒類を除いた飲食料品と新聞。飲食料品は、外食なら10%、テイクアウトや宅配なら8%になる。これが混乱のもと。

 財務省担当者は、

「外食の定義ですが、2つの要件を課しております。1つ目は飲食設備、例えばイスやテーブル、カウンターなどのある場所、2つ目は顧客に飲食をさせるサービスの提供を行っているということです。(食べられる)場所があることと、そこで飲食のサービスを提供するという条件が重複する場合には外食ということで10%になります」

 最近のコンビニでの風景。店内の一角にイスやテーブルのあるイートインコーナーを設けた店舗が増えている。昼どきに食事をしたり、ちょっと休憩で立ち寄る利用者の姿をよく見かけるが、

「まさに外食にあたる場合とあたらない場合の線引きをしなくてはいけません。事業者は客に意思確認をしていただく必要が出てきます」

 と前出・財務省担当者。

 来年10月1日以降、コンビニの店員はレジを打つ際、いちいち「お持ち帰りですか、店内でお召し上がりですか」と、従来はまったく必要のなかったひと言を加えなければならなくなる。全国のコンビニで同様のやりとりが実施されれば、いったいどれだけの時間が失われるのか。

 コンビニならレジもあり、意思確認をすればどちらかの税率を選ぶことができる。さて、これが屋台や縁日の会場だったらどうなるのか。

 たいていの屋台は、税金分を含めて、例えばフランクフルトが1本200円、というように設定されている。いわゆる内税だ。持ち帰る人がそのまま200円で購入する場合、屋台の隣に用意されたイスに座り食べる場合は?

 再び前出・財務省担当者。

「そのテーブルで食べますか、家に持って帰って食べますかという意思確認をしていただく必要性があります。持ち帰りますと言えば8%、食べますと言えば10%になります」

 理屈は原則的でわかりやすいが、実際、屋台側は、どうやって税金分の差額をやりとりするのか。制度に沿った運用は、混乱を招くこと必至だ。

「みりん」は酒類、「みりん風調味料」は調味料となり税率が変わる(写真はイメージです)

 ノンアルコールは酒税法の対象にならないため当然8%のまま、調味料のみりんは、アルコール分を含む「本みりん」は10%になり、アルコールを含まない「みりん風調味料」は8%のままと、成分により変わるややこしさもある。

 中小小売店でキャッシュレス決済をすると、2%分をポイントでキャッシュバックするという対策も打ち出された。

 だが、前出・森永氏は、

「ポイント還元は中小事業者だけになり、中小にはクレジット決済できないところが多いので、あまり使えないと思いますが……」

 と、またしても冷ややか。景気の行方を、

「来年終盤は景気循環が下降に転ずること、米中貿易戦争で米国の景気が悪化すること、東京オリパラバブルが崩壊することで、消費増税がなくても景気後退に入るため、株式を持っている人は、この半年のうちに売却したほうがいいと思います」

 と見通し、生活防衛を呼びかける。

「いま焦って何かを買う必要はない」

 生活経済ジャーナリストの柏木理佳氏は、

「クレジットカードを作っていない人は、今のうちにクレジットカードを作っておくことをおすすめします」

 と事前準備を伝えるが、

「中小の小売店といえば街の鮮魚店などが思い浮かびますが、クレジットカードが使えないことが多い。そういうところで買い求める食料品は8%なので、増税の影響はないでしょう」

 大型スーパーでも2%のポイント還元はされるのか? など未確定の部分はこれからだが、経済ジャーナリストの荻原博子氏は、今、われわれがやるべきことについて、

「ないです」

 ときっぱり。さらに、

「みなさん、慌てる必要はないですよ、と言いたい」

 その理由はこうだ。

今回の増税では食料品が上がりません。そういうものを買っておく必要がありません。他の商品に関しても、今回は還元セールが解禁になります。前回の増税では還元セールはしてはいけないことになっていました。

 上がる前に買いだめなどをすると、増税後はみんな物を買わなくなります。でも物が売れなくなると小売業界は困りますよね。そこで還元セールが出てくるんです」

 その還元セールが激しさを増すケースを、こう想定する。

「A店では還元率が2%だとすると、B店は3%、C店は4%と還元セール競争になりますよ。還元するのはキャッシュとは限らない。その店で使えるポイントで10%還元しますという可能性もありうる話です。ですから、いま焦って何かを買う必要はないのです」

買いだめが必要なものは?

 飲食料品の心配はそれほどでもないにしても、エアコンやパソコン、マンションや車、結婚式といった大型消費となれば、2%の差は大きい。

 前出の識者3人の意見は、

「大型商品の価値は毎日変動して、2%くらいはすぐに変わっていくので、無理して買いだめをしないほうがよいと思います。自動車に関しては増税後に軽減措置がとられる予定です。住宅を新築する場合には(早めの対策が)効果があると思いますが、これも軽減措置がとられるので、その内容次第だと思います」

 と森永氏。柏木氏は、

「住宅工事は、来年の10月1日より前に契約すれば、税率は8%になります。工事が増税後に始まっても大丈夫です」

 と指摘するが、

「いま買うのがいいのかどうかはわからないですね」

 と先々の住宅景気の不透明さに含みを持たせる。

 荻原氏は、

「マンションなども、半年前に契約しておけば2%引きになるなどといいますが、オリンピックが終われば不況になります。そこでマンションを購入したほうが安いんです。マンションは売れ残りが出ると、500万円とか1000万円値引きします。いま購入を焦る必要はありません」

 と長期戦の構えを説く。家電製品などについても、

「消費税が2%上がる前よりも、年末のボーナス商戦で買ったほうが絶対に安いんですよ。年末の在庫処分や新商品の登場で型落ちの商品などは1~2割の値引きどころではありませんから。2%で焦る必要はないということです」

 先々の予定が見えている大型出費のひとつ、結婚式については2019年3月31日までに締結したものであれば8%ですむが、

「あまり早く契約すると、結婚が破談になったときに困るので、完全に予定が決まっている人だけにしたほうがいい」

 と森永氏。荻原氏は、

「別れないのであればいいと思いますけど1年後どうなっているのかはわかりませんからね。結婚はその気になったときにするのがいいと思います。2%くらいでどうこうするものではないと思います」

 現段階で消費者ができそうな対策は、

「買いだめの効果があるのは、日持ちして値段が変わらないもの。例えばタバコとか一部に限られると思います」(森永氏)

「お酒とか、みりんもお酒が入っている本みりんは10%になります。そういうものは増税前に買いだめしていいかもしれないですね」(柏木氏)

「還元セールと型落ち商品で購入すればいいですよ。車は燃費の状況によって税金がかかるものとかからないものが出てきます。まだ損か得かの判断ができないと思います」(荻原氏)

増税凍結の可能性も

 大変な負担は、小売店などの事業者にもかかる。8%と10%の税率を区分するレジを導入したり、キャッシュレスで購入した消費者にポイントを還元する決済端末を設置する必要性に迫られるが日本商工会議所が6~8月に行った聞き取り調査では、準備不足と回答した中小事業者は8割にのぼったという。

 売り上げ1000万円以下の事業者の5割は、今も手書き帳簿だという。そこからいきなりキャッシュレスの世界に移行できるのか。

 冒頭、森永氏は増税凍結の可能性を指摘した。

「凍結表明するとしたら来年の夏ごろまででしょう」

 前出・荻原氏にいたっては、

「増税はないと思います」

 と言い切り、次のように根拠を示す。

「安倍首相は消費税を上げたのに、選挙では連戦連勝しています。その勝因は、消費税を先送りにするというカードをちらつかせてきたからなんです」

 と“増税延期カード”を安倍首相が握っていることこそがポイントと見る。

 10月16日付の読売新聞には『増税 三度目の正直』という見出しが躍り、《「再々延期の懸念一掃」》と、安倍首相の背中をホールドした。もう逃げることは許されないぞ、とでもいうような強烈な見出しだった。

 前出・識者が伝えるように慌てず焦らず敏感に反応せず、が消費者の賢い立ち回り方なのかもしれない。