三陸鉄道では『あまちゃん』の世界さながらの、お座敷列車に乗れるイベントも。今年12月からは、こたつ列車の運転がスタート!

『あまちゃん』ロケ地は今も大人気

 話題のドラマやアニメの舞台、ロケ地を訪ねる“聖地巡礼”。いまやブームを経て旅の楽しみ方として定着した感もあるが、いつごろから盛んに行われるようになったのか。

 全国のロケ地にまつわる情報を専門に扱う雑誌『ロケーションジャパン』編集長の山田実希さんはこう指摘する。

「昔からロケ地を巡る旅はありました。ローマへ旅行に出かけたら、オードリー・ヘップバーンがジェラートを食べたスペイン広場に足を運んだでしょうし、日本では映画『男はつらいよ』やドラマ『北の国から』のロケ地は人気でした。ただ、この10年あまりで注目度は大きく変わりました」

 そのはしりとなったのが、映画やドラマが大ヒットした『世界の中心で、愛をさけぶ』。映画版は香川県高松市、ドラマ版は静岡県松崎町がロケ地で、主人公2人の純愛に感動した多くの人が“聖地”を訪れ、そこからロケ地を観光に活用する『ロケツーリズム』が流行し始めたという。

「ただし、ロケ地となった影響で人が集まるのは一般の連続ドラマで3か月、NHKの朝ドラや大河ドラマなら1年続けばいいほう。その先は自治体の努力が必要です」(山田さん、以下同)

ドラマでは“北鉄”と呼ばれた三陸鉄道北リアス線

 なかには別格もある。NHK朝ドラのロケ地として根強い人気を誇り、山田さんも太鼓判をおすのが岩手県久慈市。

'13年4月~9月に放送された『あまちゃん』の舞台だ。

「なにしろ、劇中で女優たちが演じた海女と同じ格好の本物の海女がいて、リアルにドラマの世界がある。それに、撮影に使った小道具を展示するため、あまちゃんハウスを駅前に設置したり、いまでも年1回ファンの集いを開催したり、市長が先頭に立って『あまちゃん』を大事にしながら市の魅力をPRしています」

スタッフや出演者が数多く訪れた『らーめんの千草』は濃厚な鶏だしが魅力

 そんな地元の思いが伝わるのか、ドラマのファンから町自体のファンとなる人も多い。商店街のシャッターはイラストレーターやマンガ家が描いた「あま絵」で彩られ、劇中に登場する喫茶店のモデルで、出演者やスタッフが滞在中に足しげく通った「喫茶モカ」が豪雨で浸水被害に遭うと、遠方からファンが続々とやってきて片づけを手伝ったという逸話もある。

「近くにいい温泉もあり、三陸鉄道に乗って自然を感じるなど観光にドラマ以外の広がりも出てきて、行くたびに楽しいところです」

観光課はファンのために奔走

全国でも珍しい石積み造りの棚田が広がり昔ながらの板倉が点在する種蔵地域

 さらに、山田さんが「涙ぐましいほど頑張っている」と聖地巡礼の旅先にすすめるのが、岐阜県飛騨市。'02年の朝ドラ『さくら』のロケ地で人気となり、'16年には大ヒットしたアニメ映画『君の名は。』の舞台として、あらためて人々を魅了している。

「アニメなので撮影隊が来ず、市内には映画館もないため、地元はモデルになっていると知らなかったんです。なのに突然、大勢の人がやってきて“(作中に登場した)図書館はどこ?”と聞くので、街の人は大あわてだったそうです」

 一方で観光課の担当者は試写や遠方の映画館、地元上映会などで計8回、作品を鑑賞。この場面はあそこ、あの場面はここでは、と自力で場所を探し当て、訪れるファンに楽しんでもらえるよう対処したとか。

 なかでも、駅に止まる電車を見下ろすシーンを同じように写真に収められるよう、撮影場所となる跨線橋の窓の柵を間引き、そばに電車の時刻表を貼ったという心遣いには感心するばかり。

飛騨古川駅は再現写真の撮影スポット

「飛騨市は市民がていねいに町の掃除や手入れを行うので、いつもきれい。観光客にも温かくて、道を尋ねるとよければとお茶を出して一服させてくれることも。そんな土地や人に魅了されたリピーターがとても多い。最近では、海外からも映画の反響とともに、日本の原風景を求めて訪れる人が増えています」

 市の調べでは、『君の名は。』が上映された'16年の観光客数は100万人を突破、昨年は113万人超と過去最高に。いまだ高い人気を誇っている。

経済効果23億円!

 山田さんによれば、近年、警察や学校、病院などのシーンを撮影できる場所が枯渇し、制作者は頭を悩ませているという。そうした状況下で最近、引く手あまたの人気ロケ地となっているのが、千葉県いすみ市だ。

 きっかけは、'15年放送のドラマ『孤独のグルメ Season5』。実在する店の絶品メニューを取り上げる作品で、JR大原駅そばにある「源氏食堂」のメニューが登場すると、翌日には店の外に行列が! 

こちらが五郎’Sセレクション、ブタ肉塩焼ライスとミックスフライ(イカ、メンチ)

 騒ぎを知った市役所が対応したことから、ロケ地となれば町のPRにつながると気づき、翌年には市を挙げてロケ受け入れチームを組み、誘致やサポートに力を入れ始めたという。

スーツでキメて、主人公になりきる観光客の姿も!

「廃校や撮影可能な病院などがあって、今年9月までで出演本数66本、経済効果23億円と、かなりのスピードで実績を上げています」

 映画『昼顔』では地元の漁協も協力、大原漁港で大勢のエキストラを動員し、夏祭りのシーンを撮影した。また、今年のカンヌ国際映画祭で最高賞を受賞した『万引き家族』では、大原海水浴場が海辺での印象的なシーンの舞台に。ファンの巡礼先として、今後も期待できそうだ。

イケメンが訪れまくり!?

 さらには「イケメンが集まるまち」のキャッチフレーズで知られる聖地もある。ロケ地としてPRを展開、ブレイク中というのが神奈川県綾瀬市。市の担当者いわく、駅がなくて知名度も低く、高座豚というブランド肉も売れない。

 '20年に高速道路のインターができても素通り……、そんな悲壮感をもって始めたロケ地の誘致だったが、その取り組みは奏功しているよう。撮影に使われた作品は、ドラマ『コウノドリ』の綾野剛や小栗旬、『HiGH&LOW』の岩田剛典、『銭の戦争』の草なぎ剛をはじめ、伊藤英明や竹野内豊、渡部篤郎などイケメンのオンパレード!

「さすが自治体が率先しているだけあって、市役所が最も撮影が多いロケ地。『コウノドリ』では、病院の屋上や中庭のシーンを撮影しています」

 ユニークなのが、高座豚を使った豚すきのメンチカツを、必ず撮影隊に差し入れて宣伝していること。イケメンたちも食べている可能性大なので覚えておこう。

 ひとくくりに“聖地”といっても町によって雰囲気や受け入れ態勢はそれぞれ異なる。なにより大切なのは、そこで生活している住民に迷惑をかけないこと。心配りしながら、さあ、聖地巡りを楽しもう。