『週刊新潮』で報じられた芸能事務所社長による部下の男性への“壮絶”パワハラ問題が世間を震撼させている。'15年12月、渋谷区内で行われた芸能プロダクションの忘年会で煮えたぎるしゃぶしゃぶ鍋に顔を押し付けられる衝撃の動画が公開されるや否や、マスコミも一斉に報道。男性は現在も後遺症に悩まされ、社長に対し刑事告訴・損害賠償を求めて提訴するという。そんなお騒がせニュースに、放送作家でNSC東京校の講師も務める野々村友紀子が激怒している……!
煮えたぎる鍋に顔を…… ※写真はイメージ 

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 忘年会の季節ですね。お鍋の美味しい時期でもあります。特にしゃぶしゃぶ。お野菜もたくさん取れて女性に人気。私も大好き。しかし、残念なことに、これから数年は、みんなでお鍋をつつくたびに思い出してしまうのでは、というくらい衝撃的な光景がテレビで連日流れていましたね。そう、鍋に、顔。

「パワハラで芸能プロダクション社長が社員の顔を沸騰した鍋に突っ込んだ…? いやいや、そんなこと、人として無理やろ。“それ風”なだけやろ?」

 多くの人がそうだったように、私も最初はネットニュースの見出しだけを読んで目を疑いました。信じたくない気持ちもあったのでしょう。そして覚悟して動画を見た私から、思わず変な声が出る。「フェァッ!? ほんまにやってるやん! なんで? 何してんの!?」

芸人なめんな!

 当たり前すぎるけど、こんなことしたらあかんやん。小学生でもわかるやん。そして、言いたい。パワハラ社長、「おもしろいことしろよ」からのこの行動って、どういうことやねん。あれ見て誰が笑うねん! 変な声が出るだけや! どこがおもろいねん! 全然おもろないわ!

「おもしろいことしよう」から「あ、そうだ、鍋に顔入れたろ」って思いつきもせんわ。最悪、思いついても実行できるか! 

 どうせ、バラエティの熱々おでんや、熱湯風呂を見て安易に考えついたんやろうけど、勘違いしたらあかん。決して「熱い=おもしろい」ではないからな! そこに至るまでのプロのやり取りやリアクションという「芸」があってこそのおもしろさやからな! 

 極論、プロは、熱湯風呂じゃなく水風呂だろうが、いい湯加減の風呂だろうが、おもしろくできる! 痛くなくても、辛くなくても、おもしろくできる! それが「芸」や! そして芸人が安全に、よりおもしろく仕事ができるように、これまたプロのスタッフが支えとんねん! プロなめんな!! それをわかってないやつが、一部分だけ真似して、熱湯入ろうが辛子シュークリーム食べようが、どこまでもおもんないねん! 

 私も毎年、ママ友と焼肉忘年会をやりますが、いくらおもろいことが好きな私でも、いきなり熱い網に顔つけたりはしませんよ。そんなことしたらママたちドン引きなのが想像できるから。誰も笑わない地獄のドン滑りですよ。

 しかも翌日からご近所歩けばヒソヒソと後ろ指さされ、近所の小学生には「ラケットさん」とか、しょーもないあだ名で呼ばれて、多分数年後には尾ひれついて「ラケットさんにテニスの試合で負けたら同じ顔にされる」という雑な都市伝説として広まり、やがて探偵系の番組から調査されて、なんでこうなったのか調査員に理由を話しながら、「こんなことがおもしろいと思った女」として全国に恥をさらすことを激しく後悔するんです……ほら、ちょっと考えただけでもこんなとこまで想像できるのに、なんで?

 相手の身体や心に影響することを想像できない人間だとしても、「後で訴えられるかもしれない」「もしかしたら逆上した相手に鍋の中身をぶっかけられて返り討ちに遭うかもしれない」そんな自身のことも想像しなかったのでしょうか

 いろいろと言う人もいますが、こんなことが起こったのは、テレビのせいでも、バラエティのせいでも、もちろん芸人のせいでもないからな! だって、小学生でも「絶対やったらあかん!」ってわかることをやってんねんから。一緒にしたらあかん。

 だいたい、日本の会社の忘年会も世界的に見たら特殊らしいですね。いまだに参加強制で「何かおもしろいことをしなければいけないしきたり」のまま、おもんない下ネタまみれの忘年会をしている会社も、どうなん?

 毎年毎年、身を削る演(だ)し物が嫌で、どうやって忘年会を休むかが社員の悩みどころ……とか、一体誰のための忘年会や!

 美味しいお酒と美味しい料理で一年の働きをねぎらい合って気持ち良く新年迎えたらええやん。そりゃ、みんなノリノリで、全員最高のネタでおもしろかったらええけど、そんなわけない

 今年やったらどうせ全国各地で「下ネタひょっこり」が横行するだけやろ! ハッキリと見えるわ! ひょっこりはんの顔写真を会社のコピー機で一生懸命縮小カラーコピーして、試行錯誤してズボンのチャックから音に合わせてスムーズにひょっこりさせる練習をしているサラリーマンたちの悲しい背中が、そこにあるかのようにハッキリと見えるわ! もうそろそろ、その年に流行った芸人のギャグをおもんなく下ネタアレンジすることを法で禁止したらどうやろうか。

 さあ、「平成」最後の年末ですよ。今年は、みんなが楽しい忘年会にしましょ!


プロフィール

野々村友紀子(ののむら・ゆきこ)                      1974年8月5日生まれ。大阪府出身。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属の芸人、2丁拳銃・修士の嫁。 芸人として活動後、放送作家へ転身。現在はバラエティ番組の企画構成に加え、 吉本総合芸能学院(NSC)の講師、アニメやゲームのシナリオ制作など多方面で活躍中。著書に『あの頃の自分にガツンと言いたい(https://www.amazon.co.jp/dp/4863111959)』『強く生きていくために あなたに伝えたいこと(https://www.amazon.co.jp/dp/4863111584)』(産業編集センター)がある。」