引退会見には母・幸代さんと兄・栄利さんも同席した。親子ツーショットに笑顔の吉田

私の中学2年生になる長男をすごく可愛がってくれているんです。彼はレスリングの選手になりたいというより、おじいちゃんみたいになりたいと言っています

 1月上旬、三重県津市の自宅前で快く取材に応じてくれたのは、吉田恵理子さん。1月10日に引退会見を行ったレスリング女子・吉田沙保里の兄嫁だ。

 吉田といえば、3度の五輪と世界選手権を合わせて16大会連続で世界一となり、'12年には国民栄誉賞を受賞した女子レスリング界のレジェンド。地元でも英雄的存在でありながら、誰からも愛され、慕われていた。

「ピアノを弾けても強くならない」

「沙保里ちゃんのことは小さいころから知っていますよ。私を見つけると、いつも大きな声で挨拶をしてくれるんです。“おばあちゃ~ん、元気?”って。彼女のお父さんが自宅で道場をやっていたので、この辺りでは昔から有名でしたよ」(近所に住む女性)

 吉田がレスリングを始めたのは3歳のころ。元日本王者の父・栄勝さんのスパルタ指導のもと、頭角を現していく。

吉田さんの自宅には22畳のマットがあり、年中休みなしで練習に打ち込んでいました。彼女がピアノを習いたがると、父親から“ピアノを弾けても強くならない”と言われたそうです。

 小学生のとき、母親に“私もオチンチンがほしい”とせがんだという話があるほど、男勝りで負けず嫌いの性格でした」(スポーツ紙記者)

 トレーニング漬けの日々で、中学生のころにはすでに背筋力が男性平均値の倍近くあったという逸話も残っている。

 父仕込みの“高速タックル”が花開いたのは、高校2年生のとき。世界選手権で金メダルを獲得したのだ。

 栄勝さんの昔からの知り合いで、『焼肉 味よし』を営む花村博志さんはこう話す。

「30年前に店を出したときから栄勝さんはよく家族で利用してくれていました。沙保里も小さいときから来ていましたが、レスリングをやっているとは知らなくて……。彼女が高校生で金メダルをとって、周りが騒ぎだして初めて知りました(笑)

 彼女の母校・津市立一志中学校に勤務していた服部滋教諭にも話を聞くと、

「吉田さんは、一志中学に世界選手権でとった金メダルを持って来てくれました。当時から明るい性格でしたが、中学生のときよりオーラが出ていましたね。生徒の前で凱旋演説もしてくれました」

 '04年、吉田はアテネ五輪を制すると、栄勝さんに大きな贈り物をしたという。

地元では“沙保里御殿”は有名。もともと古い家があって沙保里ちゃんも高校生まで住んでいたんですが、彼女がアテネで金メダルをとったあと、両親のためにこの家を建ててあげたんです。親孝行な娘ですよね」(前出・近所に住む女性)

 その後、'08年に連勝は119でストップしたが、同年、北京五輪でも金メダルを獲得。さらに、'12年のロンドン五輪では、“旗手は金メダルをとれない”というジンクスを破って、五輪3連覇という偉業を達成した。

 そんな中、吉田を不幸が襲う。'14年3月、今までセコンドとして彼女を支え続けてきた父・栄勝さんが急死したのだ。61歳の若さだった─。栄勝さんの通夜に訪れた前出の花村さんも、「沙保里のげっそりとやつれた姿が今でも忘れられない」という。

 精神的支柱を失った吉田は、'16年のリオ五輪決勝で敗れ、五輪4連覇を逃す。10日の会見に同席していた母・幸代さんもこう話す。

「主人がいたらな……と、思うときはありました。リオのときも主人が横にいたらどんなアドバイスや行動をするのかなと思ったりもしました。でも、亡くなった人は戻ってこない。これからは自分で考えていかないとダメだと沙保里も考えていたと思うし、亡くなった主人を今でも家族全員が心の支えにしています」

 リオの敗戦は、吉田の脳裏に初めて“引退”という言葉をよぎらせたという。

「リオ五輪が終わったあとにあの子も私たちもすごく泣いて。でも、4回も五輪に出られたことは家族にとっては夢のような話でした。金メダル3個と最後はとてもきれいなプラチナの銀メダルをいただいて、そこでもう納得しました。でも、本人が頑張る気持ちがあるなら私たちも応援する気持ちもありました」

 だが、昨年の初夏に“'18年の試合には出ない”と幸代さんに伝えた吉田。

「それを聞いて、“そろそろ引退したら?”と言ったんです。彼女は“東京五輪はとても魅力的なんだよね”と話していました。応援してくださったみなさんへの恩返しは、東京五輪で自分が活躍する姿を見せることだからって。でも、やはり彼女から“そろそろかな”という言葉があって……」

 引退を決意させたのはリオの敗戦だけでなく、甥っ子の吉田汰洋くんの存在も大きかった。甥っ子たちを溺愛する吉田がこの年末年始の帰省の際に立ち寄った衣料品店『げんきんどう』一志店の店長・加藤浩司さんによると、

「吉田さんは1月3日に、義理のお姉さんと甥っ子さん、姪っ子さんと来られましたよ。子どもたちの洋服やファンシーグッズ、おもちゃも含めて合計2万円以上、購入していただきました」

 恵理子さんが語る汰洋くんの熱い思いも─。

息子はレスリングの選手になりたいというより、おじいちゃん(栄勝さん)みたいになりたいと言っています。つまり、指導者になって道場を継ぎたいんです。沙保里も彼には期待していますね

 “レスリング”という吉田にとって、かけがえのないものを与えてくれた栄勝さん。その遺志を脈々と受け継いだ甥っ子の存在。次の世代へとバトンをつなげたからこそ、吉田は引退会見で“自分はやりきった”と言いきれたのだろう。恵理子さんに、吉田の結婚についても聞くと、

結婚の予定はまったくないですね。彼女はひとつのことしかできないタイプ。今まではそれがレスリングでしたが、もし彼氏ができたなら恋愛に没頭してすぐにわかると思いますよ。
 しかも、恋人選びにも彼女なりのこだわりがあって、友人からの紹介とか嫌がるんですよ。あくまで自分で見つけたいようです

 “結婚にも父直伝の高速タックル!”と期待したいところだが、霊長類最強の女子が進む次のステージも、きっとまぶしく輝くに違いない。