クリスタル・ケイ 撮影/森田晃博

 個性派シンガーとして、これまで数々のヒット曲を送り出してきたクリスタル・ケイさんが、初めてミュージカルに挑戦する。その作品が、ブロードウェイでセンセーションを巻き起こした『ピピン』の新演出版。

 本場の一流クリエイティブ・チームが来日して創りあげる話題作だ。初めてというのが意外すぎるほどミュージカルの世界になじんで見えるクリスタルさんだが、この初挑戦へと彼女を導いたのは、ピピン役で共演する城田優さんだったそう。

この役との出会いは
運命的な縁なんです

優とは10年来の友人なのですが、2年ほど前、いきなりラインで誘われまして。“再来年、僕とブロードウェイ・ミュージカルやらない? 本場の人たちと”って(笑)。最初は“何それ、やったこともないのにハードル高すぎでしょ”と言ったら“クリならできるよ”と言う。“ちなみに作品は何?”って聞いたら“『ピピン』だよ”と。それを聞いたとき鳥肌が立って、運命を感じました

 なぜなら『ピピン』こそ、クリスタルさんがニューヨーク滞在中に観劇し、衝撃を受けた作品だったのだ。

「とにかくめちゃくちゃ面白くて“こんなにいろいろな要素が入っている作品があるんだ!”と驚きました。踊りだけでもスタイリッシュですごいのに、アクロバットもサーカスの要素もあって、ダークな部分もある。でも笑えるし、エロさもあって“こんなミュージカル初めて見た!”って大感激。

 特にリーディング・プレーヤー役のパティーナ・ミラーさんが素晴らしくて。しかも見た後、黒ずくめの服でシアターの外に立っていたら、お客さんにパティーナさんと間違われた(笑)。その5年後にこの役がくるなんて“これはご縁だ!”と思いましたね

 物語の中心にいるのは、「特別な何かになりたい」と自分探しをする若き王子、ピピン。彼を導く神秘的な存在が、クリスタルさん演じるリーディング・プレーヤーだ。狂言回しであり、ピピンのみならず作品全体を支配する、不思議な難役。

「ミステリアスで抽象的で、面白いけどコワい(笑)。ピピンを導くいい人なのかと思いきや“そうでもないかも?”と思わせるし。でも憎めない、不思議なキーパーソンです。演出のダイアン(・パウルス)さんからは“この役自体がパワーそのもの。

 パワフルにやって”と言われています。彼女がビビるなんてありえませんからね。そんなところはお客さまに見せられない。私の全人生でいちばん大きな挑戦ですけど、覚悟を決めました(笑)。

 すべてを仕切っている彼女は、キャラ的には私と違いますが、パフォーマーとしては重なるところがある。だから恥ずかしいとかコワいなんて感情は全部捨てて、完全にドSでいきます!(笑)

コンプレックスを
誇りに変えたNY

 クリスタルさんが『ピピン』を初めて見たのは、約2年にわたって日本を離れ、ニューヨークに拠点を置いていたとき。それはある意味、ピピンと同じく“自分探し”の道程だった。

クリスタル・ケイ 撮影/森田晃博

「アメリカのステージで音楽のチャレンジをしたくて、たくさんの曲を作ったり、ライブもやりました。演技クラスにも行って、コーチのすすめで“対人恐怖症克服コース”も受けたんですよ(笑)。そこで勇気をもらえた気がします

それまでのクリスタルさんは自分のアイデンティティーについて苦しみ、いざというときにハッタリをかませない自分に悩んでいた。

私は日本で生まれ育ったんですけど日本の血が一切入っていなくて(父はアメリカ人、母は韓国人)、ずーっとコンプレックスを抱えていたんです。

 でも、ニューヨークはいろいろな人種の人が夢をつかみに集まっているところ。すごく厳しいし、自分をしっかり持っていないと置いていかれます。そしてユニークさが評価されるから“君はほかの人より何がすごいの?”と、よく言われる。日本だとコンセンサスが大事にされますよね。“出る杭は打たれる”というから周囲と合わせようとするマインドが私にもあって。

 そういうコンプレックスで縮こまっていたんです。でもニューヨークでそういうことを話すと“何言ってるんだ君は。3つのカルチャーを背負っていて、日本ではちゃんとキャリアを築いているんだからすごいことじゃないか、もっと誇りを持つべきだ”と言われて。“そうだよな”って思ったんです(笑)。

 そういう切り替え方が、日本ではなかなかできなかった。母はいつも言うんです、“ふざけるんじゃないわよ、どれだけ恵まれていると思ってるの!”って(笑)」

 そのとおり。もともと歌えて踊れるうえ、一流のスタッフがリードしてくれる今回の現場で演技力をつけたクリスタルさんは“鬼に金棒に日本刀”くらい強力なエンターテイナーになっていそう。

「本当に、得るものしかないな、と。これができたらコワいものはないですね。だから、最高のリーディング・プレーヤーにします!」

 その先に、クリスタルさんが見ている夢とは?

「いまはどんどん世界が国際化していますよね。来年は東京オリンピックだし、国と国とのボーダーが薄くなってきていると思うんです。だから私は、世界の架け橋になりたい。それは音楽でかもしれないし、こういうミュージカルか、映画かもしれない。演技にもすごく興味が湧いているので、どのジャンルであれエンターテイメントで架け橋になりたいな」

ブロードウェイ・ミュージカル『ピピンPIPPIN』

<出演情報>
ブロードウェイ・ミュージカル『ピピン PIPPIN』

スティーヴン・シュワルツが作詞・作曲を手がけ、自分探しをする王子の旅路を描いたミュージカル。1972年の初演では、鬼才ボブ・フォッシーが演出と振り付けを手がけトニー賞5部門に輝いた。そして2013年、フォッシーのスタイリッシュなダンスにマジカルなサーカス・アクロバットを掛け合わせたダイアン・パウルスの新演出が大評判をとり見事、トニー賞4部門を受賞。この新演出を手がけたクリエイティブ・チームが再集結、来日して挑むのが日本人キャスト版『ピピン』だ。6月10日~30日 東急シアターオーブで上演。その後、名古屋、大阪・静岡公演あり。
お問い合わせはキョードー東京。詳しい情報は公式HP(http://www.pippin2019.jp/)へ。

<プロフィール>
くりすたる・けい◎1986年2月26日、神奈川県生まれ。'99年、『Eternal Memories』でデビュー。'05年にはドラマ主題歌の『恋におちたら』が大ヒット、’07年にアルバム『All Yours』がオリコン初登場1位を獲得する。'13年、『DANCE EARTH~生命の鼓動~』で初めて本格的な舞台に立った。その後、ニューヨークに拠点を移しての2年間を経て、'18年にはアルバム『For You』、ドラマ主題歌『幸せって。』などで話題の的に。来年6月には2作目のミュージカル『ヘアスプレー』で渡辺直美と共演の予定。

<取材・文/若林ゆり>